2021.09.15
部下とのコミュニケーションは、上司にとって普遍的な悩みです。人事評価のフィードバックでも「部下と何を話したらいいかわからない」という声を多く聞きます。そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、その解決策となる支援ツールを紹介します。
企業人事のお手伝いをしていると、管理職の方々から「部下と何を喋っていいのかわかりません」という声をよく聞きます。前回のコラムで「人事評価のフィードバックをしない上司は絶対にダメ」とお伝えしましたが、「そもそも、どのようにフィードバックすればいいのかわからない」という管理職も多くいます。
インターネットでも「フィードバック コメント 例文」といった検索ワードが出ています。そんな例文を探すほど、困っている管理職が多いということなのでしょう。
部下と何を話したらいいのかわからない。それは、評価制度に問題があるのかもしれません。
あるいは、評価制度がないことが原因かもしれません。
評価制度がない、あるいは評価項目がゆるすぎると、上司は部下に何を伝えたらいいのかわからなくなります。そうした会社の評価者向けの研修では、管理職が作成した評価シートを見ながら「なぜこの人は評価が高いのですか?」と質問しても「いやぁ、まあ、全体的に…」とか「社歴も長いし、頑張っていますので…」といった曖昧な回答が返ってくるケースがほとんどです。
また評価項目がゆるいと、上司の主観で部下を評価することになります。すると自分では客観的に評価しているつもりでも、どうしても「好き嫌い」が反映してしまいます。世の中で人事評価に対する不満が多いのは、この「上司の好き嫌いによる主観的な評価」への反感がかなりの割合を占めています。
逆に、細かすぎる評価制度も問題があります。これは外資系に多く、人事・総務・営業・経理など、職種ごとに評価項目を細かく分類しています。一見すると適切な評価ができそうですが、部下が多く、評価項目も多いと、評価作業に莫大な時間とエネルギーがかかり、管理職にとても大きな負担がかかります。
管理職にしてみれば、細かすぎる評価項目にうんざりして「ああ、面倒くさい、もういいや!」と投げ出してしまい、メンバー全員や全項目が「評価B」とか「可も不可もなく」みたいな、いい加減な評価をしがちです。細かすぎる評価制度は、実際には運用できないことが多く、形骸化するケースがほとんどです。
評価制度は、社員の良い点を伸ばし、改善すべき点を指摘し、より効率よく高い能力を発揮してもらうための仕組みですが、それと同時に管理職にとっての「コミュニケーションツール」にする必要があるのです。
私たちの会社では400社以上の人事制度の構築や見直しを行っていますが、評価制度は管理職の「支援ツール」だと考えています。日本の管理職は、ほとんどがプレイングマネージャーです。自身のプレイングに割く時間が業務の7〜8割を占め、部下とのヒューマンマネジメントに割ける時間には限りがあります。また、大半の上司が部下とのコミュニケーションに悩んでいます。
細かすぎる評価制度では、すべての項目をチェックするのは現実的に不可能です。ゆるすぎる評価制度では、上司は部下をどう評価したらいいのか、何を伝えたらいいのかわかりません。だからこそ必要なのは、適切な数の評価項目と、具合的なフィードバックがしやすい評価基準です。
私たちが提供している評価制度では、45項目のコンピテンシーを設定して、キャリアステップごとに求められる評価項目をお示ししています。例えば「チーフクラス」だったら、「動機づけ」「柔軟な対応」「スペシャリティ」「異文化コミュニケーション」「プレゼンテーション」「創造的能力」「目標達成」など7〜8個程度の評価基準を設定し、求める成果や行動も部下に伝えられるようにしています。
こうした評価項目を設定しておけば、上司は部下を客観的に評価しやすくなり、「メンバーの動機づけはできてる?」「プレゼンのスキルは上がった?」などと話のネタにもなるので、コミュニケーションもしやすくなります。そして、そうした会話が部下の人材育成につながります。
月に1回以上は、「評価シート」をもとに、コミュニケーションをしてください。
それこそが、人事評価を適正に行うことにつながるのです。
拙著『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)では、45項目のコンピテンシーと「OKな行動」「NGな行動」「チェックポイント」などを一覧にしています。よかったら参考にしてみてください。
評価制度は、人を罰したり、ダメ出しをするためのものではなく、人を成長させるための仕組みです。そして、部下を育成するのは上司の重要な仕事です。
