2022.07.20
脱・年功序列の実現で最後に必要になってくるのは、人事担当者の「想い」です。社会や顧客への想い、株主への想い、取引先への想い、そして共に働く人への想いがなければ、様々な抵抗に屈して改革は頓挫します。制度を変えて運用に成功している企業とそうではない企業の違いは、その原動力となる人事担当者の想いの強さにあります。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、人事担当者に必要な3つのマインドセットについて解説します。
脱・年功序列を成功させるために必要なのは、横槍が入っても意志を貫く人事と経営の覚悟、個々のミッションと目標(KPI)を明確にすること、そして評価を厳正に行うこと、前回 そのようにお伝えしました。これを実現させるために重要になってくるのは、人事担当者の「想い」です。信念と言い換えてもいいでしょう。
経営者からよく聞くのは「シンプルな制度がいい」という言葉です。何をもってシンプルとするかは人によって異なりますが、人を評価するのは、面倒くさくて、ややこしくて、時間がかかるものです。人間は複雑な生き物ですから、簡単に評価できるわけがないのです。まして成果と行動によって給与を上げる、下げるとなったら、尚更です。手間を惜しまず、評価は厳正に行わなくてはなりません。
人事制度の改革には、抵抗がつきものです。私が人事担当者として初めて評価制度を導入した企業でも、「もっとシンプルにできないのか」「コンピテンシーでメシが食えるのか」といった様々な声が上がりました。こうしたときに必要になるのは、やはり人事の「想い」です。
自分が信じる確固たる意志を持ち、周囲の反対や批判があっても、自分自身の考えを貫く。安易に妥協せず、根拠を示して説得する。自身の考えを情熱的に語り、周囲をどんどん巻き込んでいく。
人事担当者にこうした強い信念がなければ、制度の運用は成功しません。当時の私の上司は、経営会議に何度も出て、役員合宿なども行い、「これからは成果主義ですよ」「コンピテンシーですよ」といった話を経営陣に対して何度も何度も繰り返していました。人事制度導入資料もバージョン19まで作っていました。
その結果、約1年半で制度が定着し、脱・年功序列に成功しました。私が人事部長として転職し評価制度を導入した企業でも、事前に何度も研修を行って社員の意志も反映させたことで、不満の声はほとんど上がらず、約1年で制度が定着しました。制度の運用で重要なのは、信念を貫き、手間を省かないことです。
制度を作ることは、それほど難しくありません。評価制度には、いくつかの基本フォーマットがあります。当社では、成果と行動で評価するための普遍的かつ網羅的なコンピテンシーも明確にしてご提供しています。MBO(目標管理制度)は、1954年にドラッカーが提唱した制度ですから、すでに方法論も確立されています。これらを自社に適した形にアレンジすればいいだけです。制度作りで失敗することは、まずありません。
ですが、運用はそう簡単にはいきません。なぜなら相手が人間だからです。ほとんどの社員は、年功序列の考え方に染まったままです。制度を変えても、管理職が適切な評価をしない、低評価者から不満や文句が来る、高評価者は黙っている、意識の変わらない役員から横槍が入るなど、様々な抵抗が待ち受けています。
人事担当者が最初にやるべきことは、経営陣の啓蒙です。脱・年功序列を成功させるためには、経営と人事が覚悟を固めることが不可欠です。人事担当者は、経営陣からの信頼を得る必要もあります。制度を入れる前に徹底した議論を行って、まずは経営陣を啓蒙し、意志統一をはかる。本部長さんなど、役員全員に「今後はこうやってやるんです」と説明し、ある程度の理解を得ないと、運用が始まってから横槍が入ります。
何より社長の理解を得ないことには話が始まりません。年功序列の廃止は、確実に痛みを伴います。「痛みが出ますよ」「本当にやるんですよね」と何度も確認し、痛みが伴うことを覚悟してもらわなくてはいけません。そうするためには、やはり人事担当者の「想い」、強い意志が必要です。
制度を入れる前にしっかり土台作りをしておけば、運用が始まってから変な力がかかることはなくなります。たとえ役員や管理職から横槍が入っても、社長自身が「こうやって評価すると決めただろう」と戒めてくれます。ダメなものはダメと言えるようになります。そして少しずつ、高評価者が新制度を認め、「今度の制度、いい感じだよね」という世論が形成されて行きます。これが大事です。風土が変わっていくのです。そして定着率が上がり、優秀な人材が残るようになります。
