2026.05.27
社員や会社を成長させるために評価制度を導入したものの、結果的には失敗に終わってしまう。そんな企業が少なくありません。評価制度の失敗には、おもに2つの理由が考えられます。人事評価をするすべてのマネージャーの必携書『この1冊ですべてわかる 人事評価の基本』(西尾太/日本実業出版社)より、評価制度における2つの大事なポイントをお伝えします。

人事評価とは、人を成長させ、企業を成長させるための仕組みです。「何を知らないのか」「何ができていないのか」を社員が自分自身で認識できれば、知らないこと学ぶことができるし、できないことを練習してできるようになります。個人の成長は、企業の成長に直接つながります。
ところが、評価制度を導入しても形骸化してしまう、退職者が増える、社員のモチベーションが低下するなど失敗に終わってしまう企業も少なくありません。これには、おもに2つの理由が考えられます。
1つは、評価方法です。人事評価制度では、「人の何を評価するのか」によって評価の仕方が変わってきます。企業で行われている評価制度の大半は、次の3つの考え方が基本になっています。
(1) 能力主義
社員の仕事をする「能力」に対して給与を支払う考え方
(2) 成果主義
社員が出した「成果」に対して給与を払う考え方
(3) 行動主義
社員がとった「行動」に対して給与を支払う考え方
日本の会社の多くが採用しているのは、「能力主義」(能力評価)ですが、実は根本的な問題が潜んでいます。能力評価では、社員を「〇〇ができる」という基準で評価することになりますが、能力は目には見えません。では、「できるかどうか」をどのように判断するのでしょうか。
「できるかどうか」の見極めは、非常に難しいものです。その結果、「〇〇ができるであろう」という推測による“中庸な評価”になりがちという問題が起こります。
また、人が能力を持っているかどうかを直接的に判断することはできません。そのため多くの企業では、「年齢や勤続年数を重ねれば能力も高まる」という考え方に基づいて、長く働いた人ほど給与が高くなる「年功序列」とほぼイコールの考え方で評価制度の運用を行うことになります。
しかし、それで本当に能力を「評価」していると言えるのでしょうか。社員や会社は成長するのでしょうか。本音を申し上げると、私は「能力評価は不可能」と考えています。なぜなら能力は見えないのですから。だから結局、評価制度そのものが形骸化していってしまうのです。
仕事をしていく上での知識やスキルは大切ですが、「能力」は保有しているだけでは意味がありません。能力は、発揮されてこそ意味があるのです。
もちろん能力を評価する方法もないわけではありません。筆記試験、面接試験、実技試験などで、その能力の存在を確認することはできます。また、これらのテストを企業の昇降格試験に用いることもあります。
しかし、日常の業務において評価が可能なのは、“発揮された能力”として実際に目にすることができる「行動」と、その結果としての「成果」だけなのではないでしょうか。
「能力」は目には見えませんが、「成果」や「行動」は実際に目にすることができます。「成果」は、運や環境に左右されますが、「行動」は成果の再現性が予見できます。
具体的な行動は、その頻度や確度を直接的に評価することが可能なので、行動主義を能力主義の代わりとして用いたり、成果主義と組み合わせて運用している企業が多くあります。「能力があったとしても、それを行動で示さなければ評価しない」ということです。
成果主義の評価対象は、一定期間における成果・業績です。「成果」のみを対象にしている場合と、「成果につながる行動」も評価対象としている場合がありますが、成果は運や環境に大きく影響を受けることや売上以外は数値化が難しいとされていることから、現在は後者の考え方が中心になっています。
能力主義(年功序列)を採用している企業もまだまだ多くありますが、いずれにしても読者の皆さまにおかれましては、自社は「何」を評価しようとしているのかをご確認ください。
評価制度が失敗してしまう、もう1つの理由は「人」です。私は多くの会社で人事評価制度の構築と運用のお手伝いをさせていただいています。企業・組織によっては人事評価制度の運用がうまくいって、企業と人の成長につながっているケースもあれば、そうではないケースもあります。
この差が出てしまう原因の多くは、はっきり申し上げると(申し訳ないことですが…)、皆さま「評価者」によるものです。
成果や行動が十分でなくても「しのびない」と言って低い評価をつけていなかったり、目標を達成していないのに達成したような評価をしたり、逆に「運がよかっただけ」と成果の評価を下げたり、すべての評価項目を「A」などと同じ評価にしたり……。さまざまな企業で、このような評価者が多く見られます。
ですが、これではフィードバックされるほうは、たまったものではありません。メンバーは評価を受けても、「何の成長にもつながらない」とあきらめてしまいます。そして、評価者はそのあきらめを「それでいいんだ」と考えてしまいます。
そもそも評価のフィードバックすら行われていない企業もあります。メンバーは給与明細を見て、どんな評価だったのか想像している、という状況です。
また、評価結果の昇給・昇格への反映は、予定調和的に「そろそろ昇格させる時期だから」「まだ早いから」といった理由で、能力や成果、行動とは無関係に「なんとなく」決められています。
それでは意味がないのではないでしょうか。このような悪循環は、企業・人事部門・評価者、それぞれに問題があると考えられます。それでもよい職場もあるのかもしれません。「それで長年やってきたんだから」と。
しかし、それでは「評価」は何の意味もなさないものになってしまいます。制度は“道具”です。皆さまには、この道具をうまく活用して、メンバーと自身の成長につなげていっていただきたいのです。
私の新著『この1冊ですべてわかる 人事評価の基本』では、〈人事評価〉という道具の考え方と使い方を詳しく解説しています。こちらも参考にしてみていただければ幸いです。

