2021.08.11
コロナ禍での企業のリストラが止まりません。45歳以上の早期退職制度などによって、今年だけでも既に1万人以上の中高年が退職しています。ただし現在のリストラは、業績悪化によるものだけではありません。「黒字リストラ」は、果たして本当に適切な施策なのでしょうか。人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、中高年に対する施策についてお伝えします。
中高年のリストラが拡大しています。東京商工リサーチの調査によると、上場企業の希望退職の募集企業・人数は、2020年は93社・1万8635人でしたが、『超ジョブ型人事革命』出版記念講演で対談させていただいた人事ジャーナリスト・溝上憲文さんの記事《「コロナ禍だからゴメンね」とリストラを実行する経営者にSDGsバッジをつける資格はない》によると、2021年は7月3日の時点で、すでに計55社・1万685人に達しているといいます。
ただし、このリストラの潮流は、今に始まったことではありません。コロナ禍以前の2018年頃から大手企業が「黒字リストラ」と呼ばれる施策を開始。2019年にはキリンビール、コカ・コーラ、富士通、朝日新聞、エーザイ、協和キリンなどが、黒字経営にもかかわらず、早期退職制度を実施しました。2020年のコロナ禍以降、さらにリストラが加速していますが、その3分の1以上の企業は、実は黒字なのにリストラをやっています。
事情は各社さまざまだと思いますが、ひとつの共通点は、ほとんどが45歳以上の早期退職制度であることです。45歳以上は「バブル世代」と「氷河期世代」にあたり、部下を持たない管理職が多くいる世代。そして年功序列の制度であれば、最も給与水準の高い層です。黒字で余裕があるうちに「若返り」をしておきたい、企業にはそういう狙いがあるのだと考えられます。
また、このリストラの背景には、「定年延長」問題があります。高年齢者雇用安定法によって、2025年には65歳まで希望した人全員を再雇用することになります。さらに70歳までの就業機会の確保が努力義務になります。政府は70歳までの雇用を推進していますから、義務化になるのも時間の問題でしょう。
「45歳以上の人をあと25年も雇用し続けなくてはならない。70歳まで面倒を見るのは無理」
これが黒字リストラの背景にある企業の本音ではないでしょうか。
現在の「第4次人事革命」において、人事の皆さんが考えなければならないのは、この「年齢」の問題です。日本経済が飛躍的に成長し、年功序列・終身雇用が謳われた昭和の時代、定年は55歳でした。1950年の平均寿命は、男性が58歳、1970年は69歳。当時の55歳といえば、人生の晩年だったのでしょう。
平成に入った1990年代でも、定年はまだ55歳でした。60歳定年が義務化されたのは1998年です。約20年前までの感覚としては、50代というのは「おじいちゃん」だったのかもしれません。しかし現在はどうでしょうか?私はちょうど今、55歳ですが、元気です。周囲の50代を見ても、元気な人ばかりです。
まさにこの世代が黒字リストラのターゲットになっているわけですが、45歳以上の人を切り捨てるという施策は、果たして本当に正しい選択なのでしょうか?
「40代後半とか50代の人たちは扱いにくいよね」
「あの人たち、もう変わらないよね」
「だったら早く辞めてもらったほうがいいよね」
「70歳までいてもらっても困るよね」
大きな声では語られませんが、これが黒字リストラにおける企業の本音だと思います。退職金を積んでもいいから、70歳まで働かれるよりは辞めてもらったほうが得。だから早期退職制度をやるのでしょう。
しかし、改めて考えてみてほしいのです。現在、日本人の平均年齢は49歳。ほぼ50歳です。人口のボリュームゾーンのど真ん中に、リストラの標的となっている世代の人たちがいます。40代、50代、60代をもっと活かす方法を考えていかないと、日本は立ち行かなくなくなるのではないでしょうか?
会社を若返りさせたいといっても、少子化で若年層は減る一方です。新卒採用を一生懸命やっても、3年以内に3割が辞めてしまいます。もうちょっと活躍するかもしれない中高年を切って、新卒採用に固執し続けるのは、本当に正しい施策なのか、経営も人事も、いま一度、考えてみる必要があります。
たしかに中高年の中には、時代に適応できず「今さらZoomなんて覚えてられないよ」「Slack?なにそれ?」みたいな人もいるでしょう。私自身も含めて、若い頃より頑固になっているでしょうし、変わらない部分もあるでしょう。とはいえ、周囲に言われたことには耳を傾け、改善すべき点は改善しよう、学ぶべきことは学ぼうと考えている人も多くいます。中高年も捨てたもんじゃないのです。
もちろん、すでに枯れてしまった中高年もいるでしょう。その人たちには、日本のボリュームゾーンの中心にいる世代として「それじゃダメですよ」とお伝えしたいですし、時代に合わせて変化しなければいけない、変化していく日本をリードしていかなきゃいけないし、伝えるべきことは伝えていかなきゃいけない、そう思います。
そもそも、やる気のない中高年にしてしまったのは誰なのでしょうか?
