脱・年功序列を実現するために最も重要なのは、運用です。新しい制度の運用が始まると、様々な横槍が入ります。人事担当者は抵抗に立ち向かいながら、毅然とした態度で運用をしていかなければなりません。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、脱・年功序列を成功させる人事制度の運用における3つのポイントを紹介します。
脱・年功序列を成功させるために重要なポイントは、まず人事と経営が覚悟を固めることです。制度を作ること自体はそれほど難しくありませんが、多くの企業が運用で砕けています。
それは新しい制度の運用が始まると、まず間違いなく、社内の様々な人から横槍が入るからです。経営陣と人事担当者は「本当にそうするんだ」という覚悟を持って運用にあたらなくてはなりません。
管理職は、従来の年功序列や終身雇用的な考え方に染まっていますから、低い評価をつけることにためらいます。行動ができていなくても、「できている、OK」という「A評価」をつけたり、成果が上がっていなくても「目標達成」としての「A評価」をつけてきます。「Bをつけたら給料が下がるんだろ。Bなんかつけられないよ」とA評価をつけ、それを「親心評価」と言ったりします。そして、そういう人ほど、逆にS評価はつけてきません。
結果、みんな横並びのA評価になります。中心化傾向とよく言われますが、それは「もっと頑張らなきゃ」と社員が成長するきっかけを失わせているのです。全部の項目にAをつけてくるのは、愛のない管理職です。人事担当者は、そのことに気づかせなくてはなりません。
上げるべき人は上げ、下げるべき人は下げる。そうしなければ、優秀な若手から会社を去っていきます。できたことは「できた」と評価し、できなかったことは「できなかった」と評価するのが評価者の仕事。「それができないのであれば、評価者から外れてください」。人事担当者は、そう言い切る覚悟も必要になります。
上げるべき人は上げ、下げるべき人は下げる。降格・降職・降級の仕組みを整える、給与が下がる仕組みに変える。これらを実現するには、評価基準を明確にすることが必要です。
タスクマネジメント(目標設定、計画立案、進捗管理など)とヒューマンマネジメント(コミュニケーションにおける発信力、受信力、人材育成力など)のコンピテンシーを中心に、成果を生み出すための欠かせない行動を明確に定義する。これが大前提となります。
運用において重要なポイントは、MBO(目標管理制度)を徹底し、個々のミッションと目標(KPI)を明確にすること。会社の目標→組織の目標→チームの目標→個人の目標をブレイクダウン、あるいは相互にすり合わせて、「何をどこまで実現するのかという目標」を明らかにします。
この半期、もしくは1年、何をどこまでやるのか。こうした明確な目標を立て、目的地をはっきりさせないと、社員は何をしたら評価が上がるのか下がるのか、給与が上がるのか下がるのか、わからなくなります。
目標設定こそが運用の鍵です。人事、管理職、社員、みんなで悩みながら真剣に取り組まなくてはなりません。社員の目標をちゃんと目標と呼べるようなものにする。そのレベルを揃える。それを管理職たちのすり合わせによって実現できるようにするのが、脱・年功序列の第一歩です。
仕事には必ず目標があります。目標設定は「計算ミスをしない」とか「より効率化をめざす」といった曖昧なものではなく、「ミスの数を5個から3個に減らす」とか「給与計算期間を4日間から3日間に短縮し効率化する」といった達成基準を明確にすることが重要です。
どんな職種であっても、定性的な目標は立てられます。「管理部門だから目標が設定しにくい」などという消極的な意見に対しては毅然とした態度で、明確な目標設定を促していくべきでしょう。
目標に向かってのプロセスは、個々人に任せていきます。こうしたマネジメント手法を徹底していくことが、脱・年功序列の成功につながっていくのです。
MBOを導入しても運用に失敗する企業が多いのは、目標設定が曖昧になっているからです。最初は難しく感じると思いますが、3回程度回せば、軌道に乗ってうまくいくようになります。
評価基準を明確にし、具体的な目標を設定したら、それに則って、評価を厳正に行うのが重要なポイントです。そのためには、評価会議をしっかりやることが重要になります。
評価会議をやって、管理職がつけてきた評価を見れば、ちゃんとやっているのか、やっていないのか、評価者としての姿勢が可視化できます。「親心評価だ」「評価を下げるのはしのびない」などといって全部の項目にAをつけてくる愛のない管理職に対しては、人事担当者が毅然とした態度で注意を促さなくてはなりません。
高評価と低評価をしっかりつける。評価会議でゆるい評価を洗い出していく。これが脱・年功序列の肝です。そのためには、よっぽど緊張感を持ってマネジメントしなくてはできません。
成果や行動を度外視して「こいつ上げられないの?」「そろそろ昇格させてもいんじゃない?」などと言ってくる人がいたら、たとえ相手が役員であっても「上げられません」「ダメです」「変わったんですよ、人事制度の考え方が」「昔と違って今は転職も容易ですから、いいやつは評価しないと絶対辞めますからね」「ポーッとしたやつしか残らないですよ」などと言って丁々発止をしていかなければなりません。
ただ、これは正直、難しいです。人事担当者はこうした姿勢が絶対に必要ですが、すべての社員が年功序列の考え方から脱却するには時間がかかります。新しい制度が軌道に乗るまでは、私たちのようなコンサルタントを評価会議に入れることも検討してみてください。外部の人間がいることによって客観性が保たれやすくなり、役員の説得や啓蒙、評価者による評価の甘辛の調整などもしやすくなるはずです。
結局、人事評価も最後は、人と人とのコミュニケーションで決まります。脱・年功序列を成功させるために大事なのは、経営と人事の覚悟、そして人事担当者の「想い」の強さです。運用においては、それが特に重要になります。次回は、人事担当者に必要なマインドセットについて詳しく解説します。
つづく
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
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ー「なぜ、あの人が?」
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