2021.10.27
人事異動を拒否する人が稀にいます。拒否するにはそれなりの理由があるはずです。人事部はどのように対応したらいいのでしょうか? 今回は「人事異動」シリーズ第2回。『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事異動を拒否された際の正しい対処法について紹介します。
人事異動を拒否する人がいたら、人事部はどのように対処したらいいのでしょうか?
答えは簡単です。人事異動は拒否できません。
会社には人事権というものがあります。雇用契約で働いている以上、社員の配置転換は会社の人事権に委ねられています。これは就業規則で定められています。就業規則では、「正当な理由がない限り、拒否することはできない」と書かれているケースがほとんどでしょう。そして正当な理由というのも、ほぼありません。ですから人事異動は事実上、拒否できないのです。
ただ、転勤の場合に関しては、親の介護など家庭の事情がある人は、上司なり人事なりに相談すればいいと思います。会社側も自己申告制度などを導入して、個人の仕事に影響するようなプライベートについては普段から把握しておくべきでしょう。
自己申告制度とは、社員個々人の現在の仕事の状況、キャリアプラン、異動希望などを書面で申告してもらうものです。自己申告制度には、上司を通じて申告するものと、直接人事部門に申告するものがありますが、上司を通じて行う場合は、部下としては異動希望を言い出しにくい場合もありますので、直接人事部門に申告する形態がいいでしょう。
こうした制度を導入していれば本人の意向をまったく無視した人事異動にはならないはずですが、誰かを異動させなくてはいけない場合もあります。例えば、新たに北陸支店を作りたいときに、あらかじめ北陸に行きたいという人はそうそういないわけです。そういう場合には、たとえ本人の意向とは異なったとしても、誰かが行かなくてはいけません。「あなたは富山の出身ですよね。北陸支店に行ってください」といったことになります。
新しい支店に行ってもらいたい社員にそれぞれ打診して断られ続けたらどうにもなりませんから、人事権を行使して内示をします。内示とは決定を伝えることなので、拒否はできません。
ですが、異動の打診をすることも滅多にありません。もともと想定されていなかった海外への赴任など、絶対に失敗できない大きな人事異動の際には打診することもありますが、それは稀なケースです。
なぜなら、「人事異動は断ることができる」と思ってもらっては困るからです。
大企業など「人事異動は絶対」という意識が浸透している会社では人事異動を拒否する人はあまりいませんが、中小企業やベンチャーが戦略的な人事異動を始めた初期段階では、例えば200人に人事異動の内示が出たら、30〜40人程度は「いやだ」と拒否したりするケースが少なくありません。
異動を拒否した人に対しては、まずは人事担当者が一人ひとり説得に行きます。本人と話したり、上司と話したりすることで、20〜30人は「わかりました、行きます」と納得してくれます。
「何年経ったら戻れるんですか?」と聞かれた場合には「それは何とも言えないけど、今までの例だったら3年ぐらいだから、ちゃんと自己申告制度に書いてね。もう3年も同じ部署にいるから、次の場所に行ったほうがいいって言われていたんだよね」といった話をすると、3分の2くらいの人は納得してくれます。
それでも「どうしてもダメです」という人が、やはり10人程度は出ます。これはもう仕方がないです。異動を拒否したら退職になりますが、「人事異動は拒否すれば断れる」という前例を作ってしまったら、誰も異動なんてしなくなってしまいます。それでは会社組織として成り立たなくなってしまいますよね。
ですから、人事異動を拒否する人が出た場合、人事部は毅然とした態度で対処しなくてはいけません。異動は会社の人事権であり、拒否すれば退職になる。こうした認識を社内に浸透させていくことが大事です。
ただ、それと同時に、異動を拒否して退職するなど、不幸になる人が出ないよう、自己申告制度などを徹底して、社員一人ひとりの希望や指向性をきちんと把握しておくことが重要になります。
人事担当者は、社員の希望をできるだけ叶える人事異動を行うべきです。「自己申告制度に書いたら実現しちゃった!」という人が増えると、社内の雰囲気が良くなります。異動を拒否してネガティブオーラを発する人がいても広がらなくなります。だからこそ、希望通りに動かせる人をできるだけ多くすることが重要です。
ただ、すべての希望を叶えることはできませんから、その決めを打つ前に個々の志向や家庭の事情を把握することを徹底したり、異動の持つ意味についても伝えておくことが必要になってきます。より高い責任のある仕事を任せること、他の部署・職種を経験させることで育てようとすること、今の部署での活躍が十分でないため他に活躍できそうな部署への配属など、人事異動にはそれぞれ意味があります。
私も20代の頃、希望していない部署に異動になったことがありましたが、つらかった経験も糧になりました。たとえそれが左遷であったとしても、自分を成長させるチャンスに変えられます。人事を30年やっていると、「あの異動のおかげで成長できました」といった話もたくさん聞いてきました。異動を伝える際には、こうした話をすることも重要でしょう。
そもそも異動先があるだけでも、ありがたいことなのです。どの組織にも、現場からも上司からも拒否されて、異動先のない人もいます。何度も異動を繰り返して、退職勧奨されてしまう人もいます。
異動を拒否する人には「あなたを必要としている人がいるんです。いいことじゃないですか」「どこからも必要ないって言われたらどうします?」「異動先があるだけでも嬉しいと思ってください」ぐらいのことは言ってもいいのではないでしょうか。異動を拒否すれば退職勧奨になってしまうのですから、人事担当者は強く当たるべきです。ただ、会社の権利だからといって強く当たっているだけではダメです。
しかるべき情報収集をして、異動拒否をする人が出なくなるように、社員の希望を叶えることに力を入れていく。できる限り適材適所の人事をやっていく。それが人事の重要な役割です。優秀な人材の異動は現場から拒否されることもありますが、本人が希望しているのであれば、数年かけても実現させましょう。
希望通りになる社員が増えれば増えるほど、会社は良くなっていきます。人事担当者の皆さんには、ぜひそんな人事異動を行っていってほしいと思います。そうすれば、異動を拒否する人も出なくなるはずです。
次回につづく
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
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労務分野の法律や制度に関する「お勉強」が
人事担当者の第一歩だと勘違いしてしまっている方は少なくありません。
しかし実は、人事担当者には専門的な知識など必要ないのです。
この記事では人事担当者に求められる知識を解説していきます。
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上層部と現場の板挟みという人事担当者って多いですよね。
この状態ではどんな施策を打っても現場で働く社員との溝は深まるばかり。
場当たり的な人事制度ばかりになってしまい、「ブレて」しまうからです。
ブレる人事制度を生み出さないためには、人事ポリシーの策定が欠かせません。
キャリアステップの策定は、人材育成と離職率の低下に欠かせない施策です。
しっかりとしたキャリアステップを描き、浸透させ、社員の成長を促しましょう。
人事には、人員計画・配置・採用・給与・厚生・育成・評価といった分野と、それぞれに戦略、企画、運用、オペレーションという機能があり、非常に幅広い分野の領域に関わる職種です。人事担当者は、どのように学習し、キャリアを構築していったらいいのでしょうか。本記事では、新任担当者から主力メンバーになるまでのキャリア構築の方法を「人事の学校」主宰・西尾太が解説します。今回のテーマは「人事学習のよくある勘違い」です。
「離職率を下げる」という目標を持っている会社は少なくないでしょう。
その目標を持って私たちにご相談いただく企業様は、
ブラック企業でもなく、労働環境が悪いわけでもない、ごく普通の企業様ばかりです。
ではなぜ人が辞めてしまうのでしょうか?
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