会社や上司は、この人たちにしっかり評価を伝え、どうして欲しいのかを問いかけてきたのでしょうか。たとえ年上であっても、言うべきことは言わなくてはいけません。人事評価の現場を見ていると、それを怠っている企業が少なくありません。曖昧な評価を行い、言うべきことを言わず、本人の気づきを促さず、ただ窓際に置いておけば、枯れた中高年になるのも当たり前です。何も指摘せず、ずっとなんとなく真ん中のB評価をしてきたのに、いきなり早期退職を迫って、バッサリ斬りつけるのは、あまりに愛のない仕打ちではないでしょうか?
45歳以上を黒字リストラする理由は、一言でいうと「お給料が高いから」です。年功序列によって実際のアウトプットより年収が高くなってしまっているので、「給料を下げるくらいなら辞めてもらったほうがいいよね」という発想になっているわけです。このような状況をつくってしまった責任は、経営や人事にあります。
年功序列の問題をずっと先送りにしたまま、社員を厳しく評価し、厳しく処遇に反映することをしてこなかった。今でもそれに対峙せず、何の対策も打っていない会社が多くあります。にもかかわらず、いきなり中高年に「辞めてください」といっているのが現在の黒字リストラです。「若返り」という言葉で、これまでのツケを中高年に払わせるようなことがあってはならないのではないでしょうか?
ちゃんと評価して、その人のアウトプットに見合う処遇にすれば、クビにする必要はないはずです。
それが嫌な人だけ、早期退職して他で働けばいいのです。
年功序列の人事制度(評価制度・給与制度)を見直さずにリストラするのは得策ではありません。しっかりと評価して、年収分の働きがないのならば、本人にしっかりと伝え、段階的に適切な年収まで下げていく。これこそが、人事が今後やるべき施策です。40代でも50代でも60代でも、お給料とアウトプットがマッチしていれば、会社に残っていただいても何の問題もないはずです。
たとえ相手が年上の部下であっても、足りない部分は指摘し、本人も「そこが不足していたんですね」と気づいてパフォーマンスが上がれば、本人もハッピーだし、会社もハッピーだし、みんながハッピーになります。
人事担当者の皆さんには、黒字リストラをする前に、まだまだやるべきことがあります。人生100年時代と考えれば、50代なんてまだ若造です。リストラをする前に、「まずは年収1000万分の仕事をしてもらうためにはどうしてほしいのか」を正面切って話し合っていただきたい。まずはそこからです。
次回につづく
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
新しく人を雇う新規採用は、多くの企業が困っているところです。
「せっかく雇ったのにすぐやめてしまう」「求める社員が来てくれない」。
これらの原因は、意識のミスマッチであることがほとんど。
人事ポリシーを利用して、応募者と事前に意識をすり合わせておきましょう。
将来、さまざまな分野でAIが人間に代わり適切な判断をしてくれる時代が来るでしょう。人事も同じでAIを取り入れて人事評価を行う時代が来ると言われています。人事部は今後なくなるのでしょうか?そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、AIと人事の今後について解説します。
明確な人事評価制度を持っている企業はほんの一握りだと言われています。
しかし社員の成長、ひいては会社の成長のためには、
評価基準を作り、人事評価制度を導入することが必要不可欠です。
ではそのメリットはどこにあるのでしょうか?
人事は、様々な情報を取り扱います。
若手人事だとその万能感かプレッシャーからか、「勘違い」を起こすこともしばしば。
今回は、若手人事がうっかり陥ってしまう「勘違い人事」のパターンをご紹介します。
給与の額は評価によって決まります。
そのため、評価は給与を額を決めるための手段に過ぎない、
と考える人も少なくありません。
そのような考え方は、正当な評価につながらないことがあるので注意です。
経営陣から下りてくる人事施策が果たして本当に人事ポリシーに則っているのか?
それを判断するのは人事の役目です。
そのために必要な「人事の人事ポリシー」とは?
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