2024.06.17
いい人が採れない。多くの企業が直面するこの課題を解決するためには「求める人材像を明確にすることが必要」と前回お伝えしました。「新卒」にするか「中途」にするかも、「求める人材像」を考えるにあたって重要な要素の1つです。今回は新卒採用のメリット・デメリット、そして会社説明会で採用担当者がやるべき、ある重要なポイントについてお伝えします。
企業が一定の成長ステージに来ると、新卒採用を実施し始めます。ですが、そもそもなぜ新卒を採用するのでしょうか? この問いを経営者や人事担当者の皆様に投げかけると、多くの方々が「え? なんでだっけ?」と一瞬とまどわれます。そして「他社を経験しておらず、真っ白だから」と答えられます。「新卒のほうが、中途より定着するから」という答えもあります。
本当にそうでしょうか? 私は「新卒は真っ白だから染めやすい」「中途より定着しやすい」という考え方は、都市伝説に近い、根拠のない考え方ではないかと思っています。
「新卒は真っ白」という気持ちはわからなくもありませんが、SNS全盛の今日、接する情報が膨大すぎて、社会人経験のない学生は、かえって誤った就業観や会社観を持っているかもしれません。
また「新卒が定着しやすい」と思えるのは、多くの企業で新卒に対しては導入研修やOJTなど時間をかけて丁寧に教育を行っているからではないでしょうか。それに対して、中途採用は半日程度の会社説明で現場に配属ということも多いようで、これが定着に結びついていない一因とも考えられます。
中途採用でも、きちんと時間をかけて教育し、組織に溶け込めるような施策をすれば、定着率は新卒とさほど変わりません。場合によっては、他社を経験している分、自社の良さを感じてもらえるかもしれません。
新卒の3割は3年で辞めると言われて久しく、5割、6割ということも珍しくありません。少子化によって売り手市場が続き、入社後も就職活動を続ける人も増えているため、数年で全員が辞めてしまうことさえあります。これでは募集から採用までの活動が、すべて無駄になってしまいます。
新卒採用は、2年前から人員計画を立て、インターンシップを開催し、媒体に告知し、説明会を実施し、選考し、内定を出す、莫大な時間とお金と手間をかけたビッグプロジェクト。このコストを無駄にしないためには、「なぜ新卒採用をするのか」と改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか。
私がベンチャーで新卒採用をしていたときは、新卒採用の目的を「コア人材の確保と育成」と考えていました。求める人材像は、以下のフレームを使うと、わかりやすく整理することができます。
この「人材ポートフォリオ」と呼ばれるフレームは、人材を4つのタイプに分け、キャリアプランやライフプラン、「どのように働くのか」「何を目指していくのか」「働くことをどのようにとらえるのか」などについて、わかりやすく整理することができます。それぞれの要素について説明しましょう。
・コア
組織を通じて変革と価値創造を行う人材。企業や事業の方向性を打ち出し、新たな価値を創造しようとし、それを実現させます。経営層及びその候補とも言えます。コア人材の育成には、多岐に渡る経験が必要であり、ゼネラリスト的にいろいろな事業や部署を経験させながら、マネジメントとリーダーシップの双方を育成していく必要があります。長期的な育成視点が必要です。
・スペシャリスト
個人として変革と価値創造を行います。社内で育てる場合は、職種間異動を想定せず、1つの専門分野で経験を積んでもらうほうが効率的です。ただし、スペシャリストをすべて正社員として育てるかは要検討。社内育成だけでなく、外部活用(弁護士や会計士、ITエンジニアのフリーランスなど)も多く見られます。
・オペレーティングマネージャー
組織を運用・管理する人材。店長・課長などです。かつての一般的な日本のサラリーマンの管理職ともいえます。
・オペレーター
定型的な業務を運用する人材。正社員とは限らず、アルバイトなどを活用する場合も多いでしょう。マニュアルなどの手順があり、想定された結果を出すことが求められます。
私は「新卒採用はコア人材候補、中途採用はマネージャーかスペシャリスト、オペレーターはその他の象限の育成期間か、またはアルバイトや派遣スタッフ」と考えていました。
コア人材を育てるためには、複数の部署や職種を経験させ、広い視野と高い視点を持たせなくてはなりません。そのため数年以上の育成期間が必要です。年収500万、600万の中途社員を採り、育成期間に3年以上の時間をかけたりするのはリスクが高すぎます。新卒採用のメリットは「育成期間を確保できる、最も人件費の安い人材」であること。だから新卒採用をしていたのです。
求める人材像は、できるだけ具体的に想定し、自社サイトの採用ページや求人サイト、会社説明会、面接など、あらゆる場面で「当社はこういう人に来てもらいたい」と常に一貫したメッセージを発していくことが必要です。新卒採用はリスクが高いため、この一連の流れは特に重要になります。私は「新卒採用=コア人材候補」と想定し、会社説明会では次のような話をしていました。
