2020.06.26
いま再び注目を集めている「ジョブ型雇用」や「成果主義」は決して新しい考え方ではありませんが、これからの働き方を考える中では重要な要素です。 その実現のためにはジョブディスクリプション(職務記述書)が必要とされています。しかし、ジョブディスクリプションの策定や運用には、様々な課題も想定されます。 「働き方」「雇用のあり方」「管理のあり方」「評価のあり方」「給与・処遇のあり方」といった「考え方」そのものをどこまで変えるのか、といったことをよく考える必要があります。 今回は代表西尾から、これからの時代の働き方や評価についてお伝えしていきます。
リモートワークの普及によって、ジョブ型雇用や成果主義といった働き方が再び注目を浴びるようになりました。
管理職がメンバーの業務遂行状況を把握できないリモートワークにおいては職務や目標を明確にして、時間ベースではなく成果ベースで管理するべきと言われています。
しかし、よく思い返してみてください。これらはすでに実行されているのではありませんか?
給与や賞与に反映させるために社員一人一人に目標を設定させ、それを達成できたかどうか半期に1度などの定期的な周期で判断してはいませんか?
こうした目標管理制度は60年以上前からすでに提言されていましたし、すでに大多数の企業が目標管理制度を導入しています。設定されている目標は、会社の進みたい方向に添って立てられているはずです。
つまり、目標を達成するということは、直接の利益に結びつかなくても「成果」と呼べるものだと思われます。
ならば、なぜ、ここに至ってまだ「ジョブ型雇用」や「成果主義」が新しいもののように注目されているのでしょうか?それは、多くの企業が、たとえ目標が達成できなかった、つまり成果が出せなかったとしても、長く働いている社員の給与や賞与を成果に見合った形に下げることに遠慮してしまうケースが少なくないからです。
「なぜ目標管理制度」を導入したのか理由も理解しないままに、中途半端に運用してきたからではないでしょうか。
目標管理制度がしっかりと導入されており確実に運用されていれば、リモートワークになっても右往左往しないはずです。
ジョブ型雇用は決して新しい考え方ではありません。ただ、今、これからの働き方を考える中で重要な要素であることは確かです。
しかし、バブル崩壊後においても今回と同様、その導入が試みられました。ただ、当時はうまくいかないケースが多かった。それを振り返っておく必要があります。
ジョブ型雇用は職務主義とも言われ、「人を見て処遇を決める」のではなく、「仕事を定義して、それに就く人の処遇が決まる」という考え方です。そのために職務の重要さや求められる成果を明確にした、職種別・階層別(責任の大きさ)の「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が必要と言われています。
この「ジョブディスクリプション」によって「ジョブサイズ」が決まり、それによって処遇(年収)が決まる仕組みです。(成果によってこれにインセンティブが加わるケースが多い。)
一人一人の職務を明確にし、それによって評価も行い処遇も決めていく。合理的であり、欧米企業では一般的な考えとされています。
しかし、これを職種別・階層別に細かく作成するほど膨大な労力と時間が必要になります。加えて、会社内にジョブディスクリプションを書ける人はなかなかいません。外部のコンサルタントに依頼して作る方法もありますが、多額の費用がかかる上に、そうこうしているうちに組織が変わって仕事に変化が生じ、「作成してみたら実態と合わないジョブディスクリプションになった」ということもあり得ます。
このような流れで「職務主義の運用は難しい」と、元の体制へ戻ってしまったケースが多々あります。
そもそも欧米型の仕組みですから、日本の労働法制と合わないケースもあります。
「その職務を遂行できなかったら」「その職務がなくなったら」「その職務に就けなかったら」、年収が下がったり、場合によっては退職を勧奨されたりすることも想定されます。
この合理性を許容し、実行できるのか。「評価のあり方」「給与・処遇のあり方」を本当にそこまでドラスチックにできるのか、その検証が必要です。
過去に導入に失敗したのは、年功序列的な雇用慣行を持つ日本企業が、「そこまで考え方を変えられなかった」からなのです。
「このポストをはずれたらこの人年収下がるんだよね」「子供もまだ小さいから忍びないよね」「だったら、それなりのポスト作ろうか」「ジョブディスクリプションをそれに見合って作っておいて」。こういった会話を聞いたこともあります。日本らしいウエットな感覚で、いいところとも言えますが、少なくともジョブ型・職務主義は機能しません。
では、どうしたらよいのか。これからの社会、十分なマネジメントのためにはジョブ型的働き方への移行は避けて通れません。
そこで、職種別・階層別にジョブディスクリプションを詳細に作成することから始めるのではなく、「階層ごとの普遍的なジョブディスクリプション」を定めることからおすすめします。
これは「役割主義」とも言われ、実施している企業は少なくありません。「役割から外れたら給与が下がる」という考え方がしっかりしていないと運用できませんが、今、改めて有効な施策であることは間違いないでしょう。
例を挙げるなら、部長のマネージャーのジョブディスクリプション、グループリーダーのジョブディスクリプション、といった具合ですね。職種と階層ごとにジョブディスクリプションを定めると、作成に多大な労力とコストが必要となりますが、階層ごとの普遍的なものであれば、それほど手間をかけずに作成が可能です。
階層ごとの「ジョブサイズ(仕事の大きさ)」を改めて定義する、ということです。
職種ごとに要件を定めると、職種ごとの格差が生まれるだけでなく、会社の業務が変わった時にすべて作り直さなくてはいけなくなる可能性があります。
しかし、階層ごとに対応した普遍的なジョブディスクリプションであれば、職種ごとの格差も生まれず、企業で取り扱う業務内容が変わったとしてもそのまま使用することができます。
では、会社内の階層ごとに、普遍的で汎用的な指標を作るためにはどうしたらいいでしょう。
これらは「ジョブサイズ」ですから、影響力や責任の大きさであると言えます。「影響力グレード制度」を構築するといいでしょう。影響力を定義するためには、行動特性を評価する「コンピテンシーモデル」を用いることができます。
「ジョブサイズ」を設定したら、そこから社員自らが、部門別・職種別のミッション・目標を明確にしていきます。作成されたものが正しいか、会社と社員の相互検証が必要になりますが、事前に誰かが「職種別ジョブディスクリプション」を作る必要はなくなります。
繰り返しますが、これまでお話ししたことは、何も新しいことではないのです。まずは、今あるものを、徹底して実行することが大切です。
そして新しい「やり方」に単純に飛びつくのではなく、改めて「考え方」をしっかり整理して、よくよく考えて本当に必要だと判断したら、その考え方に合った「やり方」を導入するようにしましょう。
次回は、ジョブ型を含む、「考え方」の整理についてお話しします。
【記事の続きはこちら】
緊急提言! ジョブ型雇用は“本当に導入すべき?” 検討する際に気をつけなければいけないこと <第2回>
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