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超ジョブ型とは何か?①テレワーク、ジョブ型、70歳定年…第4次人事革命が始まっている

テレワークやDX対応、ジョブ型、70歳定年、早期退職、黒字リストラなど、今、人事の課題は山積みになっています。この「第4次人事革命」において、人事担当者がやるべきことは何なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、日本企業の人事施策の変遷を振り返りながら、歴史から学ぶべきことをお伝えします。

世界一「社員が会社を信頼していない国」ニッポン
になった理由

私は2021年3月に『超ジョブ型人事革命』という本を上梓しました。昨年ぐらいからジョブ型雇用が注目を集めていますが、私がこの本で伝えたかったのは「ジョブ型を超えていこう」ということでした。これは与えられたジョブをこなすだけでなく、自分のジョブは自分で定め、自ら成長していける人材を「超ジョブ型プロフェッショナル」と定義し、「どこにでも行ける人材」を育てていこうという願いを込めたタイトルでした。

なぜこのような本を書こうと思ったかというと、日本の企業を取り巻く環境が極めて大きく変化しているからです。2020年のコロナ禍をひとつのきっかけとして、ジョブ型、テレワーク、DX対応、黒字リストラ等による45歳以上の早期退職、70歳までの雇用努力義務化など、企業の課題は山積みしています。人事担当者の皆さんは、この大きな変化に対応しなくてはいけません。まさに今「第4次人事革命」が始まっているのです。

日本の企業は、過去にも何度か「革命」と呼べるほどの時代の変化にさらされ、そのたびに人事も大きな変化を求められてきました。しかし、革命といっても成功ばかりではありません。日本の人事施策においては、むしろ失敗・失策の繰り返しでした。その結果が、現在の日本の厳しい状況に反映しています。

2016年、米国のPR会社Edelman(エデルマン)が世界28カ国の約3万30000人以上を対象に実施した「2016 エデルマン・トラストバロメーター」(2016 Edelman Trust Barometer)という調査で、日本の残念な実態が明らかになってしまいました。「あなたは、あなたの会社を信頼していますか?」という質問に対して「信頼している」と答えた日本人はわずか40%。世界28カ国で最下位でした。その後の調査ではやや回復したものの、2019年も2020年もワースト2位(2019年の1位は韓国、2020年はロシア)でした。

なぜ、このようなことが起こってしまったのでしょうか。これはジョブ型などの新しい人事制度を取り入れれば解決するという単純な問題ではありません。企業や人事のあり方が、根本的に問われているのだと思います。歴史は繰り返すといいます。同じ轍を踏まないためには、これまでに何があって、何が失敗だったのかを検証してみる必要があります。今後の人事を考えるために、まずは人事革命の変遷を振り返ってみましょう

成果主義、ジョブ型、リストラ…
「第2次人事革命」の失敗

戦前・戦中・戦後から日本企業の強みとして高度成長を支えてきたのが、年功序列や終身雇用でした。しかし、1973年のオイルショックを契機に高度成長が終焉し、日本経済も企業の成長スピードも落ちてきました。それまでの日本企業では「部長」や「課長」といったポストで人を処遇してきましたが、ポストを増やすことができなくなり、「能力」で処遇しようとなったのが、第1次人事革命でした。

能力は、経験とともに年々積み重なります。ビジネスパーソンの能力が「落ちる」ということはそうそうありませんから、年功序列や終身雇用との相性も良く、当時の日本企業の多くの企業がこの仕組みを導入しました。ポストがなければ、能力で処遇する。これは高度成長が終わっても、まだ企業に余裕があった時代の仕組みといえるでしょう。1980年代の後半には、日本は空前のバブル景気に沸きました。

ところが1990年代に入り、バブルがはじけ、日本企業の成長が止まります。ポストはもちろん、能力でも、社員を処遇しきれなくなりました。企業業績の悪化は、人事にも急激な変化を求めることになりました。そこで注目されたのが、欧米型の成果主義です。「仮に能力が高くても成果を出さなきゃダメだよね」という考えが脚光を浴び、多くの企業が成果主義を導入しました。さらに年功序列によって給与が高くなった中高年の大規模なリストラがほぼ同時に進行しました。

