近年、メンタルヘルスが引き金となった深刻なトラブルが相次いでいます。会社の責任で「うつ病」などの精神疾患になってしまった社員がいた場合、人事はどのように対応をしたらいいのでしょうか? そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事担当者が知っておくべきメンタルヘルスの対処法について解説します。
社員の長期欠勤の理由の多くは、「うつ病」などの精神疾患を原因とするものです。頻繁に休む、遅刻するなど、勤怠に異常が現れたり、また精神疾患(うつ病、適応障害、ストレス障害、自律神経失調症など)の診断書が提出された場合、まず人事がすべきことは「労働時間」の確認です。
なぜなら、精神疾患が「会社の責任」と判断される場合の一番の根拠となるのが「労働時間」だからです。残業が100時間を超えていたら、一発アウトと思ってください。
労災認定基準では、発症前1ヶ月間の時間外・休日労働がおおむね100時間を超える場合、または2〜6ヶ月間の月平均時間外・休日労働時間がおおむね80時間を超える場合、「業務と発症との関連が強い」と評価されます。心理的負荷があるハラスメントや転勤、2週間以上の連続勤務などの要因があれば、短い残業時間でも「関連が強い」と判断されることもあります。
人事担当者は、社員が100時間超、80時間超の残業を行っている場合は要注意です。36協定の法定の限度時間は1ヶ月「45時間」、1年「360時間」が上限となっています(臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合を除く)。その時間を越えれば36協定違反となることから、それぞれ確認して是正策を講じる必要があります。
精神疾患になった社員の労働時間が上記の数字に近い場合は、即座に労災認定されます。労災とは「会社の責任」ですから、万一、自殺した場合は何億という賠償金が発生します。そうでなくても、損害賠償請求をされる可能性が高いので、極めて慎重に対応しなくてはいけません。
労働時間がそれほど多くなければ一安心ですが、今度はハラスメントが疑われるケースもあります。パワハラ上司に関しては人事で把握できている場合も多いのですが、パワハラは上司から部下だけとは限りません。職場の先輩・後輩間、同僚同士、さらには部下から上司に対する行為も該当します。
セクハラは「被害者が性的に不快な行為であると感じているか」が判断基準になるので、厳密な規定を設けることは困難です。不倫や社内恋愛がセクハラに発展することもよくあります。行為者(加害者)と被害者で受け止め方が異なることも多く、双方の言い分が食い違うことも見受けられるので、それは恋愛の延長なのか、本質的なセクハラなのか、慎重に判断しなければなりません。
パワハラ、セクハラ、あるいは他のハラスメントの可能性も含めて、人事担当者は職場の状況がどうだったのか、慎重にヒアリングを行い、原因を確認する必要があります。
ハラスメントでもない、ということであれば、業務上における過度のプレッシャーやストレスもあり得ます。それもあまりなさそうであれば、業務外の原因かもしれません。メンタルヘルス不調は、失恋や家庭内の問題など、業務にまったく関係ない私的な原因で発症しているケースもあります。
ですから人事担当者がまず念頭に置くべきなのは、メンタルヘルス不調が業務に関連して発症したのか、私的な要因によって発症したのか、「業務上」か「業務外」かの判断です。業務外であるとすれば、就業規則の規程に則って対応をします。
後でトラブルに発展することもありますので、業務上であることが疑われるケースで「業務外の傷病」として就業規則を適用することは慎重に判断してください。休職期間の延長などの措置も想定しながら、本人や家族と十分に話し合うことも必要です。
いずれにしても、うつ病などの精神疾患は病気なので、専門家の判断が必要です。産業医や精神疾患に詳しいアドバイザーなどに依頼し、専門家と相談しながら進めていきましょう。本人と連絡がつけば本人、家族と連絡がつけば家族とも相談しながら対応していきます。
悩ましいのは、一人暮らしの社員が精神疾患になった場合です。自宅に誰もいないのは心配ですから、「一人でいるのもしんどいと思うから、一回、実家に帰って家族と一緒に休んだら?」という提案をしたり、本人と連絡したうえで家族に連絡を取り、今後について相談することもあります。
