2024.09.06
リモートワークの浸透によって、日本の雇用制度のあり方が大きく変わろうとしています。「成果」を評価することは、リモートワーク時代におけるマネジメントの方向性として正しいと思います。「成果」は、そこに至る「プロセス」によってもたされますが、リモートワークにおいて「プロセス」が見えにくいとすれば、「成果」を重視せざるを得ない、ということは間違いないでしょう。
リモートワークの浸透によって、日本の雇用制度のあり方が大きく変わろうとしています。中でも最近目立つのが、以下のような論調です。
・社員を「時間」で管理するのは難しくなった
・これからは「時間」ではなく、「成果」で評価すべきだ
・だから「ジョブ型」を導入すべきだ
富士通、日立、資生堂、KDDIなど、すでに運用を開始したり、今後の導入を宣言している企業もあり、今後さらに増えていくことが予想されます。
「成果」を評価することは、リモートワーク時代におけるマネジメントの方向性として正しいと思います。「成果」は、そこに至る「プロセス」によってもたされますが、リモートワークにおいて「プロセス」が見えにくいとすれば、「成果」を重視せざるを得ない、ということは間違いないでしょう。
評価される側の人は、前回の記事(リンク入れる)でお伝えしたように、自分の「職務(ミッション・役割)」と「成果」を明確に定義し、ジョブ型の導入に備える必要があります。
しかし、評価する側の人、経営者やマネジメント層、人事担当のみなさまには「ちょっと待った!」と申し上げたいです。
成果主義を偏重しすぎることは、危険かもしれません。そもそも「成果を重視=ジョブ型」ではないのではないでしょうか。
ジョブ型とは、欧米で浸透している「職務主義型」であり、「仕事」に値段をつける雇用制度です。仕事を「ジョブディスプリクション(職務定義書)」によって定義し、たとえば営業部長なら1000万、人事部長なら800万と、ポストによって年収を定め、誰がその仕事をしても、誰がその職務についても、同じ給与になります。
日本の多くの企業のように、年功や定期昇給で給料が上がるという考え方は一切ありません。ジョブ型は、ポストが空かないと、下の人が上にあがることもありません。
では、どうやって昇進・昇給をするのかというと、以前外資系企業の人事マネージャーに伺った話ですが、「たとえばオセアニア地区の人事部長のポストが空いたとします。そこに立候補するのです。選考を受けて選ばれれば、ポストに応じた年収がもらえます。ポストが空かない限り、その会社で給料が上がることはありません」ということでした。
ジョブ型に対比する雇用制度は、日本で浸透している「メンバーシップ型」です。要は「この会社の所属員としてどんな仕事でもやってくださいね」という制度です。
人事異動を前提としているのがメンバーシップ型ですから、職務を限定してしまうと、ジョブ型の運用は難しくなります。たとえば、営業部長が年収1000万で、人事部長が年収800万といったジョブディスプリクションを定義しても「営業部長を人事部長に異動させたらどうなるの?」といった問題が起こります。
営業部長から人事部長に異動したら、これまで1000万だった年収を800万に下げる。そんなことが可能でしょうか?
本当に欧米型のジョブ型を導入しようとするなら、これまでの日本型の考え方をすべて捨てる必要があります。その覚悟はあるでしょうか?
私には、現在の状況はバブル崩壊後の繰り返しのように感じられます。バブル崩壊後も「欧米では当たり前」ということで、ジョブ型や成果主義が脚光を浴びました。
そして、いくつもの企業が導入を試みましたが、多くの会社では成功しませんでした。
日本企業の「人」に対する考え方は、「できるだけ長く働いてくださいね」という発想が根底にあります。成果主義を導入しても、多くの企業では年功序列を捨てることができず、数年後には成果主義をやめ、元に戻す会社が多数ありました。
日本ではメンバーシップ型の志向が強かったからでしょうが、企業に本当にそこまで踏み切る覚悟がなかった、と言えると思います。
そして、戻せばいいというものではありませんでした。その間に、人心は荒れ、社内は混乱しました。
成果主義の導入に失敗した理由はいくつかありますが、ひとつは、当時の成果主義は、極めて短期的な発想だったことです。「今年の成果を上げれば、来年の年俸が一気に上がる」といった仕組みだったため、「お客さんを騙して売ってもいいじゃん」みたいな短絡的な考えが横行し、焼き畑農業みたいな営業をする人が増えました。
また、個人の成果を重視しすぎたため、「チームで頑張ろう」ではなく「手柄は俺のもの」といった個人主義に陥り、スキルや経験が継承されない問題が起こりました。
有名な例でいえば、三井物産です。同社は「人の三井」と言われるほど「人」を強みにして、マニュアル化できないノウハウを伝承する文化がありましたが、上司が部下に仕事を教えなくなることで人が育たなくなり、結局、数年後には元に戻すことになりました。
私は、また当時と同じことが繰り返されるような気がしてなりません。
今の若い世代は「なんで俺と同じ仕事をしてるのに、あのオッサンのほうが給料高いんだよ」「リモートワークもできないくせに」「こんな会社、辞めちまえ」と考えている人も多いでしょう。ジョブ型が支持される可能性は、もちろんあります。
年齢や勤続年数ではなく「職務」に値段をつけて、現在の成果のみで社員を評価し、適切な給与を与えることも、合理的な考え方だと思います。
しかし、年功序列を完全にやめる、給料の高いおじさんは全部落とす、もうこれからは成果しか見ない。
20年前もこのような考えのもとに多くの企業が成果主義を導入しましたが、やってみたらうまくできず、結局もとに戻しました。
これが、この20年間の日本だったのではないでしょうか?
