日本の労働生産性は、先進国で最低レベル。人事担当者の間でも「うちは生産性が低い」「残業を減らさなきゃ」といった話がよく聞かれます。働き方改革を進める中、生産性を上げるには、人事担当者はどのようなことに取り組むべきでしょうか? そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、労働生産性を上げる方法について解説します。
「日本は生産性が低い」と言われて久しいです。時間当たりの労働生産性を比較すると、日本はOECD加盟国35カ国の中で21位にあたり、米国を始めとするG7各国の中では最下位になっています。
ここ数年は、「生産性の向上」「業務の効率化」はビジネスにおける流行語のようになっており、人事担当者の間でも「うちの会社は生産性が低い」「働き方がダメだ」「もっと効率化しないと」といった話をよく聞きます。生産性の向上や業務の効率化は、もちろん重要です。
しかし、「生産性」とは具体的に何を指すのか、実はよくわかっていない人も多いのではないでしょうか。なんとなく感覚的に「生産性を上げろ」「残業を減らせ」と言ったりしていませんか?
総務省の定義では、「生産性」とは、経済的な成果を生み出す効率性を指す概念で、これを定量的に表す指標のひとつとして「労働生産性」が用いられています。労働生産性は、一般に就業者1人当たり、あるいは就業1時間あたりの経済的な成果として計算されます。
人事担当者のみなさんは、自社の「労働生産性」をちゃんと見ていますか?
具体的な指標を追い追いかけていますか?
労働生産性を可視化するひとつの方法として「労働分配率」があります。企業は事業が生み出した付加価値を基に、人件費などの諸費用をまかない利益を得ています。労働分配率は、企業が生み出した付加価値のうち、どれだけ人件費に分配されているかを表します。この数字の推移によって、自社の生産性が可視化され、具体的な施策を打つための手掛かりになるのです。
自社の労働分配率は、簡単に調べることができます。人件費を売上総利益で割ったものが、労働分配率です。以下の数式で計算してみてください。
人件費÷売上総利益=労働分配率
売上総利益とは、いわゆる粗利です。売上総利益の中には販売管理費があり、売上総利益から販売管理費を引くと、営業利益になります。この販売管理費の中に、人件費が含まれています。売上総利益の中で人件費がどれくらい占めているのかが、人事担当者が注目すべきポイントです。
労働分配率は、ご存知の方がほとんどだとは思いますが、単なる知識として終わっていて活用していない人も多いのではないでしょうか。労働分配率の推移を確認し、人件費や人員数の推移をチェックしてみましょう。頭数が増えれば、当然、人件費は増えますが、売上総利益が伸びていれば問題ありません。
労働分配率が低ければ、人件費が占める割合が低い状態で高い付加価値を生み出しているわけですから、「生産性が高い」ということになります。ですから労働分配率は低いほうがいいのですが、これは業種によって異なるため、何%が適切ということは一概には言えません。
ここで重要なポイントは、「人件費」の推移だけを見ても、あまり意味がないということです。人件費が上がっていても、売上総利益が上がっていれば、労働分配率は上がりません。人件費の上昇以上に、売上総利益が上昇していれば、何の問題もないのです。
ところが、人件費が上がっているだけで「やばい」「うちは生産性が低い」「残業を減らさなきゃ」と慌ててしまう人が少なくありません。これはまったく意味のないことで、たとえ人件費が増えていても、売上総利益が伸びているのなら、生産性は上がっているのです。
本当に「やばい」のは、売上総利益が変わらないのに、または下がっているのに、人件費が伸びている状態です。これは労働分配率が上がり、生産性が下がっている状態ですから、対策を講じなくてはなりません。
労働分配率は、本来であれば、経営や経営企画が見ていればいいのですが、意外と会社の中でも誰も見ていなかったりします。私の前職でも、誰ひとり指摘していた記憶がありません。労働分配率を聞かれてすぐに答えられる会社は、ほとんどないのではないでしょうか。人事はもちろん、社長でさえ危ないです。
「生産性を上げろ」「業務を効率化しろ」と号令を出す前に、何を持って「生産性」としているのか、まずはそこを明確にすることが必要です。
労働分配率の推移をマクロ的に捉えて、次に同業他社や近しい業種の労働分配率を見てみましょう。上場企業の有価証券の報告書を見れば、一発でわかります。他社の有価証券を見て、自分の会社の労働分配率は他社と比べて高いのか低いのか、チェックしてみてください。
そして、自社の労働分配率が高ければ、その原因は何か、残業が多いのか、賞与の支給が多いのか、他社と比べて給与が高いのか、具体的な要因を探っていきます。
たとえば、労働分配率が高い原因が「他社より平均年齢が高い」ということであれば、年功序列で社員の給料が高くなっていることから、労働分配率が上がっていると考えられます。となれば、人事制度の見直しが急務です。「人件費を抑えないと、いい加減まずいな」というスイッチを入れるためにも、人事担当者は労働分配率の推移を確認しておく必要があります。
生産性を確認する指標は、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)などいろいろありますが、自社と他社の労働分配率を比べてみるだけで十分だと思います。
人件費の中身をチェックし、労働分配率が高くなっているのは、社員の人件費なのか、アルバイトの人件費なのか、定期的な人件費なのか、変動費的な人件費なのか、といったところを細かく掘り下げていけば、正社員を減らしてアルバイトを増やしていこうとか、正社員が残業するよりアルバイトを入れたほうがいいといった施策が見えてきます。
たとえば、アルバイトが時給1200円で、正社員が時給2000円だとしたら、正社員が残業をしたら1.2倍の時給2400円ですから、時給1200円のアルバイトを入れたほうが生産性は上がります。
自社の労働分配率を調べることで、こうした具体的な施策に入っていけます。「誰の人件費が多いんだっけ?」とか、部門別や事業別に掘り下げていくと、いろんなことが見えてきます。
たとえ残業が多い部署があっても、労働分配率が低ければ、生産性は高いのです。この部署の残業を減らすことによって、会社全体の生産性が下がってしまうかもしれません。多少は残業が多くても、健康を害するほどの時間でなければ、「働きすぎに気をつけてくださいね」と言うだけでもいいわけです。
逆に、労働分配率が高いのにやたらと残業をしている部署があったら、これは当然、注意が必要でしょう。
一律に「残業を減らせ」と言うのは簡単ですが、人事担当者はそういうところまで踏み込まなくてはいけないのではないでしょうか。労働分配率を普段から見ておけば、適切な人事施策を打つことができます。人事担当者のみなさんが、労働分配率の推移をチェックして、生産性の向上に努めていきましょう。
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