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超ジョブ型とは何か?⑤「超ジョブ型プロフェッショナル」のつくり方

第4次人事革命において最も重要なのは、「どこでも通用する人材」をつくる人事施策です。それができれば優秀な人材が集まります。「あの会社に入れば、どこでも通用する」というのは、どんな求人メッセージよりも強力です。今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、どこでも通用する人材=「超ジョブ型プロフェッショナル」のつくり方をお伝えします。

普遍的で汎用的な評価制度=コンピテンシーの導入

人事の究極のミッションは、どこでも通用する人材=超ジョブ型プロフェッショナルをつくること。前回そのようにお伝えしました。では、どうしたら、そのような人材をつくることができるのでしょうか?

まずひとつは、普遍的で汎用的な評価基準=コンピテンシーの導入です。コンピテンシーとは、タスクマネジメント(目標設定・計画立案・進捗管理など)やヒューマンマネジメント(コミュニケーションにおける発信力・受信力・人材育成力など)における「成果を生み出すための欠かせない行動」です。

成績優秀者の行動モデルを抽出し、各キャリアステップに求められる行動を定義し、評価制度に組み込む。「能力」があっても「行動」をしなければ評価しない。コンピテンシーという概念は1990年代に米国からもたらされたものですが、普遍的かつ汎用的で、どの会社や事業でも必要となる合理的な考え方です。

現在、私たちがお手伝いする人事制度の改定をする企業の多くがコンピテンシーに基づいた「行動+成果」によって評価と基本給・賞与を決定する仕組みを採用し、業績を伸ばしています。

コンピテンシーを導入した評価制度によって、普遍的かつ汎用的な力=「どこでも通用する力」を身につけることができれば、どこでも働ける人材になることができます。なおかつ、それに基づいたキャリアステップを示すことで、成長意欲の高い優秀な人材ほど離職しなくなります。つまり、どこでも通用する人材がウチにいる、という理想的な状態をつくりだすことができるのです。また、離職する人材も次の就職先が見つけやすくなるので、雇用を守ることにもつながります。

拙著『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)では、実際に多くの企業で運用されている45種類のコンピテンシーを紹介しています。評価制度を見直す際には、ぜひ参考にしてみてください。

ミッションと目標の設定=MBO、OKRの徹底

もうひとつは、MBO(Management by Objectives and Self-Control)=目標管理制度の徹底です。MBOは1954年にP・F・ドラッカーが提唱した考え方ですが、今、改めて見直すべきではないでしょうか。

ドラッカーは、肉体労働から知的労働が主流になっていく時代の流れを読み、その際のマネジメント手法として「目標管理」という手法を提示しました。今また「労働」というものが変わっていこうとしています。指示命令に基づく「雇用契約」から、業務委託や副業、社員の個人事業主化など、雇用形態が多様化してきました。会社に出勤することが当たり前ではなくなり、テレワークやDX対応が日常に。また、定年延長にともない、働く人の「年齢」を見直すべき時代に。これらの様々な変化に対応する合理的なマネジメント手法は、前世紀の半ばに提唱された「目標管理」という古くて新しい手法であると私は考えます。

どのような仕事にも「ミッション」=その仕事の使命や役割があり、そのミッションを遂行するための年間ないし半期の「目標」があります。全社のミッションや目標を示し、組織の目標→個人の目標とブレイクダウン、あるいは相互に擦り合わせて「何をどこまで実現するか」という目標を明確にする。その目標に向かってのプロセスは、個々人に任せ、マネージャーはその進捗を管理する。

この手法は、多彩な雇用形態やテレワークなど、あらゆる働き方にマッチするものです。個々の目標達成が組織や会社の目標達成につながり、生産性が高まります。個人が成長しやすく、マネジメントもしやすくなるので、一石三鳥です。さすがドラッカーさん、未来を予見していたのでしょう。

