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第5回 「いい人が採れない」の「いい人」って、どんな人?

人手不足が深刻化しています。様々な業界の経営者や人事担当者の皆様から「いい人が採れない」というご相談が寄せられています。採用は人事にとって一番の悩みの種ですが、そもそも「いい人」とは、どのような人材を指すのでしょうか。まずはこの根本の部分から見直してみませんか?

「明るく元気で素直な人」では、他社と差別化できない

会社にとって「人」は大切ですか? この問いに対して「NO」と答える経営者や人事担当者はいないでしょう。事業を成功させ、会社を成長させるには「人」が必要です。昨今はIT化・DX化が進み、AIやRPAといった機械に業務を任せることも増えてきましたが、その機械を使うのはやはり「人」です。

だからこそ、一番の悩みの種でもあります。経営者や人事担当者の皆様から特に多くのご相談をいただくのは、「いい人が採れない」という課題。そして「採れてもすぐに辞めてしまう」という入社後の課題です。これらの問題を解決するには、自社にとっての「いい人」を明確にすることが必要です。

 

「御社における“いい人”とは、どのような人材ですか?」

そう尋ねると、ほとんどの方が「明るく元気で素直な人」と答えます。あるいは「やる気のある人」。これが多くの企業が求めている人材像です。

しかし、それだけでは他社と差別化できません。「他社」ではなく「自社」に来てもらい、活躍してもらうためには、これだけでは不十分。「自社が求めるいい人」をしっかりと定義しなくてはいけません。

いろいろな企業の採用ホームページを見てみると、楽しそうに働いている先輩はたくさん出ていますが、肝心の「どういう人材を求めているのか」を具体的に示していることはあまりありません。つまり、その企業独自の「求める人材像」が示されていないのです。

「求める人物像を具体化すると、応募者の幅を狭め、人が来なくなってしまう」

そう思いますか? 逆です。求める人材像を明確にして選考に臨み、求める人材像に近い人材を選んでいくという過程を経たほうが、自社にとっての「いい人」を採用できるようになるのです。

 

「求める人材像」を明確にしたら、社長や役員になれる人材を採用できた

採用とは、結婚のようなものです。「私はみんなが好きです」では、意中の相手は振り向いてくれませんよね。「私はあなたが好きです」「こういうところが好きです」とはっきり言葉にすることによって、初めて相手の心に響き、結婚対象として意識してもらえるようになるのではないでしょうか。

人材採用においても同様です。「当社は明るく元気で素直な人に来てもらいたいです」「やる気のある人を求めています」では、個性がなく、対象も広すぎて、入社に向けた行動をとってもらえません。

私はベンチャー企業で人事部長をしていたとき、「求める人材像」を経営者とともにつくり上げ、それを説明会で伝え、さらに最終選考に近い人たちに、90分くらい、「求める人材像」と「なぜそのような人を求めるのか」について説明し、それでも「入社してよい」と言ってくれた人を採用していました。

その結果、のちに社長や役員として活躍することになる優秀な人材を何人も採用することできました。また、20%を超えていた離職率も半分以下に減りました。ある程度、門戸を狭くしても、自社が考える「いい人」を明確に伝えたほうが、採用の成功率が上がり、定着率も高めることができるのです。

 

では、どのようにして「求める人物像」を具体化したらいいのでしょうか?

これは、いろいろな観点から考える必要があります。

 

リーダーシップとマネジメント、どちらを重視するか?

たとえば、ビジネス現場でよく使われる言葉に「リーダーシップ」と「マネジメント」があります。リーダーシップは「動きをつくる」もの、マネジメントは「無駄を減らす」もの。この2つは概念が異なるため、企業ステージによって「求めるべき人材」が異なってきます。

会社の創業期や変革期は、新たな動きをつくる「リーダーシップ」が重要になります。これまで通りではダメなのです。可能性のある方法を探してトライアンドエラーを繰り返すことになりますから、「無駄」はつきもの。この無駄をしないと、新しいビジネスは立ち上がりません。

一方、成長期・安定期になると効率を追求する「マネジメント」が重要になります。やるべきことが決まったら、仕組みをつくって「無駄」を省いていかなくてはなりません。安定期におけるミドルマネージャーの「リーダーシップ:マネジメント比率」はおおむね「1:9」、上級マネージャークラスでは「2:8」とされています。組織の上位層に行くほど、リーダーシップ要素が求められます。

リーダーシップに長けた人材は、業界の常識や過去の慣習にとらわれない、いわゆる「非常識な人」。ベンチャーの創業者のような、いろいろなアイデアを出し、試し、周りを巻き込んで事業を成功させていくタイプです。ただ、その反面、マネジメントは苦手な傾向があります。

一方、マネジメントに長けた人材は、「仕組みをつくり、きっちり回して行く人」。いわゆる「しっかりした人」ですが、その反面、まったく新しいことに取り組むことは苦手な傾向があります。

あなたの会社では、リーダーシップとマネジメント、どちらを重視していますか?

どちらも優れているのに越したことはありませんが、実際にはそういう人はまずいません。

自社の企業ステージが創業期や変革期だったら「リーダーシップ人材」、成長期・安定期だったら「マネジメント人材」が、御社にとっての「いい人」ということになるでしょう。「求める人材像」は、企業ステージを踏まえながら設定する必要もあるのです。

上記は、ほんの一例にすぎません。様々な分野の知識や経験を持つ「ゼネラリスト」の育成を重視するか、専門的な人材「エキスパート」の育成を重視するか。個人で実績を上げることを重視し「主体性」のある人材を採用するか、チームワークを重視して「協調性」のある人材を採用するか。人材に対して、将来の価値創出を期待して投資する存在「資本」として見るか、決められた仕事をこなしてくれる代替可能な存在「資源」として見るか…。「求める人物像」を定めるべき要素は多岐にわたります。

人は万能ではなく、必ず得意・不得意、向き・不向きがあります。何を重視するかで、求める人物像は変わってきます。自社にとっての「いい人」は、どのような人材なのか。それを掘り下げて考えることによって、採用の成功率も定着率も変わります。

拙著『人事で一番大切なこと』(西尾太/日本実業出版社)では、求める人材像を明確にするための「人事ポリシー」のフレームを多数紹介しています。こちらも参考にしてみてください。

 

 

『人事で一番大切なこと 採用・育成・評価の軸となる「人事ポリシー」の決め方・使い方』

流行りの人事制度がうまくいかない理由、採用の失敗が起こる原因と対処法、自社に本当に合う人材を採用し育成できる方法、自社に合った評価制度の見極め方などを紹介。人事に関わるなら知っておきたい採用・育成・制度設計の要点をまとめた一冊。(西尾太/日本実業出版社)

 

次回に続く

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