2021.09.24
将来、さまざまな分野でAIが人間に代わり適切な判断をしてくれる時代が来るでしょう。人事も同じでAIを取り入れて人事評価を行う時代が来ると言われています。人事部は今後なくなるのでしょうか?そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、AIと人事の今後について解説します。
人事におけるAI活用の動きが広まっています。2020年1月には防衛省が人事評価や異動にAIシステムの導入を発表。同年5月には、ソフトバンクが新卒採用選考における動画面接にAIシステムを導入開始。12月には、松屋フーズホールディングスが正社員の店長昇格試験でAI面接を採用したほか、同じく牛丼大手の吉野家も2019年春から関東の約400店のアルバイト採用にAI面接を採り入れているといいます。
デジタル人事と呼ばれる、デジタル技術やデータを活用して人事プロセスを改善し、生産性向上をはかる企業も増えています。AI(人工知能)、ビッグデータ、クラウドなどの先端テクノロジーを駆使して、採用・育成・評価・配置のあらゆる人事業務を効率化させ、質の向上を目指すサービス“HRテック”のツールも開発されています。
AIにエントリーシートや履歴書を読み込んで評価をさせたり、スケジュール調整をさせたりする企業も増えてきました。「誰がどのような仕事に向いているか」といったことを機械学習させれば、データによる統計によって、異動・配置にも適切な回答を導き出すはずです。客観的なデータを収集するためのAI活用は、今後も増えていくでしょう。
しかし、少なくとも現時点においては、最終的な判断は人間が行うべきでしょう。例えば、異動・配置に関していえば、本人の希望をすべて聞き、部署とも相談し、異動を実現しても、結果的にうまくいかず、辞めてしまった、というケースは少なくありません。
AIがこうした事例を振り返り、「もっとこうしたほうがよかったんじゃないか」と人間のメンタルにも配慮した回答を導き出せるでしょうか。一定の統計に基づく判断においては、AIを活用して効率化したほうがいいでしょう。しかし人事における最終判断は、やはり人がちゃんと痛みを感じながら行うべきではないでしょうか?
AIによる人事評価も、国内事例が少なく、まだ未知数です。IBMでは、2019年8月にAIを活用した人事評価ツール「IBM Compensation Advisor with Watson」(Watson)を導入しました。しかし2020年4月には、日本IBMの労働組合である「JMITU日本アイビーエム支部」が、Watsonを利用した人事評価は「ブラックボックス化し透明性に欠けている」と、その判断基準に関する情報開示を求めました。
日本では景気が悪くなると、人事部不要論が広まります。1990年代にバブルが崩壊し成果主義がブームになったときにも「年功序列や終身雇用ではなくなるのだから従来型の人事部はいらない」という考え方が脚光を浴びました。しかし、その後、人事部を廃止したほとんどの企業がいつの間にか人事部を復活させています。
現在もコロナ禍による不況に加え、AIの進化によって「人事部は必要なくなるのでは?」といった見方が一部で広まっています。しかし、その一方で、ビジネスパートナーHRに注目する企業も増えています。ビジネスパートナーHRとは、事業部門の経営者や責任者のパートナーとして、事業成長を人と組織の面からサポートする役割です。
日本ではローテーションの中に人事を組み込み、「営業→経理→人事」といった異動を繰り返すため人事のプロがなかなか育ちませんが、外資ではビジネスパートナーとしてのヒューマンリソース担当者を育てることに注力しています。また、CHRO(最高人事責任者)がいない、あるいは廃止した欧米の先進企業もあまり聞いたことがありません。
人事とは、採用、配置、制度、教育、管理などをすべて見据え、考え、理論立て、提案し、失敗し、後悔しながら、より良く改善していく、人のことだけを考える部門です。採用の先には、その人の人生があり、配置の先には、その人のキャリアがあります。そして採用・配置・評価・育成・給与・問題対応は、すべてが繋がっています。今の段階では、AIがこれらすべてを代行できるとは考えられません。
現場の社員は、日々のタスクに追われています。中長期的に物事を見て、人の育成や配置、処遇を考える、人のことだけを考える部門は、やはり必要です。たとえ将来、AIが人事評価を担うようになったとしても、「どのような点を評価するのか」などの評価基準を決め、AIに指示するのは人になるでしょう。その判断をするための人事部がなくなることはないのではないでしょうか。
ただし、AIによって今後不要になる人事機能はあるでしょう。人事領域を「管理する人事」と「企画する人事」に大別するとしたら、「管理する人事」はAIで稼働するロボティックプロセスオートメーション(Robotic Process Automation)、通称RPAだけでも十分に対応できます。給与計算やルーチンの事務作業などは、今後はRPAが担っていくはずです。