残念ながらそういう意識を持っている会社はまだ少なく、「人事評価って本人に見せるの?」「フィードバックって何のためにやるの?」というご質問をよくいただきます。
人事評価は、上司と部下で共有し、成長や努力の方向性を掴むための指標としてください。フィードバックも、人を育てるために行います。評価項目一つひとつについて「ここはできてるね」「ここはもうちょっと頑張ろうね」と伝え、部下とのコミュニケーションを深めていきましょう。
フィードバックが必要なのは、評価結果を伝えるときだけではありません。半年や年に1回の人事評価や考課、査定のときだけでなく、1on1や日常の仕事においても、評価項目に沿ったコミュニケーションをして、良い点は褒め、改善すべき点は指摘していくことが重要です。
人事評価のフィードバックで、いきなり欠点を突きつけて、それを評価が下がった理由にするような行為は絶対にNGです。評価とコミュニケーションは表裏一体。普段から部下とコミュニケーションを取っていれば、人事評価のフィードバックは簡単に済みますし、たとえ評価が下がっても部下は納得感を得られます。
人には必ず凸凹があります。すべて「可もなく不可もなく」なんて人はいません。伸ばすべき点と頑張るべき点の両方を伝え、目標の達成率なども踏まえ、具体的な行動について指導する。普段から上司と部下でこのような会話ができていれば、社内全体のコミュニケーションも活性化していきます。
評価制度は、部下とのコミュニケーションに悩む管理職の支援ツールになります
そして、マネジメントスキルをアップするための武器にもなります。
それを使いこなせるように伝えていくのが、人事担当者の皆さんの仕事です。評価や育成に対する意識を変えていけば、会社も自ずと伸びていきます。あなたの会社でも、評価制度を見直してみませんか?
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
同じ会社で同じレベルの仕事をしているのに、評価される人とされない人が出てくる。
これは評価基準となる「45のコンピテンシー」を知っているかどうかの違いです。
新型コロナウイルスの影響から、多くの企業でテレワークが普及している昨今。しかし「出勤することが当たり前」な働き方に慣れていると、「テレワークでも本当にちゃんと評価されるだろうか」と不安を抱いている人も多いものです。正当な評価を「されて当然」と考えるのは危険です。 では、正当に評価される行動とはどういったものなのか。逆に、ちゃんと仕事をしているのに損してしまうパターンには、どんなものがあるのか考えてみましょう。
「自分の将来が見えない」と感じる会社に所属し続ける人はなかなかいません。
会社が評価制度を作り、求めるものや進むべき道を照らしてあげれば、
社員はおのずと努力し成長するようになります。
人事ポリシーとは会社の「人」に対する考え方を表明したものです。
会社が抱える「人」の悩みの大半は、社員との間にある意識のミスマッチが原因です。
自社に即した人事ポリシーによって意識をすり合わせることができれば、
複数の課題が一気に解決することも珍しくありません。
いま再び注目を集めている「ジョブ型雇用」や「成果主義」は決して新しい考え方ではありませんが、これからの働き方を考える中では重要な要素です。 その実現のためにはジョブディスクリプション(職務記述書)が必要とされています。しかし、ジョブディスクリプションの策定や運用には、様々な課題も想定されます。 「働き方」「雇用のあり方」「管理のあり方」「評価のあり方」「給与・処遇のあり方」といった「考え方」そのものをどこまで変えるのか、といったことをよく考える必要があります。 今回は代表西尾から、これからの時代の働き方や評価についてお伝えしていきます。
「頑張っていること」を評価したい、
という気持ちを持つのは悪いことではありません。
しかし、その気持ちを本当に評価に反映してしまうと、
社員の不満の元になってしまいます。
金融業界を中心に、「通年採用」を採用しはじめた企業が登場しはじめた2020年。ニュースでも世の中を大いに賑わせ、注目を集めました。さて、この「通年採用」は、今までの採用制度とどう違うのでしょうか?また、通年採用は、採用力に影響はあるのでしょうか?「通年採用」を行ううえで押さえておかなければならない大事なポイントは何でしょうか?今回は、「通年採用」の効用について、お話しします。
人事担当者のもとには非常に多くの情報が入ってきます。
その情報、あなたはどうしてますか?
上司に報告するものとしないものを自己判断していませんか?
その自己判断が大きな問題につながる可能性もあります。