2024.05.15
あなたの会社では、「給与」をどのようにして決めていますか? 私たちが主宰している学習プログラム「人事の学校」を受講している経営者や管理職には「給与の決め方がよくわからない」という方が多くいます。給与の決め方は、「何」を大事にして社員を評価するかによって異なります。今回は、知っているようで意外と知られていない「給与の決め方」について解説します。
「給与ってどういうやって決めればいいのですか?」、ある企業の経営者から、こんなご相談を受けました。その会社は全国各地に次々に出店し急成長しているベンチャー企業ですが、これまでずっと同業他社を参考にして、なんとなく給与の額を決めていたそうです。
私たちが主宰する学習プログラム「人事の学校」を受講している経営者や管理職にも「給与の決め方がよくわからない」という方が多くます。何に対して給与を払うのかをよく考えず、実は漠然とした考えで給与額を決めている会社が大多数なのかもしれません。
給与の決め方は、社員の「何」を重視して評価するかによって異なりますが、その評価をどのように給与・賞与に反映するかという、その企業の「人に対する考え方」を表すことになります。
人事制度を改めて見直すことによって、あなたの会社の価値観や方向性がより明確になり、採用力・定着率の向上、社員のモチベーションアップにもつながります。
あなたの会社では「社員の何を評価し、何に対して給与を払っているのか」を改めて考えてみてください。以下は、日本における代表的な評価・給与制度の考え方(主義)です。
社員の「能力」に給与を払う考え方です。ただし人が能力を持っているかどうかを直接的に判断することはできないため、「年齢や勤続を重ねれば能力も高まる」という考え方に基づいて長く働いた人ほど給与が高くなる「年功序列」とほぼイコールの考え方になっています。ビジネスにおける能力は積み重なっていくものと考えられるため、給与を下げることはあまり想定されません。
社員が出した「成果」に対して給与を払う考え方です。大事にしているのは「一定期間における成果・業績」ですが、成果のみを評価対象とする場合と、成果と(成果につながる)行動を評価対象にする場合があります。成果によって給与が上がることもあれば、下がることもあります。
社員が取った「行動」に対して給与を払う考え方です。能力は目に見えませんが、行動は実際に目にすることができます。成果は運や環境に左右されますが、行動は再現性が予見できるため、コンピテンシー(成果を出すための欠かせない行動)を評価基準にして給与を決めることが一般的になっています。行動によって給与が上がることもあれば、下がることもあります。
仕事の価値や責任の重さなど「職務」に対して給与を払う考え方です。営業部長は年収1000万円、人事部長は900万円など、ポストによって給与額が決まるため「役割主義」とも呼ばれています。外資系に多く、昨今は「ジョブ型」と呼ばれることが多い給与制度です。
年々積み上げてきた「過去の功績」に対して給与を払う考え方です。能力主義に近いのですが、現在の能力を見るか、過去の功績を見るかという点が違います。
社員の「勤続した年数」に対して給与を払う考え方です。長く働いた人ほど高く処遇されます。勤続年数は退職金制度にも反映されているので、ほぼすべての企業が取り入れている考え方です。
社員の「年齢」に対して給与を払う考え方です。30歳なら30万円、40歳なら40万円など、年齢に応じて給与が決まる年齢重視の給与制度です。
労働に対して給与を払うのではなく「生活保障」を重視する考え方です。家族手当や住宅手当など、生活環境や子どもの成長などに応じて、さまざまな手当をつけていこうという考え方です。
世の中の評価・給与制度は、ほぼこれらに基づき、1つの主義か、「成果+行動」や「勤続+年功」といった複数の制度の組み合わせによってつくられています。大きく分けると、成果・行動は「いま」を大事に考え、年功・勤続などは「過去」を重視して給与を決める制度といえるでしょう。
能力主義は、言葉だけを見ると「いま」の能力を重視する制度のようですが、実際には年齢や勤続年数といった「過去」を重視する年功・勤続主義に近い考え方になっています。
何を評価して給与を払うのかは、その企業が最も大事にしている価値観によって決まります。何が正解とは一概にはいえません。ただ、はっきりしているのは、年功・勤続・年齢主義が定着した高度成長期と現在では、日本を取り巻く環境が大きく変わっていることです。