当社の企業ステージは、成長期から安定期に入ろうとしているところです。ただ、その安定期は長続きしないと想定しており、変革期が早く、10年以内にやってくると思います。新たに事業をつくっていかなければなりません。そのために「コア人材」を求めています。組織を変革し、新たな価値を創造するとともに、既存事業、新規事業双方において、価値増大のためのプロジェクトを「ヒト・モノ・カネ・情報」などを組み合わせてマネジメントしながら引っ張っていってくれる人です。
コア人材として活躍している人は、たとえば朝6時に起きて日経新聞と日経産業新聞を読み、世の中の状況を把握しており、出社してから自らが任された仕事をし、たとえ定時で退社したとしても、その後、社外の人とのネットワークを広げるために会食をしたりして、ビジネスのネタを多く仕入れ、またビジネスパートナーの開拓をしています。その後は家に帰って経済ニュースをチェックし、ビジネス書を読み、寝て、また6時に起きて日経新聞を読むような人です。休みの日にも、子どもと遊んでいても、ビジネスにつながるチャンスを虎視眈々と狙っています。
そういう生活をしなければ、会社の将来を担うコア人材にはなれません。もちろん、そのような生活の上で、価値を出し続ければ、高収入を得ることもできるでしょう。
あなたはそのような生活をしたいと思いますか。当社は、皆さんが入社した後、コアになるための基礎的な経験を数年以上積むことができるビジネスステージにあります。ただ、10年も20年も育成期間は持てませんので、新卒であれば、30歳までにはコア人材になって活躍してほしいと考えています。
かなりハードルの高い話です。当然、話の途中で帰る人も多くいましたが、「やりたい!」と言ってきた人も相当数いました。その中から入社してくれた人たちの多くは、20代後半からマネージャー職、部長職を担い、グループ会社の社長になった人もいます。
「うちの会社が求めているのは君なんだ」と、求めている人材に向けて強いメッセージを発する。それが会社説明会で採用担当者がやるべき、最も重要なことです。
御社は、どんな人材を求めていますか。その人たちが「自分のことだ」と思えるメッセージを発信していますか。自社が求める人材にどんなメッセージを放つべきか、いま一度、振り返ってみてください。
次回に続く
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
人手不足が深刻化しているこの時代において、
採用活動はますます難しくなっています。
「この人に入社してほしい」と感じる人ほど、他の企業からの内定を選んでしまう。
今回はそういった課題を解決する手段として
「採用マーケティング」の考え方をお伝えいたします。
人手不足が深刻化しています。様々な業界の経営者や人事担当者の皆様から「いい人が採れない」というご相談が寄せられています。採用は人事にとって一番の悩みの種ですが、そもそも「いい人」とは、どのような人材を指すのでしょうか。まずはこの根本の部分から見直してみませんか?
「人事異動」は誰にとっても大きなイベントですが、人事担当者にとってはまた異なった意味を持ちます。
では人事担当者はどのように進めるべきなのでしょうか?
そして人事になりたての人間は「人事異動」に向けてどのように振る舞えばよいのでしょうか。
著者の経験談も混じえて解説いたします。
「年功序列」の考え方が染み付いている日本企業は少なくありません。
しかし、働き方が多様化し、ジョブ型の給与体系の企業も増えている昨今、
そのままでは優秀な人材が入ってこず取り残されてしまう可能性が高くなります。
今回は、西尾による講演をもとに、日本企業の「年功序列」について考えます。
優秀な人材を見つけても選考途中の辞退や内定の辞退が発生する企業が存在します。
そういった事態に陥らないように、
採用担当者には「話し手としての意識」を持つ必要があるのです。
部下のやる気は、上司次第。管理職の言葉によって、社員のモチベーションが低下することも少なくありません。これは管 […]
人手不足や物価高など、日本を取り巻く厳しい状況の中、多くの企業が適切な人事制度を取り入れることに積極的になっています。私たちも全国を飛びまわり、日本各地の企業で評価制度構築のコンサルティングや管理職の研修を行っています。実は評価制度がうまく運用できていない企業には、ある共通点があるのです。
金融業界を中心に、「通年採用」を採用しはじめた企業が登場しはじめた2020年。ニュースでも世の中を大いに賑わせ、注目を集めました。さて、この「通年採用」は、今までの採用制度とどう違うのでしょうか?また、通年採用は、採用力に影響はあるのでしょうか?「通年採用」を行ううえで押さえておかなければならない大事なポイントは何でしょうか?今回は、「通年採用」の効用について、お話しします。