2024.09.19
人手不足や物価高など、日本を取り巻く厳しい状況の中、多くの企業が適切な人事制度を取り入れることに積極的になっています。私たちも全国を飛びまわり、日本各地の企業で評価制度構築のコンサルティングや管理職の研修を行っています。実は評価制度がうまく運用できていない企業には、ある共通点があるのです。
クライアント企業を訪れ評価制度の導入や管理職の研修を行う場面で、参加者によく聞く質問があります。
「評価、好きですか?」
「好き」と答える人は、ほとんどいません。社員の皆さんにこんな質問もしています。「皆さんは『人事評価』や『評価制度』という言葉にどんなイメージを持っていますか? ネガティブですか、ポジティブですか?」
最も多いのは、「ネガティブな印象です。ちょっと嫌な感じがします」という回答です。人事評価をポジティブに捉えている人は、ほとんどいないのです。とはいえ「それでも必要なものだと思います」と回答する人も少なくはないので、さらにこんな質問を続けます。
「では、必要なものではあっても、『評価制度』という言葉に『イエーイ!楽しみ♪』って感じますか?『評価制度、イエーイ!』と思う人は、手を挙げてみてください」
手を挙げる人は、まずいません。なぜかと聞くと「難しいから」という声が最も多いです。管理職からは「低い評価をつけづらいから」「自己評価がとても高い部下に苦労するから」といった声も聞かれます。
「評価制度は必要だ」という認識は持っていても、人事評価を前向きなイメージで捉えている人は、極めて少ないということでしょう。評価する側・される側、どちらも人事評価にネガティブな印象を持っているのですから、評価制度を導入しても運用に苦労するのは当然かもしれません。
ただし、すべての人が人事評価を嫌っているわけではありません。実は、成長している企業は「評価が大好き」だったりするのです。「大好き」は行き過ぎた表現かもしれませんが、私はそのように実感しています。
成長企業では、評価者として管理職が集まり、時間をかけて侃々諤々、「彼をどう育てるか」「彼女のいいところを伸ばすにはどうしたらいいか」「新人にどのようなフィードバックをしたらいいか」などと議論しています。「大評価月間」といって管理職の最も優先度の高い仕事を評価とし、ある月に集中的に取り組んでいる会社もあります。
なぜ人事評価に対して、このような違いがあるのでしょうか?
それは、「何のために評価をするのか」を明確にしているから。評価制度の運用に成功している私たちのクラインアント企業は、「社員の育成のために行う」という人事ポリシーを明文化しています。何を重視して評価するのかも明確にしており、その評価を通じて、社員を育てることを目的にしています。
評価の目的が明確ならば、仮に「嫌い」だとしても、管理職も社員もしっかりと人事評価に取り組みます。次第に「嫌い」ではなくなっていったりもします。
一方、人事制度の運用に失敗している企業では、「管理職に何を求めているのか」を明確に示していないケースが多く見られます。以下のような職位要件を示し、「部長」や「課長」に求めるものを明示しましょう。
職位 | 要件分野 | 職位要件 |
部長 | 人材育成 |
担当する部のマネージャーの育成責任と、部全体の人材育成責任を持ち、人材育成計画を策定し、実行する |
課長 | 人材育成 |
課のメンバーの育成責任を持つ。定期的に面談を行い、育成支援をするとともに評価を適正に行い、気づきを与え、成長を促す |
人材育成は、企業における重要な職務の1つです。人を育てなければ、その会社に未来はありません。だからこそ管理職は、真摯に人事評価に向き合わなくてはならないのです。「忙しくて評価なんかしていられない」というような管理職には、その役職を外れていただいたほうがいいかもしれません。
制度は運用できなければ、意味がありません。評価制度が成功するかどうかは、管理職にかかっています。管理職に求める要件を明確にしたら、その上で集まり「目標設定会議」と「評価会議」を実施していきましょう。
「目標設定会議」とは、簡単にいうと、今期どこに向かうかを確認し、各自のゴールを宣言する会。目標設定で大事なのは、他部署がどのような目標を設定しているのかを共有することです。自部署との関連がある職務ならば、双方どのような目標にするのかを議論することには、たいへん意味があります。
「評価会議」とは、本人が立てた目標を達成できているかはもちろん、キャリアステップごとに会社が求めている行動を満たせているかを判断する会。管理職が評価者として「なぜそのような評価にしたのか」を示し、他の管理職から「甘くないか」「厳しすぎないか」という意見をもらいながら人事評価について議論します。
さまざまな企業の評価会議に参加していると「他部署のことはわからない」「他部署の人は評価できない」という声をよく聞きますが、「評価が大好きな会社」では、管理職が他部署のメンバーのこともよく理解しています。
そして「彼の課題、前回みんなで悩んだけど、解決したんだね。どうやったの?」「彼女はすべて『S』評価がついているけど、なぜ『S』だと判断したの?」「その評価は愛がないんじゃない?」といった意見が飛び交い、<みんなで人を育てる>という意識を共有しながら、活発な議論が行われています。
この「目標設定会議」や「評価会議」こそが、管理職を育てるのです。管理職になったばかりの人は、誰もが目標設定や評価のつけ方がわからず悩んでいます。
「なぜ、この人の評価は高いのですか?」と聞くと「いやぁ、まあ、なんとなく、全体的に、いつも頑張っていると思いますし…」「社歴も長いし、そろそろ管理職にした方がいいかなと…」といった曖昧な回答をする人が多いのですが、これらの会議を続けていると、そういう人たちにも変化が訪れます。
「彼は『動機づけ』ができるようになってきました。的確な『問題分析』も身についてきました。『人材育成』にも高い関心を持っています。来期は課長に昇進させてもいいのではないでしょうか」
「彼女は『企画提案力』は素晴らしいのですが、『状況把握』や『自己客観視』に欠ける面があるので、本人の成長を促すためにも、チーフにするのはまだ早いと思います」
人材育成についてディスカッションを重ねていくことによって、こうした発言をするように変わり、管理職自身も「評価者」として成長していきます。評価者が成長し、的確な目標設定や人事評価ができるようになれば部下も成長します。それは当然、会社の成長に直結します。だから成長企業は、「評価が大好き」なのです。
「評価、好きですか」という問いかけは、人事制度の実態を測るパロメーターになります。目標設定会議や評価会議で真剣に議論する土壌をつくり、評価に対してポジティブな意識を持つ会社に変えていきましょう。
次回に続く
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
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「人以外」のリソースも管理する必要があります。
会社から必要とされる人事になるためのリソース戦略とは、
いったいどのようなものなのでしょうか?
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「ジョブ型雇用」や「成果主義」を導入すれば、リモートワーク管理できるのでしょうか?
逆になぜ、今まで「ジョブ型雇用」や「成果主義」は浸透しなかったのでしょうか?
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