2022.09.07
人事は、人員計画・配置・採用・給与・厚生・育成・評価といった分野と、それぞれに戦略、企画、運用、オペレーションという機能があり、幅広い分野の領域に関わる職種です。一領域の人事担当者からマネジャー、人事責任者になるには、何をどのように学べばいいのでしょうか?本記事では、担当者レベルから人事責任者を目指すために重要なポイントを「人事の学校」主宰・西尾太が解説します。
人事の機能はとても幅広く、職務も多彩です。「人事・採用」「給与・厚生」「育成・評価」といった分野があり、それぞれに戦略、企画、運用、オペレーションという機能が求められます。
一領域の人事担当者からマネージャー、そして人事責任者になることに、かなりのギャップを感じている人が多いようです。今回は、この壁を乗り越えるための重要なポイントをお伝えします。
新任担当者の職務は、まずはオペレーションです。上記の図の下のほうから担当していきます。「人事・採用」だったら履歴書の管理や応募者を面接会場に連れてくること。「給与・厚生」だったら給与計算を覚える。「育成・評価」だったら評価の集計や資料作成など、実務を覚えることから始めます。
経験を積み、主任さんなどになると、運用・管理という次の段階に進みます。採用面接などにおいて「判断すること」が求められます。そして「今の運用・管理ってこれでいいんだっけ?」「どう変えていけばいいんだっけ?」と考えることが重要になり、オペレーションの効率化、採用や給与制度・評価制度などの精度を高めることなどが求められます。
課長さんクラスに近づくと、企画です。「人事・採用」だったら人員計画。「給与・厚生」だったら給与制度の整備や福利厚生の企画。「育成・評価」だったら評価制度や教育体系を考えることが重要な職務となります。
担当者レベルからマネージャーになるためには、上記の図の上に進みながら横にも知見を広げていくことが必要になりますが、ここまでは多くの人事担当者が進めるでしょう。問題は次の「戦略」です。
「人事課長」にはなれても「人事部長」になれる人は、実はあまり多くありません。なぜなら課長がやるのは管理、要は実務です。ところが部長になると、戦略を立てることが重要な職務になります。管理とは、効率的な組織運用のこと。戦略とは、道筋を示すこと。ここには大きな溝があるのです。
例えば、人事課長から人事部長に昇進するための最も重要なポイントは、5〜10年先を見据えた「戦略策定」です。戦略策定とは、ビジョンを実現するための方向性や枠組みを策定し、具体的な方針を明らかにすること。自動車で目的地に向かう際に、スピードを優先して高速道路を使うか、コストを優先して一般道を使うかを選択するように、会社のあるべき姿に向かう道筋を示し、精査し、選定します。
ある選択肢を実行するということは、ほかの選択肢を捨てることを意味します。人事に限らず組織のリーダーには、その重大な決断を下し、責任を取る覚悟が求められます。
戦略機能を担うことができるかどうか。これが課長と部長の大きな違いです。
人事部長は、政治の世界に例えると、大臣の「戦略機能」と事務次官の「実務機能」の両方を担うポジションのようなものと言えるでしょう。官房長官と言う経営者もいらっしゃいました。
戦略と実務、人事部長にはこの両方が必要ですが、これができる人は極めて少ないです。特に戦略機能を担うためには、経営者との丁々発止のやりとりが必要になります。経営の意向を確認しながら違う方向に進みそうなときは戻すことも必要です。人事部長は経営と直でやりとりするため相当しんどい仕事です。
当然、人事の全体像を理解していることも重要なポイントです。知っているのは、採用のことだけ、労務のことだけ、教育のことだけ。そのような偏った知識では、人事部長は務まりません。採用課長だけをやっていた人では人事部長はできませんし、給与課長だけをやっていた人も人事部長はできません。
だから人事課長から人事部長になれる人は少ないのです。
そのため人事部長は、社内から登用しないで外から持ってくるケースが多いです。ただし、多くの場合、人事部長を外部から採用すると失敗します。
例えば、人材系会社で活躍した経験を買われたAさんが人事部長として着任したとします。早く結果を示したいAさんは、人事評価制度や給与制度に手を付けます。ところが運用を想定していなかったため、制度導入後、社内は大混乱。居づらくなったAさんは退職。後に残ったのは。運用できない制度の残骸…。
このような事例がとても多く見られます。なぜ人事部長を外から採ると失敗してしまうのでしょうか。
それは人事の基盤づくりができていないからです。人事の基盤とは、「ベタな人事」「ベタベタな人事」と呼ばれる基幹的人事機能のことをいいます。(詳細は前回を参照)
前回もお伝えしたように、人事の基盤という土台ができていなければ、どんなに先進的な施策も、砂上の楼閣のように崩れていきます。経営者も「おもしろ人事」への関心は高いのですが、「ベタな人事」「ベタベタな人事」には関心がありません。
そのため人事部長を外から連れてくるケースが多く、「人事制度をガラッと変えたら業績が下がってしまった」「個人の成果偏重の制度を導入したら上司が部下に何も教えなくなってしまった」「新しい仕組みを導入したら社員のモチベーションが下がってしまった」といった悲劇が起こりやすくなるのです。
