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【職位制度・評価制度・給与制度】『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』出版記念特別セミナー⑦

総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社は、代表取締役社長・西尾太の著書『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』出版記念特別セミナー【聞いた後でジワジワくる‼西尾太の「地味な」人事の話】を2022年11月17日、TKP東京駅日本橋カンファレンスセンターにて開催いたしました。本記事は、このセミナーの内容を再構成・加筆してお届けしています。今回のテーマは「制度づくり」。職位制度・評価制度・給与制度の大事なポイントを簡単に説明します。

職位制度: 大事なポイントは「職位」と「役職呼称」を分けること

では、ここからは制度づくりのポイントを簡単に紹介していきます。まずは、職位制度。これは「組織と組織の長」に関する制度です。ここで大事なポイントは、職位と役職は別だということです。
叱られるかもしれませんが、皆さんの会社には、このような役職はありませんか。「課」がないのに「課長」、「係」がないのに「係長」、よくわからない「担当部長」、たくさん増えていく「副部長」…。
それはそれでいいのですが、組織の長は誰であるのか。ここを整理してください。職位者が組織の長です。1つの組織に1人の長、つまり責任者を指します。それ以外は、役職呼称です。
担当部長、副部長など、1つの組織に何人もの部長のような人がいる会社もありますが、これは等級の概念と混在しがちなので注意が必要です。「等級と役職呼称」・「組織と職位」は、分けて運用しましょう。

役職と職位は、上記のように整理するといいでしょう。たとえば、6等級には「エゼゼクティブオフィサー」「エクゼクティブエンジニア」「エグゼクティブプロデューサー」といった役職がありますが、これらはあくまで役職呼称。名刺に表記してもよい呼称ですが、職位ではありません。上の右の図にあるように「執行役員」「本部長」「支社長」などを職位として、分けて運用します。
職位者(組織の長)には、責任と権限があります。ですから「職位者は何をしなければならないか」が明示されていないと組織も人も混乱します。「なぜ、あの人が部長になるのか」「なぜ部長から外れるのか」と、さまざまな問題を引き起こします。こうした問題を防ぐには、職位者の実務上の職務要件を整備することが必要です。これによって「任命・解任」を行います。

上の表は、部長の職務要件の例です。部長は何をしなければならないのか。「方針策定」「目標設定」「予算策定」など、職務要件をキーワード化すると運用がしやすくなります。
ちなみに、等級要件を職種別に作ることは、あまりおすすめできません。等級要件を職種別に作るとジョブ型っぽくなりますが、運用が難しくなります。
クライアントの会社さんから「運用が難しいんだよね」とご相談いただく場合、「制度を細かく作りすぎた」ということがとても多くあります。ジョブ型を推進するなら話は別ですが、メンバーシップ型を残していくとしたら、制度はあまり細かく作らないほうがいいでしょう。
「職種別にどういう能力を身につけさせたいか」については、目標設定の際に個々の目標として設定することをおすすめします。というわけで、目標設定についても簡単に説明しますね。

目標設定: あなたが価値を提供する相手は誰ですか?

目標管理制度を入れているという会社さん、手を挙げてください。結構多いですね。今、7割ぐらい手を挙げました。うまくいっていますか?
日本企業は8割くらいが目標管理制度(MBO)を入れていると言われていますが、残念ながらあまりうまくいってないケースが多いようです。目標管理がうまくいかない理由は、おもに2つ考えられます。

① 目標が上からドコンと落ちてきて、メンバーが自ら考えたものではない
  そのため主体的になれず、やる気が起きない 

② どうなったら目標達成なのか、目標の「達成基準」が不明確
 そのため、評価の際に、達成したのかどうか、判定できない

この2つの原因に陥らないよう、制度設計と運用は十分に注意する必要があります。目標設定については、バランスド・スコア・カード(BSC)を参考にするといいでしょう。

BSCの5つの視点「財務の視点」「顧客の視点」「プロセスの視点、」「人材の視点」「革新の視点」は、当期の目標設定のみならず、次期以降の業績・成果にもつながります。
目標達成の期間は半期でも通期でもいいのですが、目標をしっかり作って、そこに向かって到達するということをやらないと、業績は上がりません。
ちなみに当社のフォーマットには、メインミッションを社員1人ひとりに書いてもらう欄があります。
メインミッションは、「〇〇を、より〇〇する」と表現します。あなたのメインミッションは何ですか?

