2020.12.25
リモートワークの普及によって、再び注目を集めている「ジョブ型雇用」や「成果主義」。これらは決して新しい考え方ではありません。では、なぜ今になって注目されているのでしょうか?それは、リモートワーク化によって、社員の作業プロセスを見ることができなくなり、出てきた「結果・成果」でしか仕事の達成未達成が判断できない状況になったからです。
「ジョブ型雇用」や「成果主義」を導入すれば、リモートワーク管理できるのでしょうか?
逆になぜ、今まで「ジョブ型雇用」や「成果主義」は浸透しなかったのでしょうか?
今回は、リモートワークの緊急普及から約8ヶ月がたった今、日本の職場はどうなっているのか?今後、どのように変わっていくべきかを議論したいと思います。
まず最初に整理しましょう。そもそも、「ジョブ型雇用」とは何でしょうか?
ジョブ型雇用というのは、採用時に各自のジョブディスクリプション(職務定義書)を定義し、管理します。誤解をおそれずに一言で言えば、全社員の仕事内容を詳細に決め、その仕事が実行された、されない、で管理、評価をする仕組みです。
つまり、「人を見て、仕事内容や処遇を決める」のではなく、「仕事とその報酬を定義してそこに就く人を決める」という概念というとわかりやすいでしょうか?
簡単にいえば、フリーランスに業務委託で仕事を依頼することをイメージしていただければと思います。
「この仕事をやってくれたら○○円払います」という指示・管理系統をすべての社員に対して行いましょう、というのが「ジョブ型雇用」です。例えば開発主体のIT企業などでは、もともと開発プロジェクト単位で動き、要件定義、基本設計と呼ばれるプロセスで各社員のジョブディスクリプションが明確になりますので比較的違和感なく導入できている企業もあるようです。では、一般的な日本の企業ではどうでしょうか?
「なぜ今まで日本ではジョブ型雇用が普及しなかったのでしょうか?」という質問の答えを考えてみれば自ずと答えが見えてきます。先程、ジョブ型雇用のことを「人を見て、仕事内容や処遇を決める」のではなく、「仕事とその報酬を定義してそこに就く人を決める」という概念とお伝えしました。つまり、「仕事と報酬を定義して、そこに人を当てはめる」ということですから、一つの結論を言ってしまえば社員全員を業務委託に切り替えれば良いという話でもあります。
貴社では、社員全員を業務委託に切り替えることは可能でしょうか?不可能でしょうか?
不可能であれば、なぜ不可能なのでしょうか?
もちろん、社会保険などの行政的な問題は置いておいて、「仕事を遂行する」「社員の生活を保障する」という2点だけを考えれば、全社員を業務委託に切り替えられるでしょうか?
もう一段、掘り下げて聞きましょう。
「仕事が無いときには無給になる社員がいても大丈夫でしょうか?」…ここまで言うと強く言い過ぎですね。
「仕事内容が変わることで、給料が下がることが日常的に発生しても問題ないでしょうか?」これだと、難しいイメージが伝わりますでしょうか?
そう、シンプルに言えば、ジョブ型雇用は「給料が上る人もいれば下がる人もいる」のです。「では、給料を維持できるだけの仕事を用意すればいいではないか?」と反論されるかもしれませんが、それが最も難しいことであるのは、歴史が物語っています。日本では「社員の給与を守る」ことが大切にされているケースが多いのです。そのため、ジョブ型雇用で給与が下がってしまう社員を前にすると「新しい職位を作ろう」などという、本末転倒な議論が行われ、ジョブ型雇用が破綻していったのです。「このポストをはずれたらこの人年収下がるんだよね」「子供もまだ小さいから忍びないよね」「だったら、それなりのポスト作ろうか」「ジョブディスクリプションをそれに見合って作っておいて」。こういった会話を聞いたこともあります。日本らしいウエットな感覚で、いいところとも言えますが、少なくともジョブ型雇用は機能しません。
もちろん、それだけでなく法的な面での壁も分厚いものです。本来ジョブ型雇用は結果・成果のみで報酬を定義するため、残業等の概念はありません。しかし、日本の労働基準法はそれを寛容してくれる内容ではなく、どこまで行っても時間で管理するしかありません。奇しくも現在はリモートワークを強要される環境のため、社員が自宅でどれだけ仕事をしているかわからず、個人の判断による勝手な残業にも、管理監督責任を問われる可能性もあるほどです。そのため、リモートワークで仕事をしている社員がパソコンの前にいるかどうかを5分ごとに報告するような、無意味なシステムが重宝されてしまうのです。
ただ、一つ忘れてはならないのが、そもそも労働基準法に基づく「労働者性」の判断基準において、雇用主が「勤務時間」と「勤務場所」を指定すること、とあり。そもそも、リモートワークという就業形態自体が日本では法的には認められていないのです。
今、世間的に必要とされている「ジョブ型雇用」を責めても仕方がないので、日本でも浸透可能なジョブ型雇用という観点に目を向けてみましょう。不可抗力でリモートワークを浸透せざる負えなくなった2020年、多数の導入事例を分析した結果としてひとつの実現可能な方向性が見えてきました。それが、「職務階級ごとにジョブディスクリプションを設定する」という方式です。
これは「役割主義」とも言われ、実施している企業は少なくありません。「役割から外れたら給与が下がる」という考え方がしっかりしていないと運用できませんが、今、改めて有効な施策となっていることは間違いないでしょう。
例を挙げれば、部長のジョブディスクリプション、マネージャーのジョブディスクリプション、グループリーダーのジョブディスクリプション、といった具合に階級ごとの普遍的なジョブディスクリプションを設定するという方式です。職種と階層ごとにジョブディスクリプションを定めると、作成に多大な労力とコストが必要となりますが、階層ごとの普遍的なものであれば、それほど手間をかけずに作成が可能です。
さらに言えば、職種ごとに要件を定めると、職種格差が生まれるだけでなく、会社の業務が変わった時にすべて作り直さなくてはいけなくなる可能性があります。
