2024.07.29
新卒の3割は3年で辞めてしまう。これは昔から人事担当者の常識のようになっていましたが、近年は半年未満で辞めてしまう人も増えているようです。なぜ新卒はすぐに離職してしまうのでしょうか。実は「若い人が辞めていく企業」には共通する特徴があります。あなたの会社は大丈夫ですか?
新卒の3割は3年で辞めてしまう。これは昔から人事担当者の常識のようになっていましたが、近年は半年未満で辞めしてしまう人も増えています。なぜ若い人は早期退職をしてしまうのでしょうか。
レバレジーズ株式会社が運営するフリーター・既卒・第二新卒向け就職支援サービス ハタラクティブ( https://hataractive.jp/ )が、2019年~2023年に大学を卒業し、新卒で入社した会社を半年未満で退職した経験がある男女300名を対象に短期離職の実態を調査しました。この結果を見てみましょう。
出典:レバレジーズ株式会社「短期離職に関する実態調査」より
やはり新卒の約3割(26.2%)は、すでに退職していました。そのうち4.2%は入社してから半年未満で退職しています。なぜ、わずか半年足らずで離職してしまうのでしょうか?
出典:レバレジーズ株式会社「短期離職に関する実態調査」より
新卒で入社した会社を半年未満で退職した理由は、上記のような結果になっていました。「仕事内容が大変だったため(39.0%)」が最も多く、「職場の人間関係が悪いため(36.3%)」「残業や休日出勤が多かったため(28.0%)」「入社前に聞いていた条件と違っていたため(22.7%)」「ハラスメントがあったため(22.0%)」「社風や風土が合わなかったため(22.0%)」などが続いています。
退職した理由はそれぞれ異なりますが、実は若い人が離職する企業には共通する特徴があります。どうしたら若い人の離職を防ぐことができるのか。人事制度の観点から改善策を考えてみましょう。
若い人が辞めていく会社には、共通する傾向が見られます。それは「後払い型」の給与制度にしていること。給与制度には、大きく分けると「後払い型」と「時価払い型」の2つの考え方があります。
「後払い型」とは、若い時期はパフォーマンスや貢献度に対して給与を低く抑え、おおむね45歳以上で後払い的に給与水準を上げていく考え方。年功序列や終身雇用が基本になっていて、年をとると「住宅ローンや子どもの学費にお金がかかるでしょう」という生活保障的な考え方も入っています。
一方、「時価払い型」とは、成果主義などに代表される「いまのパフォーマンスに対して、いま払うよ」という考え方。昨今よく選択されているのは、こちらの給与制度です。
給与制度は、社員の「何」を重視して評価するのか、その評価をどのように給与や賞与に反映するのか、その企業の「人に対する考え方」を表しています。以下の図は、日本における代表的な評価・給与制度の考え方(主義)です。
成果・行動で評価する会社は「時価払い型」、能力・年齢・勤続・年功で評価する会社は「後払い方」が一般的です。(職務主義は、いわゆるジョブ型。職務に対して給与が払われます)
高度成長期以降、日本の給与制度は「能力主義」が基本とされてきましたが、人が能力を持っているかどうかを直接的に判断することはできません。多くの企業では「年齢や勤続を重ねれば能力も高まる」という考え方に基づいて、長く働いた人ほど給与が高くなる「年功序列」とほぼイコールになっていました。そのため「給与を下げる」ということは、あまり想定されていませんでした。
しかし近年になって、その弊害が様々なかたちで表れています。2019年頃から45歳以上を中心とした中高年の“黒字リストラ”とされる早期退職・希望退職を行う企業が増えてきました。その原因は「後払い型」にあると考えられます。社員が総じて高齢化し中高年の給与水準が上がってしまったため、パフォーマンスに対して年収が高い社員を企業が許容できなくなってきたのです。
若い人にしてみれば「パフォーマンスを上げても給与が上がらない」「45歳まで20年以上も低収入で我慢しなければならない」と思えば、できるだけ早く転職したいと思うのは当然かもしれません。
何を評価し、何に対して給与を払うのかは、その企業が最も大事にしている価値観(成果・行動・能力・年齢・勤続・年功など)によって決まるので、何が正解とは一概には言えません。
ただ、はっきりしているのは、年功序列をベースとした「後払い型」の給与制度が広まった昭和の高度成長期と令和の現在では、日本を取り巻く環境が大きく変わっていることです。
1950年代の日本人の平均年齢は20代、1960年代は30代でしたが、2020年代の現在では、ほぼ50歳です。かつての日本は働く世代がみな若く、経済も右肩上がりで成長している時代だったからこそ、「若い時期は給料が安くても年を取ったら高くなる」という後払い型の給与制度が可能でした。
高齢化が進み30年以上も経済が停滞している現在の日本では、後払い型の給与制度を維持していくのは困難です。少子化によって若い世代も減っています。若手の採用・離職防止という観点からも、成果や行動を評価し、「時価払い型」に移行していくことが必要なのではないでしょうか。
能力は目に見えませんが、行動は目で見て確認することができます。結果としては成果に結びつかなくても、成果につながる行動をしているのならば評価の対象にできます。評価・給与の考え方についてご相談を受けると、私も「行動+成果に対して給与を払う」ことをおすすめしています。
企業の目的は、価値を提供して対価を得ること。ならば、個人においても創出した価値と対価はイコールであるべきです。
ただし、若年層において過度の「時価払い型」にすると、人材育成に支障を来たす場合があります。実力主義という名のもとに、組織と人心が荒れてしまうケースもあります。「成果」だけを評価基準にしてしまうと、判断を誤りやすく、給与額の変動も大きくなりすぎるため、社員が安心して仕事に打ち込むことができなくなります。
給与には、安定感と躍動感が必要です。社員の「行動」と「成果」を大事にして評価を行い、基本給は「未来の成果に対しての投資」と考える。賞与は「直近にあげた成果・業績の精算」として考える。私はそれが理想的だと考えます。
上記の調査では、「仕事内容が大変だったため」が退職理由のトップになっていました。若い人が離職するのは給与だけが原因ではありませんが、「後払い型」は成果をあげても給与に反映されないため達成感が得にくくなります。それが仕事への不満の要因になっているのではないでしょうか。
「時価払い型」にすることによって、自分が頑張った結果を実感しやすくなれば、ただの「大変」ではなく、「大変だけど、やりがいがある」に変わるはずです。新卒や若手の離職を防ぐ1つの方法として、給与制度についても見直してみることをおすすめします。
次回につつく
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
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そのために必要な「人事の人事ポリシー」とは?
部下のやる気は、上司次第。管理職の言葉によって、社員のモチベーションが低下することも少なくありません。これは管 […]
人事部門が優れている企業ほど、業績がいいことをご存知でしょうか。人事担当者の優劣は、実は企業の業績や成長力に大きく影響しています。では、優れた人事担当者を育てるには、どのような教育が必要なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事向けの研修に必要なカリキュラムを解説します。
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注目されている「ジョブ型雇用」は、
すべての会社にとって有効というわけではありません。
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今回はジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用について、
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様々な企業で支給されている「手当」。
中には手当を求人の売りにしているのも見かけます。
手当に対する考え方を今一度見直してみましょう。