また、職務を明確にして、人ではなく「仕事」に焦点を当てる仕組みを試みる企業も出てきました。そう、今でいう「ジョブ型」です。当時は職務主義と呼ばれ、年功序列を否定する合理的な施策として注目を集めました。成果主義とともに年俸制を導入する企業も増え、正社員がリストラされる一方で、有期雇用や派遣スタッフが増加しました。非正規雇用の増加や業務のアウトソーシング化が進み、人事部不要論が巻き起こりました。「現場が人事をすればいいのであって、従来型の人事部はいらない」となったのです。これが第2次でした。

その揺り戻しが来たのが、第3次です。結局、成果主義は多くの問題点が明らかになり、ジョブ型も定着せず、混乱だけを引き起こしました。「いろいろやってみたけど失敗だったよね」となりましたが、第1次に戻ることはできません。そこで能力ではなく、行動や役割で処遇する考え方に移っていきました。2000年代以降は成果と行動、成果と役割などで社員を評価する考え方が浸透してきましたが、2020年の新型コロナウイルスによって社会が激変し、今また大きな変革が求められることになっています。

「やり方」ではなく「考え方」から始めよう

私が今、非常に危機感を抱いているのは、第2次とほぼ同じ現象が起こっているからです。2020年から「テレワークだから成果を見ましょう」とか「ジョブ型で職務を明確にしましょう」と盛んに言われるようになってきました。それ自体は間違ったことではないと思いますが、その前に慎重に考える必要があるのではないでしょうか。「やり方」だけを変えても、「考え方」を変えなければ、また同じ失敗を繰り返します。

90年代に成果主義を導入した多くの企業は、実際には年功序列を捨てきれず、管理職は全員A評価とか、社員はみんなB評価とか、制度と実態に矛盾が起こっていました。実は今もその状況にあまり変わりはなく、表向きは「パフォーマンスによって処遇を決めます」と言っていても「可哀想だから評価は下げない」とか「社員はみんな真ん中のB評価」という会社が少なくありません。しかも経営や人事がその矛盾に気づかず、「言ってることとやってることが違うじゃん」と社員から信頼を失い、優秀な人材ほど離職していきます。

また、第1次から変わらず、年功序列を続けている企業もありますが、日本は超高齢化社会に突入し、現在の日本人の平均年齢はほぼ49歳です。定年も延長され、70歳までの雇用義務化も時間の問題です。そのためコロナ禍以前から45歳以上の早期退職・希望退職といった名目によって中高年のリストラをする企業が増えてきました。中高年のリストラも第2次で顕著になった現象ですが、これによって日本の企業は社員の信頼を失いました。こうした積み重ねによって、日本は世界一「社員が会社を信頼していない国」になってしまったのでしょう。

人事が間違ってはいけないのは、「失敗は新聞記事にならない」ということです。「成果主義、はじめました」とか「ジョブ型、入れました」といった前向きな施策を始めた企業はマスコミによく取り上げられます。しかし、「失敗したのでやめました」ということは、ほとんどニュースになりません。会社も発表しませんし、マスコミも注目しません。90年代に人事部不要論が高まったときも、「当社は人事部を廃止しました」と誇らしげに語る経営者がマスコミに取り上げられていましたが、その会社もいつの間にか人事部が復活していました。

新しい施策などの変化の情報は、しっかり見極めなくてはいけません。「欧米では当たり前らしい」とか「大企業はみんなやっている」といった情報に踊らされてしまうと、まず失敗します。しかも人事施策の失敗は、すぐにはわかりません。1年、2年と運用し(運用そのものができない場合もあります)、その結果、「ダメだったね」となりますが、社員のモチベーションは低下し、優秀な人材ほど離職し、業績が大幅に下がるなどの悲惨な事態を引き起こします。安易に制度変更に走ると、第2次と同じ失敗を繰り返すことになります。

もちろん時代は進んでいます。新しい施策も当然必要ですが、同じ失敗をしたら取り返しがつかなくなります。人事は「やり方」の前に、まず「考え方」をしっかり持ってほしい。『超ジョブ型人事革命』は、そんな危機感から書いた本でした。では、具体的に何をするべきなのか。次回、詳しくお伝えしたいと思います。

次回につづく

人事で一番大切なこと

人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。 なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?

人事制度の基本

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多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。

評価基準

ー「なぜ、あの人が?」
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どうすれば給与が上がるのでしょうか。
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