FOURNOTES

評価制度は、上司と部下のコミュニケーションツールになる

部下とのコミュニケーションは、上司にとって普遍的な悩みです。人事評価のフィードバックでも「部下と何を話したらいいかわからない」という声を多く聞きます。そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、その解決策となる支援ツールを紹介します。

「部下と何を喋ったらいいのかわからない」

企業人事のお手伝いをしていると、管理職の方々から「部下と何を喋っていいのかわかりません」という声をよく聞きます。前回のコラムで「人事評価のフィードバックをしない上司は絶対にダメ」とお伝えしましたが、「そもそも、どのようにフィードバックすればいいのかわからない」という管理職も多くいます。

インターネットでも「フィードバック コメント 例文」といった検索ワードが出ています。そんな例文を探すほど、困っている管理職が多いということなのでしょう。

部下と何を話したらいいのかわからない。それは、評価制度に問題があるのかもしれません。
あるいは、評価制度がないことが原因かもしれません。

評価制度がない、あるいは評価項目がゆるすぎると、上司は部下に何を伝えたらいいのかわからなくなります。そうした会社の評価者向けの研修では、管理職が作成した評価シートを見ながら「なぜこの人は評価が高いのですか?」と質問しても「いやぁ、まあ、全体的に…」とか「社歴も長いし、頑張っていますので…」といった曖昧な回答が返ってくるケースがほとんどです。

また評価項目がゆるいと、上司の主観で部下を評価することになります。すると自分では客観的に評価しているつもりでも、どうしても「好き嫌い」が反映してしまいます。世の中で人事評価に対する不満が多いのは、この「上司の好き嫌いによる主観的な評価」への反感がかなりの割合を占めています。

逆に、細かすぎる評価制度も問題があります。これは外資系に多く、人事・総務・営業・経理など、職種ごとに評価項目を細かく分類しています。一見すると適切な評価ができそうですが、部下が多く、評価項目も多いと、評価作業に莫大な時間とエネルギーがかかり、管理職にとても大きな負担がかかります。

管理職にしてみれば、細かすぎる評価項目にうんざりして「ああ、面倒くさい、もういいや!」と投げ出してしまい、メンバー全員や全項目が「評価B」とか「可も不可もなく」みたいな、いい加減な評価をしがちです。細かすぎる評価制度は、実際には運用できないことが多く、形骸化するケースがほとんどです。

評価制度は、社員の良い点を伸ばし、改善すべき点を指摘し、より効率よく高い能力を発揮してもらうための仕組みですが、それと同時に管理職にとっての「コミュニケーションツール」にする必要があるのです。

評価制度は「話のネタ」になる管理職の支援ツール

私たちの会社では400社以上の人事制度の構築や見直しを行っていますが、評価制度は管理職の「支援ツール」だと考えています。日本の管理職は、ほとんどがプレイングマネージャーです。自身のプレイングに割く時間が業務の7〜8割を占め、部下とのヒューマンマネジメントに割ける時間には限りがあります。また、大半の上司が部下とのコミュニケーションに悩んでいます。

細かすぎる評価制度では、すべての項目をチェックするのは現実的に不可能です。ゆるすぎる評価制度では、上司は部下をどう評価したらいいのか、何を伝えたらいいのかわかりません。だからこそ必要なのは、適切な数の評価項目と、具合的なフィードバックがしやすい評価基準です。

私たちが提供している評価制度では、45項目のコンピテンシーを設定して、キャリアステップごとに求められる評価項目をお示ししています。例えば「チーフクラス」だったら、「動機づけ」「柔軟な対応」「スペシャリティ」「異文化コミュニケーション」「プレゼンテーション」「創造的能力」「目標達成」など7〜8個程度の評価基準を設定し、求める成果や行動も部下に伝えられるようにしています。

こうした評価項目を設定しておけば、上司は部下を客観的に評価しやすくなり、「メンバーの動機づけはできてる?」「プレゼンのスキルは上がった?」などと話のネタにもなるので、コミュニケーションもしやすくなります。そして、そうした会話が部下の人材育成につながります。
月に1回以上は、「評価シート」をもとに、コミュニケーションをしてください。
それこそが、人事評価を適正に行うことにつながるのです。

拙著『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)では、45項目のコンピテンシーと「OKな行動」「NGな行動」「チェックポイント」などを一覧にしています。よかったら参考にしてみてください。

評価は「ダメ出し」のためではなく、人を育成するために行う

評価制度は、人を罰したり、ダメ出しをするためのものではなく、人を成長させるための仕組みです。そして、部下を育成するのは上司の重要な仕事です。

残念ながらそういう意識を持っている会社はまだ少なく、「人事評価って本人に見せるの?」「フィードバックって何のためにやるの?」というご質問をよくいただきます。

人事評価は、上司と部下で共有し、成長や努力の方向性を掴むための指標としてください。フィードバックも、人を育てるために行います。評価項目一つひとつについて「ここはできてるね」「ここはもうちょっと頑張ろうね」と伝え、部下とのコミュニケーションを深めていきましょう。

フィードバックが必要なのは、評価結果を伝えるときだけではありません。半年や年に1回の人事評価や考課、査定のときだけでなく、1on1や日常の仕事においても、評価項目に沿ったコミュニケーションをして、良い点は褒め、改善すべき点は指摘していくことが重要です。

人事評価のフィードバックで、いきなり欠点を突きつけて、それを評価が下がった理由にするような行為は絶対にNGです。評価とコミュニケーションは表裏一体。普段から部下とコミュニケーションを取っていれば、人事評価のフィードバックは簡単に済みますし、たとえ評価が下がっても部下は納得感を得られます。

人には必ず凸凹があります。すべて「可もなく不可もなく」なんて人はいません。伸ばすべき点と頑張るべき点の両方を伝え、目標の達成率なども踏まえ、具体的な行動について指導する。普段から上司と部下でこのような会話ができていれば、社内全体のコミュニケーションも活性化していきます。

評価制度は、部下とのコミュニケーションに悩む管理職の支援ツールになります
そして、マネジメントスキルをアップするための武器にもなります。

それを使いこなせるように伝えていくのが、人事担当者の皆さんの仕事です。評価や育成に対する意識を変えていけば、会社も自ずと伸びていきます。あなたの会社でも、評価制度を見直してみませんか?

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