日本企業はなぜ年功序列から脱却しなければいけないのでしょうか? 90年代のバブル崩壊からながらく脱年功序列、脱日本型雇用が掲げてられていましたが、結局ほとんどの企業は年功序列を脱し切れていません。企業を破滅に導く「年功序列」の弊害を改めて考えてみましょう。 総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、年功序列の現状と課題についてお伝えします。

3年ほど前になりますが、“NEC「新卒年収1000万」の衝撃 年功序列の廃止か、「3流国への没落」か”という記事が話題になりました。NTTコミュニケーションズでは、専門職を対象に新しい人事制度を作り、最高ランクは年棒3000万円になる可能性もある、という話でした。
このニュースは、年功序列を廃止し、パフォーマンスと給与を一致させる新しい動きとして注目されましたが、2022年になった現在でも、多くの企業はこうした仕組みになっていません。
出典:ITメディアビジネス「戦略人事の時代」
同記事ではこのように指摘していましたが、日本の給与は韓国にも抜かれ、現在では主要先進国で最低レベルとなっています。円安ですし、もはや3流国といっていいでしょう。
その諸悪の根源が、年功序列です。終身雇用・年功序列・企業内労働組合、もしくは新卒一括採用が日本型雇用慣行と呼ばれており、90年代のバブル崩壊以来、脱年功序列、脱日本型雇用慣行が掲げられてきました。しかし30年経った現在でも、日本はこうした慣習から脱し切れていません。
ここ数年「ジョブ型、ジョブ型」と大騒ぎをしたり、黒字リストラをする企業が増えているのが何よりの証拠でしょう。年功序列を廃止し、パフォーマンスと給与を一致させる仕組みができていれば、ジョブ型に変える必要はなく、中高年に早期退職・希望退職を迫る必要もなかったのです。
年功序列には様々な弊害がありますが、雇用面だけに絞ってみても、大きく3つのデメリットがあります。1つは、50代社員を苦しめることです。
コロナ禍以前から黒字リストラをする企業が急増しているのは、中高年の給与が高いからですよね。年収とパフォーマンス、勤続、経験などがイコールであればいいのですが、多くの場合、そうはなっていません。定期昇給によって年齢や勤続を重ねるごとに年収が上がり、パフォーマンスより給与が高い40〜50代が増え続けています。
現在の日本人の平均年齢は49歳。40代から50代が人口の最大のボリュームゾーンになっています。定年も延びており、やがて70歳になるでしょう。今の40〜50代に今後も20年、30年と高い給与を払い続けていったら、企業は立ちゆかなくなります。だから早期退職や希望退職を募って黒字リストラをしているわけです。この点だけを考えても、年功序列はもう無理なんです。
それにもかかわらず、多くの企業では年功序列や定期昇給を続けています。人事制度の改革は時間も手間もかかるため、手っ取り早くリストラをして中高年を減らしている。そうではなく、年功序列を廃止し、パフォーマンスと給与を一致させる。給与は年齢にかかわらず、上げるべき人は上げ、下げるべき人は下げる。そうすれば、黒字リストラなんてする必要ないのです。
たとえば55歳の社員がお給料なりのパフォーマンスだったら、切る必要はないはずですよね。なにしろ日本は人手不足なのですから。なのに年功序列を脱していないから、年齢だけを理由として45歳や50歳以上に退職勧奨している。それ自体がおかしいです。50代社員を苦しめ、不幸を生むリストラを増やしている。これが年功序列の弊害のひとつです。
2つ目の弊害は、若手の希望を奪うこと。日本企業では、若手の給料は低く抑えられ、年を取ったら高くなる「後払い型」の給与制度が一般的です。定期昇給によってパフォーマンスとは関係なく、給与が自動的に上がっていきます。
給与の原資は限られています。パフォーマンスにかかわらず高い給料をもらっている40〜50代が多くいるために、若手のエースでも給料は安く抑えられているわけです。
若手は、パフォーマンスを上げても給料は上がらない。年を取らないと給料は上がらない。一方で、パフォーマンスの低いおっちゃん・おばちゃんたちは、自分の何倍もの年収をもらっている。若手は当然、「やってられないよ」と感じます。
いろいろな会社で昇格の話をしていると、よく聞くのが「まだ早い」という言葉です。「この若手、評価が高いのに昇格させないんですか?」「まだ早い」「抜擢してもいいんじゃないですか」「まだ早いよ」といった事例が多く、給与だけでなく昇格に関しても年功序列になっています。
今の若手は、転職するのが当たり前です。「まだ早い」なんて言っていると「そんなの待ってられないよ」と言って、優秀な若手ほど辞めていってしまいます。
モノの値段は、価値によって変動します。肉も魚も、その時の価値によって値段が変わりますよね。吉野家の牛丼だって社会情勢によって値段が変動します。なぜ人の給料だけが定期的に上がるのでしょう。給料だって、価値が上がれば上がるし、価値が下げれば下がるはずです。
給与は、年齢を問わず、パフォーマンスと一致させた「時価払い」にする。いい人材には、いい給料を払う。下げるべき人は下げる。「まだ早い」と言っているうちに若手はいなくなります。
3つ目の弊害は、「新卒のいい奴を採れない」です。日本は少子高齢化が顕著で、企業にとっては採用難が、新卒にとっては売り手市場が長く続いています。これは今後も変わらないでしょう。
Z世代と呼ばれる今の若者は、SNSによって膨大な情報を収集しています。若手の希望を奪う会社に、引く手あまたの新卒がわざわざ入ろうと思うでしょうか?
50代は黒字リストラによってやる気を削ぎ、中堅社員も「ああ、45歳を超えると退職勧奨されるんだ」とモチベーションを下げ、若手も「40歳にならないと給料が上がらないんだ」と会社を去る。たとえ新卒が採れても、優秀な人材から辞めていきます。
その一方で「会社にしがみついていれば給料は上がっていくし、今の給料を維持していけば暮らしていけるかな」ぐらいのモチベーションの働き手だけが残ります。
年功序列を続けていても、何もいいことはありません。もはや無理であることはみんなわかっているのに、やめられない。手の付け方が弱い。それが日本企業の現状です。
コロナ禍によって時代が大きく変わろうとしています。これから物価も上がっていくでしょう。年功序列も定期昇給も、もう無理なのです。「今のままじゃダメなんだ」ということをしっかり認識し、少々荒療治でもパフォーマンスと年収を一致させることをやらなきゃいけない。
年功序列を放置していたら、会社は着実に破滅に向かいます。今すぐにでも改革に取り組む必要があるのではないでしょうか。次回は、その方法についてお伝えします。

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働き方が多様化する中、週休3日制を導入する企業がでてきました。週休3日制は企業側としてメスを入れにくい「人件費」という大きなコストの削減を、印象を悪くすることなく実現する事ができます。また、社員側としても「会社以外で、他のキャリアを積むことが出来る」というメリットがあり、一見双方にメリットが有るように感じる施策です。さて、今回は、「週休3日制」のメリット、デメリットについて検証してみます。人事担当者は週休3日制を「どうやって運用」していくべきなのでしょうか?
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この状態ではどんな施策を打っても現場で働く社員との溝は深まるばかり。
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ブレる人事制度を生み出さないためには、人事ポリシーの策定が欠かせません。