2021.06.14
360度評価とは、「上司が部下を評価する」という従来の評価手法とは異なり、部下や同僚なども人事評価を行う評価方式です。この手法を導入する場合、どのような点に注意したらいいのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、リアルな事例から360度評価のメリット・デメリットについてお伝えします。
360度評価は、直属の上司だけでなく、部下や同僚、他部門の関係者など、立場や関係性の異なる複数の評価者によって評価を行う評価方式です。その目的は、より公正な評価をすること。
「上司が部下を一方的に評価するのは不公平ではないか?」
「部下が上司を評価してもいいのでは?」
「いっそ職場のみんなが評価にしたほうが公正な結果になるのでは?」
こうした不満や思惑から多面評価とも呼ばれる、360度評価という人事評価の新しい手法が生まれました。私たちの会社にもお問い合わせをいただくことが多く、実際に導入している企業も多くあります。
360度評価には、2つのメリットがあります。
①部下が上司を評価できる
部下が上司を評価できるのは良いことです。上司に対して「周囲はこう見ていますよ」とフィードバックをしやすく、「えっ、そう思われていたんだ」と上司が自分を省みる機会になります。上司の成長を促しやすいのは、360度評価の特長のひとつです。
②上司の評価者としての能力を確認できる
上司の評価と周囲の評価とのギャップを発見できます。たとえば、被評価者が課長で、課長に対して部長は高評価をしていても、部下は課長に対して全員が低評価という結果が出たりします。こうした場合、部長は課長を適切に評価できていないことが考えられます。上司がちゃんと部下を評価できているのかを確認し、そのズレを指摘できます。
360度評価は、実は、被評価者の本人だけでなく、その上司の評価力を確認するツールでもあったりします。部下をよく見ていない上司が炙り出されます。上司の評価者としての能力・適性を確認でき、フィードバックすることで上司自身の成長を促す機会にもなる。教育目的であれば、360度評価は一定の効果があります。
ただし、「給与を決める人事評価の手法」としては、あまりお勧めできません。
360度評価には、大きく分けると4つのデメリットがあります。
360度評価は、上司による主観的な評価ではなく、部下や同僚による客観的な評価をめざして作られた評価方式です。しかし、必ずしも公正な評価になるとは限らないのです。これには4つの理由があります。
①主観的な評価になりやすい
社内に明確な評価基準があり、それが全社員に浸透している場合ならともかく、結局はそれぞれの主観的な評価になりがちです。好き嫌いで判断する人も、人間関係を重視する人も出てきます。上司全員の評価目線を合わせるだけでも大変なのに、社員全員の視点を合わせることは不可能に近いです。
②期待値の高低により評価が変わる
期待値が高い人には「もっとできるだろう」と評価が厳しくなり、期待値が低い人には「まあいいんじゃない?」と評価が甘くなる傾向があります。また、厳しい上司に対しては評価が厳しくなり、優しい上司には評価が甘くなる傾向があります。厳しい上司がダメな上司で、優しい上司が優れた上司とは限りません。
③人気投票になる
成果や行動といった仕事に対する評価ではなく、単なる人気投票になりやすい傾向があります。人気がある人は高評価になり、人気がない人は低評価になりがちです。嫌いな人に対しては、すべての項目に「1」をつけるなど、集団リンチのようになってしまうケースがあり、自殺者が出てしまうこともあります。
④制度の運用が難しい
運用するのに非常に手間がかかります。1人の社員に対して評価者を誰にするのか。部下が10人いたら、全員に評価してもらうのか、部下が少ない人はどうするかなど、評価者の選定が難しく、人によっては「僕、15人も評価するんですけど」というケースも出てきます。運営が難しいことも、360度評価の難点です。
以上の理由から、私は360度評価を推奨していません。360度評価が生まれた背景には、「なんであの上司に評価されなきゃいけないの?」というビジネスパーソンの皆さんの不満があります。上司がちゃんとした評価をできていないから、「公正じゃないじゃん」「変えなきゃ」という話になるわけです。
そもそも、なぜ上司が部下を評価するのでしょう?それは、上司には部下を育てる責任があるからです。評価して、気づかせて、育成のきっかけにする。そのために、評価制度があります。評価と育成は、表裏一体。上司は育成責任者として、責任を持って、部下の評価と育成をしなくてはならないのです。
上司が適切に人事評価をできていれば、360度評価をする必要はありません。ただ、直属の上司以外の人からの評価を聞くことによって、気づきを促す教育・育成目的として活用する方法はあります。360度評価を導入する場合には、評価シートをイプサティブ方式にすることをお勧めします。
適性検査には、ノーマティブとイプサティブという2つの方式があります。ノーマティブとは、ひとつの質問に対して「Yes」「No」で答える1問1答方式。イプサティブとは、複数の質問項目の中から、当てはまるものと当てはまらないものを必ず選択する方式です。
適性検査ではノーマティブ方式が一般的ですが、360度評価でこれをやると、すべての項目が「No」という極端な低評価になってしまうことがあります。すべてにおいてダメという結果が出てしまった人は、伸ばすべきポイントもわからず、生き方を変えるしかなくなってしまいます。
一方、イプサティブ方式は、「この人の最も良い点は?」「改善すべき点は?」といった質問があったときに、複数の選択肢から回答を選びます。これは強制選択方式とも呼ばれていて、必ず良い点も見つけなくてはいけません。そのため「インパクトに欠ける」「こっちができているからいいじゃないか」と言い訳をしやすくなるデメリットはありますが、強み・弱みを相対的に導き出すやすく、人気投票にもなりません。
評価の目的は、育成にあります。360度評価を導入するのなら、イプサティブ方式のほうが人を育てやすいです。個々の強み・弱みを可視化することで、人材育成や教育に活かしてください。
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ー「なぜ、あの人が?」
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様々な企業で支給されている「手当」。
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手当に対する考え方を今一度見直してみましょう。
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解消するには「目の前に広がる選択肢に気づいてもらい、
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いま再び注目を集めている「ジョブ型雇用」や「成果主義」は決して新しい考え方ではありませんが、これからの働き方を考える中では重要な要素です。 その実現のためにはジョブディスクリプション(職務記述書)が必要とされています。しかし、ジョブディスクリプションの策定や運用には、様々な課題も想定されます。 「働き方」「雇用のあり方」「管理のあり方」「評価のあり方」「給与・処遇のあり方」といった「考え方」そのものをどこまで変えるのか、といったことをよく考える必要があります。 今回は代表西尾から、これからの時代の働き方や評価についてお伝えしていきます。