1950年代の日本の平均年齢は20代、1960年代は30代でしたが、現在の2020年代の日本人の平均年齢はほぼ50代になっています。「過去」を重視する年功・勤続・年齢主義が定着した時代は、日本人がみな若く、経済が右肩上がりで成長し続けている時代だったから、「若い時期は給料が安くても年を取ったら高くなる」という後払い型の給与制度が可能でした。
ところが、少子高齢化が進み、経済も長く停滞している現在の日本では、後払い型の給与制度を維持していくのは困難です。そのためすでに多くの企業が「成果主義+行動主義」あるいは「職務主義」に移行していますが、今後ますますこの傾向は強まっていくでしょう。
評価・給与制度に関するご相談を受けると、私も「成果+行動に対して給与を払う」ことをおすすめしています。企業の目的は、価値を提供し対価を得ること。ならば、個人においても創出した価値と対価はイコールであるべきです。
業界・業種・会社の規模、経営者によっても考え方は異なりますが、いずれにしても評価と給与の考え方には、このような複数の選択肢があります。
現在・過去、成果・行動、年齢・勤続年数、あなたの会社では社員の「何」を大事にしているのか、改めて考えてみてください。それによって求める人材像や応募者へのメッセージ、入社後の育成の仕方も大きく変わってきます。
次回に続く
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
2009年の開講以来、述べ5000人以上の人事担当者が受講し、「人事の原理原則を体系的に学べる」と人気の講座「人事の学校」がリニューアルしました。2022年5月18日より新たにeラーニングサービスを開始。PCやスマートフォン、タブレットなど各種デバイスで受講可能となるなど、人事担当者がより気軽に学習できるよう生まれ変わりました。本記事では、「人事の学校」主宰・西尾太にインタビュー。リニューアルの理由や人事担当者の皆さんへのメッセージをお伝えします。
会社は利益を追求する組織ですが、社員に求めるものはそれだけではありません。
会社における「困った人」を出さないために、人事は社員を評価する制度をしっかりと定めましょう。
人事担当者の中にも、本業で培ったスキルを副業で活かしたいという方は多くいらっしゃいます。まずは、自分のスキルをアピールするためには「〇〇ができます!」と言えるように言語化しましょう。また、普段の仕事の中でも「自分は外でどんな価値提供ができるか」を想定することは、自分のスキルを整理し上手く売り込むために重要なことです。
人事の仕事というのは売り上げ・利益に直結するものではありません。
そのためか、人事担当者には「会社に貢献している」という意識が低いようです。
今回は人事対象者を対象に行われたアンケートを参考に、人事担当者の現状とあるべき姿を見ていきます。
コロナ渦という前代未聞の事態に見舞われた今、人事の課題はますます山積みしています。人事が強い会社でないと、これからの荒波を乗り越えていけません。人事が強い会社とは、どんな特徴があるのか?また、どのようなメリットをもたらすのか? 今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人材育成の考え方や方法を解説します。
キャリアステップの策定は、人材育成と離職率の低下に欠かせない施策です。
しっかりとしたキャリアステップを描き、浸透させ、社員の成長を促しましょう。
いい人が採れない。そもそも応募者が来ない。多くの企業が人手不足に悩む一方で、優秀な人材がいきいきと活躍している会社もあります。求める人材を獲得する方法は、「採用」だけではありません。それは本当に「雇用契約」でなければならないのか、改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか。
人事部門が優れている企業ほど、業績がいいことをご存知でしょうか。人事担当者の優劣は、実は企業の業績や成長力に大きく影響しています。では、優れた人事担当者を育てるには、どのような教育が必要なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事向けの研修に必要なカリキュラムを解説します。