脱・年功序列を実現するために人事担当者に必要なこと。3つ目のポイントは、辞める覚悟を持つことです。自ら正しいと信じることに対しては、相手が社長でも役員でも管理職でも「ダメなものはダメです」ときっぱり言う。逆にやるべきことであれば、断固として「やるんです」と何回でも訴える。これは勇気が必要です。会社を辞めるぐらいの覚悟を持たないと、組織の中で意志を貫くことは難しいです。
ただし、必要なのは「ケツをまくって辞める覚悟」ではなく「やりきってから辞める覚悟」です。人事制度を入れてから、うまくいかなくて辞めるのは、いちばん迷惑です。運用が定着するまで、やり遂げてから辞める覚悟を持つ。これが人事担当者に最も必要なマインドセットです。辞める覚悟があれば、何でもできます。相手が社長でも役員でも管理職でも、臆せずものが言えるようになります。
この連載で繰り返しお伝えしてきたように、年功序列はもう無理なのです。日本人の平均年齢は、ほぼ50歳になり、定年制度もどんどん延長されています。年功払いから時価払いにしなければ、多くの企業は経営を維持することが困難です。上げるべき人の給与を上げ、下げるべき人の給与を下げなければ、できる人材から辞めていき、できない人材だけが残ります。少子高齢化も歯止めがかからず、すでに人口減少時代が始まっています。古い体質の会社に若い世代が魅力を感じるでしょうか。現状のままでは、未来はないのです。
日本生産性本部によれば、日本の時間当たり生産性はOECD加盟国37か国中21位にまで下がり、主要先進国7か国では最下位の状況が続いています。私たちは今、変革を求められています。
人事担当者は、改革者です。会社が進むべき道を示すプロデューサーです。
会社を変えなきゃいけないのは、人事なのです。
このままではダメだと思うのなら、辞める覚悟を持って、脱・年功序列を実現させましょう。人事は、それほど厳しく、深く、そして重要な仕事です。会社の変革は、人事担当者の「想い」から始まります。その「想い」が未来を変えるのです。あなたの「想い」の強さが、改革を成功へと導きます。
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
「自分の将来が見えない」と感じる会社に所属し続ける人はなかなかいません。
会社が評価制度を作り、求めるものや進むべき道を照らしてあげれば、
社員はおのずと努力し成長するようになります。
第4次人事革命において最も重要なのは、「どこでも通用する人材」をつくる人事施策です。それができれば優秀な人材が集まります。「あの会社に入れば、どこでも通用する」というのは、どんな求人メッセージよりも強力です。今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、どこでも通用する人材=「超ジョブ型プロフェッショナル」のつくり方をお伝えします。
新しく人を雇う新規採用は、多くの企業が困っているところです。
「せっかく雇ったのにすぐやめてしまう」「求める社員が来てくれない」。
これらの原因は、意識のミスマッチであることがほとんど。
人事ポリシーを利用して、応募者と事前に意識をすり合わせておきましょう。
会社がある程度の規模(社員数50〜100名程度)に成長してくると、評価や給与に不満を感じる社員が増え、優秀な社員ほど離職してしまう傾向が見られます。そんな状況になったときに必要となるのが、評価制度や給与制度などの人事制度です。しかし、人事制度の失敗例は、数限りなくあります。制度は運用できなければ意味がありません。なぜ制度を導入しても失敗してしまう企業が多いのでしょうか?
コロナ禍での企業のリストラが止まりません。45歳以上の早期退職制度などによって、今年だけでも既に1万人以上の中高年が退職しています。ただし現在のリストラは、業績悪化によるものだけではありません。「黒字リストラ」は、果たして本当に適切な施策なのでしょうか。人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、中高年に対する施策についてお伝えします。
人事ポリシーを適切に運用できている企業は、
残念ながらそれほど多くないというのが現状です。
ではなぜ、せっかく策定した人事ポリシーを活かすことができないのでしょうか?
本来、喜ぶべきボーナスですが、
予想額を下回ると却って社員の不満になります。
社員に納得してもらうためには評価基準の開示と、
それをしっかりと反映させることが重要になります。
今再び注目を集める「ジョブ型雇用」や「成果主義」。 決して新しい考え方ではありませんが、これからの働き方を考える中では重要な要素です。これらの導入には、ジョブディスクリプション(職務記述書)が必要ですが、策定や運用には多くの困難が存在します。 今回は代表西尾から、これからの時代の働き方や評価についてお伝えしていきます。