MBOから派生したOKR(Objectives and Key Results)を用いる企業も増えています。OKRとは、組織が掲げる目標をめざすため、達成目標(Objectives)と成果指標(Key Results)をリンクさせ、組織・個人の方向性と主要なタスクを明確にする目標管理方法のひとつです。

GoogleやFacebookなどの企業が導入していることで近年注目を集めている手法ですが、MBOとOKRを併用している会社もあります。いずれにしても、明確な目標を個々人が掲げ、その達成へのプロセスは個々人に任せ、マネージャーは達成を支援する。このサイクルの徹底は、今後ますます必要になってきます。

プレイングマネージャーの幻想を捨て、
マネージングマネージャーを確立する

そこで重要になるのは、マネジメントの強化です。MBOもOKRもコンピテンシー評価も、導入・運用には手間も時間もかかります。目標設定会議や評価会議をしっかりと行い、メンバーへの的確なフィードバックも必要です。人を育てるには、手間も時間もかかります。この手間を惜しんで「阿吽の呼吸でやってくれ」というのは、雇用形態が多様化し、テレワークが普及してきた時代では、もはや通用しません。

毎日顔を合わせる小さな組織ならともかく、雇用形態の異なる様々な価値観の人たちを遠隔でマネジメントしていくとなると、それぞれのミッションや目標、役割を明確にしないと、組織は成り立ちません。人材育成のコンサルを行うと「もっとシンプルに」というご意見を伺うことがあります。制度はシンプルにする必要がありますが、人材育成は労力がかかるものです。伸びている会社は、目標設定も評価会議も喧々諤々すごい時間をかけてやっています。だから業績が伸びているのです。人材育成は「投資」と考えましょう。

そのためには、マネジメントのあり方も見直す必要があります。目標設定に手間をかけたり、人を育てたり、多様な働き方をマネジメントしていくためには、マネジメントマネージャーが不可欠です。日本でもバブル期まではマネジメントに徹するマネージャーがいましたが、バブル崩壊後には「ただ管理だけをしている管理職はいらないよね」とリストラの対象になってしまいました、

たしかに当時はビジョンや戦略を示すわけでもなく、ただハンコを押しているだけの管理職も少なくなかったため、仕方ない面はあったでしょう。それ以降は「マネジメントマネージャーなんてダサいよね」という価値観が一般的になり、管理職の大半がプレイングマネージャーとなって現在に至っています。しかし、プレイングの割合が70〜80%を占めていたら、いつどのように部下の育成をすればいいのでしょうか?

プロ野球の歴史を振り返っても、プレイングマネージャーとして成功したのは故・野村克也さん1人だけ。日本プロ野球の約100年の歴史において、たった1人しかいないのです。これはプレイヤーとマネージャーを両立することが、いかに難しいかということを如実に示しています。

これはビジネスの世界においても同じです。私たちはプレイングマネージャーの幻想を捨てるべき時期に来ているのではないでしょうか?

プレイングマネージャーは大変です。皆さん辛そうにしています。それを見ているから、今では管理職を目指す人が少なくなってしまいました。これも第2次人事革命の負の遺産です。どの企業も人手不足が叫ばれている昨今、100%マネジメントだけに徹することは難しいかもしれません。しかしプレイングの比率を3〜4割程度以下に抑えなければ、ヒューマンマネジメント・人材育成にかける時間も労力もありません。

全5回にわたって現在の人事における様々な課題についてお伝えしてきましたが、これからの時代、マネジメントがますます重要になっていきます。超ジョブ型人事革命の鍵を握っているのは、それぞれの組織のマネージャーです。人事担当者の皆さんには、管理職のあり方について今一度、考えていただきたいです。そして、この時代の大きな変化に対応し、第4次人事革命を成功に導いていきましょう。

人事で一番大切なこと

人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。 なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?

人事制度の基本

中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。

評価基準

ー「なぜ、あの人が?」
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11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!

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テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
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