そうした過去も踏まえ、これまで自社が築いてきたことをすべて捨てる覚悟が本当にあるのなら、ジョブ型を推進するのもひとつの手でしょう。
しかし、もしそうでないのなら、慎重になって踏み止まる必要があると思います。
成果を重視する雇用制度は、ジョブ型だけではないのです。
大切なのは、それぞれの企業の「考え方」。ジョブ型はひとつの「やり方」にすぎません。「やり方」は「考え方」がしっかりしていて、はじめて機能します。
たとえメンバーシップ型であっても、成果を重視した雇用制度にすることは可能です。
リモートワークに対応することも十分できます。
それは「目標管理」をきちんと機能させることです。
すなわち、社員個々人の「ミッション」と「成果」を明らかにすること、させること。
これはジョブ型であろうが、メンバーシップ型であろうが同じです。
評価される側は、自ら「ミッション」と「成果」を明確にし、上司の承認を得る。上司は、その目標と達成基準でOKなのかを判断し、あとは個々の自己統制に任せる。
私は、これがリモート時代のあるべき働き方とマネジメントの方法だと考えています。ジョブ型であるか否かは、重要な問題ではないのです。
「流行りものに飛びつくな」
これは私の人事としての信条です。評価する側のみなさんは、「流行りもの」に飛びつこうとしていないか、くれぐれも慎重に検討してみてください。
バブル崩壊後に何があったのか、今とは何が違うのか。
会社がその方向に舵を切ったときに、働く人はどうするのか。
考えなくてはならないことは、無数にあるはずです。
次回に続く
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
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この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
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人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
昇進、昇給、ボーナス、異動、進退……。これらは何によって決まるのでしょうか? そう、人事評価です。その評価を決めるのは、あなたの上司です。 ところが、この評価をきちんとやらない上司が少なくありません。 「そんなことやっているヒマはない」「面倒くさいことやらせやがって」と人事に文句を言う人も多く、中には部下の自己評価をコピペして提出する管理職もいます。 いうまでもありませんが、人の上に立つ立場になったら、部下やメンバーを育てることが重要な任務です。
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リモートワークによって、日本の雇用制度は大きく変わろうとしています。リモートワークでは、社員が働く姿がよく見えません。上司によるマネジメントが徹底しにくくなるため、今後はセルフマネジメントできる人材が強く求められるようになります。では、セルフマネジメントとは、具体的には何をすればいいのでしょうか。
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「うちは、好き・嫌いで評価していますから……」 給与、昇進、ボーナス、異動、さらには左遷やリストラなど、会社員の人生はすべて「評価」によって決まります。 評価が高ければ、給与が上がり、昇進し、ボーナスも上がる。 評価が低ければ、給与は上がらず、昇進もできず、リストラもあり得る。 ビジネスパーソンにとって本来「評価」は極めて重要なものです。 にもかかわらず、何をすれば評価が上がり、評価が下がるのか。ほとんどの会社では、その基準を明らかにしていません。
のハラスメントが、深刻な社会問題になっています。2019年5月には、パワハラを防止するための「パワハラ防止法(改正労働施策総合推職場進法)」が成立。大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日から、パワハラ防止のための措置が義務づけられました。これによって必要な措置を講じていない企業は、是正指導の対象となります。そこで今回は、パワハラやセクハラの「加害者」にならないように、人事の立場から防止策をお伝えしたいと思います。
あなたは、現在の自分の評価やポジション、給与などに満足していますか? このような悩みはないでしょうか。「高い業績をあげているのに、会社から評価されない」「実力と給与が見合わない」「自分ではなく、○○が昇進するのが納得できない」 私はこれまで1万人以上のビジネスパーソンの昇格面接や管理職研修を行い、300社以上の企業の評価・給与・育成などの人事全般にたずさわってきました。そして、多くの方々から上記のような不満や悩みを伺ってきました。評価されない、給与が上がらない、昇進できない。これらのケースの場合、その理由はさまざまですが、実は多くの人が気付いていない盲点があります。
社内外のコミュニケーション手段として、メールに加え、チャットツールを導入する企業が増えています。チャットはPCやスマホを通じてリアルタイムのコミュニケーションを可能にするツールで、社内SNSとも呼ばれています。リモートワークの普及にともない、チャットの利用頻度も高くなり、上司や同僚、部下、あるいは取引先から、毎日多くのメッセージが届くような時代になりました。