人事の施策は、一度失敗すると、立て直すのに何年もかかります。しかも、その失敗が「失敗だった」とわかるまでに数年を要する場合もあります。
人事部長を外から持ってきて失敗するケースは本当にたくさんあって、その傷は重いです。
だからこそ、人事担当者の皆さんには人事部長を目指してほしいのです。人事部長をできる人は、なかなかいません。それだけに希少価値も高く、どんな会社でも通用する力を身につけることができます。
社内でステップアップできる環境がないのなら、転職するのもひとつの方法ですが、人事部長を経験してから転職しないと、他社で人事部長になるのは難しいでしょう。
社内で人事について学べる環境がないのなら、私たちが提供している「人事の学校」で学習する方法もあります。人事の全体像から人事の基盤づくり、戦略の立て方、階層別人材育成や人事のキャリアデザイン、人事部長として持っておくべき信念まで、必要なことはすべてお伝えしています。
あなたが人事部長となって、人事の基盤づくりをしっかりしておけば、他部門の人材が人事部長になっても大きな混乱を招くことはないはずです。営業のエースなど、社内のことをよくわかっている人材を人事部長に据えて円滑に機能させている会社もあります。
人事は、経営に最も近い職種です。今の会社でさらに上を目指すこともできますし、人事部長を経験することで転職もしやすくなり、より自分を活かせる環境を求めてキャリアアップしていくことも可能です。
人事課長にはなれても人事部長になれる人が少ないのは、人事についての学習の仕組みが体系化されていないことも大きいのでしょう。でも、体系化されていないように見えるだけで、実は体系化された教育プログラムはあるのです。人事のプロとして成功する秘訣もあります。
人事は、我流では成長できません。基礎を学ぶことから始めてみませんか?
▶︎次回【人事の基礎知識がすべて学べる!5000人以上の人事担当者が受講する学習プログラム「人事の学校」とは?】〜人事担当者の学習・キャリア構築③
フォー・ノーツ『人事の学校』は
企業向けの人事担当者の学習プログラムです。
毎週、それぞれのペースで動画を見て、 簡単なテストに答える「だけ」で”共通言語”が身につく
2009年開講。過去に述べ5,000人以上の人事担当者が受講
ベースとなる知識の学習、実践による定着、スキルレベルの可視化などをワンストップで提供。
人事部のあるべき姿を見出す「俯瞰的視点」の掴み方から、人事担当者の育て方、新法律の対応の仕方まで、人事にまつわる基礎知識のすべてが学べます。
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
新卒でも、中途入社であっても、人事未経験で人事部に配属されたとしたら、
どのような考え方を持ち、何をして過ごすべきなのでしょうか?
今回は若手人事担当者の心構えについて解説します。
ビジネスパーソン向けのWebコラムを
10月24日(木)よりアルファポリスのビジネスサイトでスタートいたしました。
コロナ渦という前代未聞の事態に見舞われた今、人事の課題はますます山積みしています。人事が強い会社でないと、これからの荒波を乗り越えていけません。人事が強い会社とは、どんな特徴があるのか?また、どのようなメリットをもたらすのか? 今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人材育成の考え方や方法を解説します。
人事にエースを配置する企業はそれほど多くありません。
しかし、会社が成長し続けるかぎり、社内に顔が広いエースに
人事全体を引っ張っていってもらわなければならない瞬間が必ず訪れます。
人事ポリシーとは会社の「人」に対する考え方を表明したものです。
会社が抱える「人」の悩みの大半は、社員との間にある意識のミスマッチが原因です。
自社に即した人事ポリシーによって意識をすり合わせることができれば、
複数の課題が一気に解決することも珍しくありません。
テレワークやDX対応、ジョブ型、70歳定年、早期退職、黒字リストラなど、今、人事の課題は山積みになっています。この「第4次人事革命」において、人事担当者がやるべきことは何なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、日本企業の人事施策の変遷を振り返りながら、歴史から学ぶべきことをお伝えします。
他の職種と同じように、人事担当者にも勉強は必要です。
とはいうものの、きちんと勉強している人事担当者が少数派というのもまた事実。
まずは通勤などの隙間時間でいいので、勉強習慣を始めてみませんか?
人事部門が優れている企業ほど、業績がいいことをご存知でしょうか。人事担当者の優劣は、実は企業の業績や成長力に大きく影響しています。では、優れた人事担当者を育てるには、どのような教育が必要なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事向けの研修に必要なカリキュラムを解説します。