精神疾患の原因が会社にあるかもしれないのなら、最大限のケアが必要です。「うつになった社員を辞めさせたい」などと考えている人がいたら、論外です。そういう人は即刻、人事を辞めるべきです。本人が辞めた後に「会社のせいだ」と訴えたら勝てません。人事担当者は、本人が辞めたいと言ってきても、止めるぐらいでなければなりません。
また、人事担当者は、うつなどの社員を発生させないように、各種人事規程をしっかりと整えておくことも必要です。労働時間管理、メンタルヘルス、ハラスメントなど、労務問題になり得ることは就業規則の含む規程類に書いてありますが、自社の規則がすべての問題を網羅しているとは限りません。
就業規則が甘いとトラブルが発生したときの対応が難しくなることがあり、それは会社にとってのリスクになります。人事規程の内容は、労働法規の内容を下回ることはできませんが、労働法規を上回る内容や、労働法規に定められていないことについては、さまざまに定めることができます。
就業規則の運用に不具合があるときや、定められていない事象に対して例外として対応を続けることが適切でない場合には、厚生労働省のモデル就業規則などにも目を通し、新たに規程を作るなどして、改定することも必要です。
メンタルヘルス対策としては、労働時間の管理、ハラスメント教育、産業医や専門のアドバイザーを選任し、家族の連絡先も把握しておきましょう。こうした対策をしっかりと整えておくことが、社員の精神疾患を防ぐことになり、発症した場合にも適切な対応ができるようになります。
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
ビジネスパーソン向けのWebコラムを
10月24日(木)よりアルファポリスのビジネスサイトでスタートいたしました。
「年功序列」の考え方が染み付いている日本企業は少なくありません。
しかし、働き方が多様化し、ジョブ型の給与体系の企業も増えている昨今、
そのままでは優秀な人材が入ってこず取り残されてしまう可能性が高くなります。
今回は、西尾による講演をもとに、日本企業の「年功序列」について考えます。
上層部と現場の板挟みという人事担当者って多いですよね。
この状態ではどんな施策を打っても現場で働く社員との溝は深まるばかり。
場当たり的な人事制度ばかりになってしまい、「ブレて」しまうからです。
ブレる人事制度を生み出さないためには、人事ポリシーの策定が欠かせません。
人事評価においては、上司から部下へのフィードバックが重要です。しかしフィードバックをしない、あるいは適切なアドバイスをしない管理職も少なくありません。そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、フィードバックの目的について解説します。
人事担当者が知っているようで知らない「試用期間」。
きちんと理解しておかないと、後でトラブルに発展する可能性も。
人事担当者がぜひ押さえておきたい、「試用期間」に関する基礎知識とは?
採用担当者は採用する側だから、優位に立場である。
そういった意識を持っている人事は少なくありません。
この少子化の時代、その意識を捨てて自社を売り込む立場の目線を持つことが大切です。
総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社は、代表取締役社長・西尾太の著書『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』出版記念特別セミナー【聞いた後でジワジワくる‼西尾太の「地味な」人事の話】を2022年11月17日、TKP東京駅日本橋カンファレンスセンターにて開催いたしました。本記事は、このセミナーの内容を再構成・加筆してお届けしています。今回のテーマは、「45のコンピテンシーモデル」。これは人事担当者だけでなく、社員全員が理解していなくはいけません。
管理職の能力が不足している、期待した成果を出してくれない。そんな場合、人事はどのように降格を伝えたらいいのでしょうか? 年功序列の撤廃、ジョブ型の導入などによって、今後、人事は管理職に降格を伝える場面が増えていくでしょう。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、降格人事の伝え方と、管理職の降格基準についてお伝えします。