しかし、階層ごとに対応した普遍的なジョブディスクリプションであれば、職種ごとの格差も生まれず、企業で取り扱う業務内容が変わったとしてもそのまま使用することができます。「普遍的で職種に影響されないディスクリプションなど存在するのか?」と不思議に思うかもしれませんが、このような定義は可能です。
例えば、部長クラスであれば、「部のビジョンをつくり経営の承認を得て明示する(ビジョン策定)」「ビジョンに向けた3年間の戦略を策定し、経営の承認を得て、メンバーに明示する(戦略策定)」「30人規模の組織をマネジネントする(組織運営・業務委任・人材育成)」「●億円規模の売上に責任を持つ(目標難易度)」などです。
課長クラスならば「1年間のチームの業績の責任を負う(目標設定・計画立案・進捗管理)」「チームメンバーの育成に責任を持つ(人材育成)」などでしょう。専門職ならば「専門性により、部門の戦略策定に参画する」「新たなビジネスアイデアを定義する」「社外の人的ネットワークを持つ」などとなります。詳しく知りたい方は、フォー・ノーツのコンサルタントに聞いてください。よく聞かれる内容ですが、公の場で全ての事例を公開するのは難しいものです。個別にご質問いただければ、業種別に回答をいたします。
さて、次に。社員ひとりひとりのジョブディスクリプションは定めなくて良いのか?もちろん、定めなくてはなりません。しかし、全員分のジョブディスクリプションを作るなど、到底かなうことではありません。では、どうすればよいのか?
その答えは働く社員本人がジョブディスクリプションを作れば良いのではないか?ということです。上司や人事部がジョブディスクリプションを作ろうとすると多大な労力を要します。ですが、社員本人がジョブディスクリプションを作成し、組織の承認を得て、セルフコントロールで達成していくというのは理にかなっています。
自分でジョブディスクリプションを設定する。人から強制されるのではなく、自主性を重視したマネジメントができれば、社員本人のモチベーション管理も、リモートでの労務管理も実現可能になります。ジョブディスクリプションに対して報酬が紐付いているのであれば、本人が希望の報酬を実現できるだけのジョブディスクリプションを設定し、遂行すればよいだけなのです。
ただしこれは、厳密にはジョブ型雇用でもメンバーシップ型雇用でも無いのです。
広義に捉えれば、フリーランス的な動きをする社員、「フリー社員」とでも言えるかもしれません。何度も話題にあげますが、本当の意味でのリモートワークを実現するためには社員を全て業務委託化してしまうことがシンプルかつほぼ唯一の解決策です。すなわち、労働基準法の管理下から、離れることが必要なのです。実際、一部の外資系やIT企業で導入している手法です。しかし、それは多くの日本企業で現実的ではないでしょう。
今は、流行りものの「やり方」に飛びつくのではなく、自社の社員に対する「考え方」を改めて明確にして、その上で、できることを着実に実行していくことが重要です。
もう一度、整理しますが、日本の労働基準法とジョブ型雇用はマッチしません。労働基準法に準拠すれば、リモートワークは実現できません。でも、リモートワークを実現せねばならない時代です。
社員のことを改めて考え、話し、信頼関係を構築し、組織、働き方のあり方を見直す。そこにジョブ型やメンバーシップ型といったフレームを安直に当てはめようとするのは経営者と人事の職務怠慢である。それを心に留めて、今の社内を見直してください。2020年年末~2021年年始、忙しかった1年を振り返りながら腰を落ち着けて考えてください。貴社にとって、2021年が最高の1年になることを心より祈っております。
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
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プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
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自分が評価されるかされないかは、持っている影響力の大きさによって決まります。
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フォー・ノーツ株式会社が運営する【公式】YouTubeチャンネル。 今回は、【リモートワークをどう「管理」し「人事評価」するか?】について現場を知り尽くした人事のプロ・西尾 太が解説いたします。
テレワークが主体となっている企業において、新入社員研修の新たな方法が求められています。会社の事業理解やマナー研修、ビジネス基礎知識に関する研修などについて、リモート時代に求められる人事のの取り組みはどのようなものなのでしょうか。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、テレワークにおける人材育成の方法について提言します。
いままで受け身の姿勢で仕事をしてきた人事が、急に主体的に動かなければならない
仕事を任されたとしてもうまく動けないことがほとんどでしょう。
そうした時に「社外の人事のプロ」に依頼することで
これまでの「受け身人事」の性質から脱却することができるかもしれません。
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人事ポリシーを適切に運用できている企業は、
残念ながらそれほど多くないというのが現状です。
ではなぜ、せっかく策定した人事ポリシーを活かすことができないのでしょうか?
注目されている「ジョブ型雇用」は、
すべての会社にとって有効というわけではありません。
会社が人材についてどのような問題を抱えているかによって、
毒にも薬にもなり得るのです。
今回はジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用について、
そしてそのメリット・デメリットについて解説いたします。
社員の離職を食い止めるために重要な要素である「臨場感」。
今回の記事では「臨場感とはいったい何なのか」「どうして臨場感が離職を防ぐのか」
を解説していきます。