これは15秒で言えないとダメですよ。「より〇〇する」がワクワクするものだといいですね。
目標設定会議をやっていただくときも、「あなたのメインミッションは何ですか?」と質問して、みんなで議論していただきます。これがズレていると、目標はできません。
「あなたが価値を提供する相手は誰ですか?」「その相手に対してどんな価値を提供しますか?」と尋ねると、「私は経理なので顧客はいません」「価値を提供する相手がいません」というケースがよくあります。
価値を提供する相手は、顧客だけを指すわけではありません。経理だったら、経営、社員、株主などが価値を提供する相手。総務も同様ですね。人事だってそうです。経営、社員、管理職、応募者…こうした相手にどんな価値をより提供するのか。目標は、このように考えてみてください。
目標設定は簡単ではありませんが、みんなでウンウンうなりながら、目標設定会議をやってくださいね。

評価制度:評価の中央値は「A(ありがとう)」にする

目標を設定したら、次は評価です。評価制度の目的は「無知の知」、知らないことを知っている状態、できていないことをできる状態にすることです。

知らないことを知っている=「無知の知」という状態になれば、知らないことを知ることができます。できないことは練習してできるようになります。これが成長です。評価というのは、何を知らないのか、できていないのを伝え、成長のきっかけにする大事な行為です。また、褒めるための機会でもあります。
研修場面などで「この2週間を思い出してください。仕事で褒められた人はいますか?」と質問をすると、手を挙げる人はごくわずか。誰も手を挙げないこともあります。多くの会社では、社員にできていないことを伝えることも、褒めることもあまり行われていないようです。

人事評価は、人材育成のために行います。何がよくて、何がよくなかったのかを指摘し、気づきを与え、本人の成長を促す行為です。
上記のように「求められている要件・目標」を明確にして、「実行」を支援し、「評価・フィードバック」をして「気づき」を与え、「成長」を促していく。このサイクルをしっかり回していってください。

また、もうひとつ皆さんにお願いしたいのは、「評語制」を用いること。評価や達成基準において、僕は「A」や「S」という表現を使っています。これを「評語制」といいます。

これに対して「5・4・3・2・1」などの数字を用いることを「評点制」といいます。数字は計算がしやすいという利点がありますが、僕は「評語制」をおすすめしています。
評価は、人生育成のために行うものです。要は「何ができて、何が足りないのか、課題は何か」を示すことが重要なのですから、数値化にはあまり意味がありません。
評語制は評価の集計がしにくいという課題がありますが、評価者が個々の評価と全体を見て、被評価者が期待通りだったのか、期待を上回ったのかを示せばいいのではないでしょうか?
評価は、管理職の成長を促す機会でもあります。数字による総合評価は、管理職がメンバー1人ひとりの評価について、しっかり考えなくなってしまうおそれがあります。
「評語制」を用いる場合は、上記のように真ん中に「A=ありがとう」を置くことをおすすめします。人事評価の多くは中央値が出がちです。その中央値が「B」や「C」だったら気分が悪くないですか?
評価は、褒めるための機会でもあります。真ん中を「A」にすることで、「ありがとう」が飛び交う会社になります。小さなことのようですが、こういうことは意外と大事です。ぜひ検討してみてください。

給与制度: 「安定感」と「躍動感」が大事なポイント

給与制度です。給与には、投資的意味合いと精算的意味合いがあります。投資価値は「将来の成果創出を期待できる」とされるもの、精算価値は「過去半年または1年に上げた成果」とされるもの。人事評価は、それを判定するためのものです。

「投資価値」については基本給に反映し、「精算価値」については賞与で反映するのが一般的です。給与は、「安定感」と「躍動感」で作るのがいいと僕は考えています。
安定感は、基本給の推移。下がるかもしれないけれど、安定的に推移する。これで住宅ローンが組めます。躍動感は、ボーナス。これは会社業績や個人成果によって結構変動します。ですが高くもらえたときは、車を買ったり、旅行に行ったりができます。

給与制度は、上記のようなテーブルを用いて変動幅を作ります。基本給は等級ごとに重ならないこと、上位等級ほど賞与変動比率を大きくするのが大事なポイントです。
ただし、同じ等級で長く働いていても、どこかで昇給を止める。等級が上がらない限りは、一定以上の給与には上がらない。そういう設計の会社が最近増えています。そこに気をつけるだけでも、単なる年功や勤続主義から脱却できるかなと思います。

最後に教育制度。教育制度は、「会社が社員に求める要件」と「評価」のギャップを埋めるものです。人事制度と関係ないところで教育をやっても、あまり意味がありません。
会社が社員に求めるものがあって、実行があって、評価とフィードバックがあって、それを埋めるための教育施策がある。研修をやらなくても、上司と部下でコンピテンシーや成果について会話をしているだけでも教育になります。教育制度は、人事制度と一体化させるのが大事なポイントです。
以上、制度づくりの説明をしてきましたが、制度は道具でしかありません。要はこれらを使って、どう成果を出していくか。制度は、作った後が大変です。
制度設計や教育研修で失敗することはまずありませんが、運用は別です。それを想定して運用にパワーをかけていただかないと成果を出すことは難しいです。あるクライアント企業は、評価月間を設けて管理職が1ヶ月間、徹底して評価をしています。
そのぐらいパワーをかけないと人は育ちません。ぜひ皆さんも、評価会議や目標設定会議を辛抱強くやって、制度という道具をうまく活用していってください。

(次回につづく)

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