『この1冊ですべてわかる 人事評価の基本』
西尾太(日本実業出版社)
「人事評価」をするすべてのマネージャーの必携書。本書を読めば、人事評価制度の意義と目的、評価者としての正しい態度・考え方、組織に合った評価指標の選び方、タスクマネジメントや目標管理の手法 、評価面談と評価会議の進め方、部下のポテンシャルを引き出すコミュニケーション方法などが一気通貫に理解できます。

人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?

中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。

ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!

テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。

人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
経営陣から下りてくる人事施策が果たして本当に人事ポリシーに則っているのか?
それを判断するのは人事の役目です。
そのために必要な「人事の人事ポリシー」とは?
人事が効果的な採用や配置をするための手段として
注目されている「人材ポートフォリオ」。
人的資源を可視化できるため、
どのような人材がどれぐらい必要かが見えやすくなります。
ではどのように活用すればよいのでしょうか。
人事担当者には、普遍的に求められるコンピテンシー、スキル、知識があります。キャリアステップごとにそれらを理解して身につけていくことは、これからますます大切になっていきます。今回は、人事担当者が最低限持っているべき4つのコンピテンシーを紹介します。
コロナ禍で否応なく進む在宅勤務制度。しかし、その一方で接客業など、どうしても出勤が必要な職種があるのもまた確かです。同じ社内に在宅勤務ができる職種、できない職種が混在している場合、しばしば人事に寄せられるのが「自分は(職種上)在宅勤務ができないのに、同じ社内で在宅勤務している人がいるのは不公平だ!」という声。 さて、そうした声が起こる理由は何なのか?人事担当者としてはどのように対処すべきか考えてみましょう。
人手不足になってから採用を進める補填的人事はおすすめできません。
そもそもなぜ退職者・離職者が多い会社が出てきてしまうのでしょうか?
そして、補填的採用ではない対処法としては、どういったものがあるのでしょうか?
人手不足の解消は、多くの人事にとって切実な課題となっています。人材を確保する手段は、正社員だけではありません。それは「正社員」でなければならないのか。人事担当者は、慎重に検討しなくてなりません。正社員雇用の際には、「留意すべきポイント」があります。
採用担当者が就職活動にやってきた応募者に好印象を抱いてもらいたいと思うのは当然の気持ち。しかし、多数に嫌われようともターゲットを見定めてアピールすることも必要なことです。
人事部門が優れている企業ほど、業績がいいことをご存知でしょうか。人事担当者の優劣は、実は企業の業績や成長力に大きく影響しています。では、優れた人事担当者を育てるには、どのような教育が必要なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事向けの研修に必要なカリキュラムを解説します。