また、「経営がこう言っているから、これやって」と伝えるだけの“御用聞き人事”も不要になるでしょう。最終的な判断は経営がするとしても、「そういう場合、こういうリスクがありますけど、いいんですか?」と示唆をしたり、提言をすることが人事の重要な役割です。経営が言ったことをそのまま伝えるだけなら、AIで十分です。
人事なりの判断や考え、信念を持って、経営や現場とも戦う。自分たちの意見を押し通すだけでなく、相手の話も傾聴し、人事施策に活かしていく。これが人事担当者に求められる役割であり能力であり、AIには代替不可能な、人間にしかできないことです。
人事において最も大事なのは、共に働く人への「想い」があるかどうか。「ここで成長してほしい」「世の中で通用する人になってほしい」「いきいきと働いてほしい」「安心して働いてほしい」、そんな想いを実現するために、あらゆる人事施策があります。
これはAIが持ちようのないものです。そんな想いをかたちにできる「企画する人事」は、今後とも必要とされていくはずです。その想いを実現するためにAIと共生していく。これが、私たちが目指すべき未来ではないでしょうか。
※参考
人事評価制度におけるAI活用のトレンドとは?活用する際の3つの注意点
https://news.mynavi.jp/article/20210705-1914896/
「あなたの面接官はAIです」 ベテラン人事の評価ノウハウをAI化した、AI動画面接の仕組みをギリギリまで聞いてみた
牛丼大手にも広がるAI面接 評価に踏み込む日は来るか
https://www.asahi.com/articles/ASP8V3PXHP84ULFA014.html
HRテックを活用して人事部のデジタル化を推進する方法
https://www.docusign.jp/blog/everything-you-need-to-know-about-digital-hr-and-hr-tech
AIを使った人事評価は「ブラックボックス」 日本IBMの労組が反発、学習データなど開示求める
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2004/10/news128.html
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
日本企業はなぜ年功序列から脱却しなければいけないのでしょうか? 90年代のバブル崩壊からながらく脱年功序列、脱日本型雇用が掲げてられていましたが、結局ほとんどの企業は年功序列を脱し切れていません。企業を破滅に導く「年功序列」の弊害を改めて考えてみましょう。 総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、年功序列の現状と課題についてお伝えします。
約70%の企業が副業を禁止していると言われています。
そもそも副業はなぜ禁止されているのでしょうか?
副業のメリット・デメリットや
これからかかせない”副業制度”導入に必要なポイントを説明します。
新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した企業による「内定取消」。 「よく耳にするから」「経営が厳しいからしかたない」とよく考えずにその選択肢を選んでしまっていませんか? 今回は「内定取消」に至る前に人事担当者がどのような認識と覚悟で向きあう必要があるのかお伝えします。
人事ポリシーを適切に運用できている企業は、
残念ながらそれほど多くないというのが現状です。
ではなぜ、せっかく策定した人事ポリシーを活かすことができないのでしょうか?
年功序列の処方箋としてブームになった成果主義やジョブ型雇用で、日本企業は本当に「脱・年功序列」を実現できるのでしょうか? 多くの企業はポリシーを持たずに、小手先の手法を取り入れて痛手を負っています。手法の導入だけに走った企業はどうなってしまうのか、改めて考えてみましょう。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、年功序列を脱するための方法についてお伝えします。
経営陣から下りてくる人事施策が果たして本当に人事ポリシーに則っているのか?
それを判断するのは人事の役目です。
そのために必要な「人事の人事ポリシー」とは?
人事異動は、多い人と少ない人がいます。また、多い人には2つのタイプがあります。どちらにしても人事担当者は戦略的に人事異動を行うことが重要です。今回は「人事異動シリーズ」第1回。『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事異動に関する基本的な心得を紹介します。
人事担当者の中にも、本業で培ったスキルを副業で活かしたいという方は多くいらっしゃいます。まずは、自分のスキルをアピールするためには「〇〇ができます!」と言えるように言語化しましょう。また、普段の仕事の中でも「自分は外でどんな価値提供ができるか」を想定することは、自分のスキルを整理し上手く売り込むために重要なことです。