働き方改革を推進している現代社会において、いまだにブラックと言われる企業がなくならないのはなぜでしょうか?労働環境を整えるのは、人事の重要な課題です。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、ブラック企業について改めて問い直します。
そもそもブラック企業とは、どんな会社なのでしょうか?
人事担当者がまずすべきことは、「ブラック企業って何?」と改めて考えてみることです。
・低賃金で長時間労働を課す
・社員を使い捨てにする
・大量採用と大量離職を繰り返す
・パワハラ・セクハラ
・情報遮断・人格否定
・精神論がまかり通る
ブラック企業とは、一般的にはこのように言われています。もし上記に該当するようであれば、人事担当者はすべてにおいて即刻見直すべきでしょう。ただ、最近はもっと単純に「長時間労働=ブラック企業」という見方が強くなっているようです。
例えば、イベント業界やウェディング業界では、時間外労働が多いため、残業を減らすことを目標にしている会社があります。今はコロナ禍でイベントや結婚式がなくなっているので、仕事がなく、残業もないため、人事評価の「時間外」の項目は、最上級の「SS」になっていたりします。
しかし会社が本来、評価すべきことは、社員の成長や生産性の向上のはずです。時間外労働をしなかったからOKというのは、本末転倒になっていないでしょうか?
長時間労働がない=ブラック企業ではない。
こうした発想は、企業の力を弱め、社員も不幸にしてしまうのではないか。
私はそんな懸念を抱いています。
では、ブラック企業の対となるホワイト企業とは、どのような会社なのでしょうか?
就活生が考えるホワイト企業は、以下のような会社だといいます。
・残業がない
・福利厚生がしっかりしている
・ワークライフバランスがとれている
・休暇や残業時間に対する取り組みがあり、実際に行われている
・社員が自社に満足している
多くは「働きたくない」ということのように見えます。
内定した会社に夜9時に電話してみて、社員が出たら、その会社を辞退する学生もいるといいます。残業をやっている=ブラック企業、ということなのでしょう。
でも、残業がなく、福利厚生がしっかりしていて、ワークライフバランスがとれている企業が、必ずしも「いい会社」とは限りません。社員のモチベーションが低く、スキルも身につかず、仕事を通じて成長したい人にとっては、物足りない会社かもしれません。
もちろん低賃金で残業が80時間とか100時間という会社はダメですが、就活生が望んでいるような働き方で、本当に社会で通用する力が身に付くのでしょうか?
もう昔の話ですが、私がキャリアを積めたと思う会社は、残業が多く、徹夜もありました。福利厚生はたいしてなく、あっても使われていませんでした。仕事ができるようにならないとバランスどころではなく、怒鳴られたり、モノが飛んだりしてきました。残業等の取り組みはありましたが、忙しい人ほど仕事が集まってきました。でも、社員の多くは、なんやかんや言いながらも、満足していました。
もちろん今とは時代が違います。私がキャリアを積んだ4社は、今だったらブラック企業と呼ばれていたかもしれません。それでも社員の多くは、会社のことが好きで、信頼し、いきいきと働いていました。このような働き方は、今では社畜と呼ばれるのかもしれませんが、私が今でも楽しく仕事ができているのは、この頃に必死になって働いていたからです。そこで身につけた力が、転職しても、独立しても、とても役に立っているのです。
それが自分の成長のためであったり、会社のやっていることを理解して、それが自分のやりたいことに繋がっているのなら、働く時間が多少長くても、意外と楽しいものです。
一人前になるためには、がむしゃらに仕事に取り組む時期も必要だったりします。こうした考えは「昭和」と揶揄されがちですが、「働くことの本質」は、昔も今も、実は変わりないのではないでしょうか?
その会社で働いても、世の中に通用する力が身につかない。他に行くことができない。
ブラック企業について、私はこのように定義しています。
意味のない残業や目的のない長時間労働は、疲弊するだけです。
それでは、世の中に通用する力は身につきません。
しかし、ハードワークでも、世の中で活躍している人を輩出している会社は、
ブラック企業ではないはずです。
今、年功序列や終身雇用が限界を迎え、社会が大きく変わろうとしています。「どこに行っても通用する力」は、今後ますます必要になってきます。
その会社での経験を生かして、「どこにでも行ける人材」になれたら、一生の財産になります。そういう力を身につけられる会社こそが、本当の意味でのホワイト企業ではないでしょうか?
毎日9時5時で3年間働いても、単純労働しかしていなくて、何の力もついてない。これでは将来、その社員は立ち行かなくなってしまいます。過度な長時間労働やパワハラ・セクハラを廃止していく一方で、社員が世の中で通用する力が身につく施策を打っていく。人事には、この両面が必要です。
単に働く時間を減らすことだけが、ブラック企業にしない方法ではないのではないか?
人事担当者の皆さんには、そうお伝えしたいです。
ブラック企業については、人によっても定義が異なるでしょう。ご自身でも考えていただいて、社員が本当に幸せになれるのは、どんな会社なのか、改めて考えてみていただきたいです。それがブラック企業を無くしていくうえで、最も大切なことなのではないでしょうか?
では、世の中で通用する力とはどのようなものなのでしょうか。こちらは次回考えてみましょう。
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