2022.06.13
脱・年功序列とは、社員のパフォーマンスを適切に評価し、パフォーマンスに応じて給与を比例させる仕組みを構築することです。人事担当者は、人事ポリシーをもとに、一貫性のある評価制度や給与制度を構築する必要があります。脱・年功序列を成功させるためには、3つのポイントが重要です。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、脱・年功序列を実現する人事制度の作り方をお伝えします。
人事制度にはいくつかの形があり、「何を重視して処遇するか」によって評価制度も給与制度も異なります。脱・年功序列を成功させるためには、3つのポイントが重要です。
1つは、「成果」と「行動」で評価することです。日本では高度成長以降、「能力主義」が広く定着してきました。これは人が持つ「能力」を重視して処遇する考え方です。しかし、人が能力を持っているかどうかを直接的に判断することは困難ですよね。そのため「年齢が高まれば能力も高まる」という考えに基づいて、長く働いた人ほど給与が高くなる「年功序列」とほぼイコールの考えになってきました。
人事制度にはいろいろな考えがあっていいと思いますが、「脱・年功序列」を目指すのであれば、答えはほぼ一択です。「成果」と「行動」で評価し、それ以外は見ない。これに尽きます。
年功序列型の人事制度は、年齢・勤続年数・過去の功績など、その他の要素を評価や給与の対象にしています。成果と行動で評価すると決めたら、これらの要素は見ない。これが非常に重要なポイントです。脱・年功序列に成功している企業は、ほぼ100%「成果」と「行動」だけを見て、評価や給与を決めています。私も成果主義と行動主義を組み合わせた人事制度こそが、現状の日本における最適解だと考えます。
成果主義とは、どのような「成果」を出したかで評価することです。半年ないし1年間の目標の達成度合いを評価します。ただ、成果は運や環境によっても左右されます。
そのため、成果だけを評価基準にすると評価を誤りやすく、給与額の変動も大きすぎるため、社員が安心して仕事に打ち込めなくなります。だから成果主義に行動主義をプラスするのです。
行動主義とは、どのような「行動」を取っているかを評価することです。「能力」と違い、「行動」は周囲から観察できます。「成果」は運や環境によっても左右されますが、「行動」は成果の再現性が予見できます。
成果に繋がる行動=コンピテンシーを明確にすることによって、直接的な評価が可能です。通常、階層別に求められる行動を明示し、その発揮度合いを評価します。そのため等級制度ともマッチしやすいです。
能力がある人は、行動を起こすので、成果に繋がります。能力があっても行動しない人は、成果に繋がらないので、企業にとっては価値がありません。ですから過去ではなく、現在の行動による価値を評価して給与を決める。これが「脱・年功序列」の人事制度を作るための基本的な考え方となります。
近年脚光を浴びている、職務主義(ジョブ型)は、「人」ではなく「職務の難度」や「職責の重さ」によって評価します。そのポストに対して職位手当や役職手当を払うのであれば、現在の役割に対して処遇することになりますから、脱・年功序列を実現する方法としては「あり」かもしれません。
ただし、欧米企業と同じようなジョブ型を日本企業が導入した場合、年功序列以外の様々な問題が起こることが予想されるため、私は全面的なお勧めはできません。これについては拙著『超ジョブ型人事革命』(日経BP)で詳しく理由を述べていますので、参考にしていただければ幸いです。
脱・年功序列を成功させる2つ目の重要なポイントは、「会社が社員に求めるもの」を明確にすることです。人事制度は、以下のような構造にする必要があります。
会社が社員に求めるものとは、「当社の社員らしい行動」「階層別に求められる行動」「職位者に求められる行動」そして「目標達成」。そして、これらを実現するための「人事施策」「社員に明示される指針・要件」「評価とフィードバック」「報酬」を明示し、そのギャップを埋めるための「教育施策」「育成手法」も実施する。
これが人事制度のハードウェアとなります。成果で評価するなら、人事施策の「目標設定」は特に重要です。
「当社の社員らしい行動」「階層別に求められる行動」「職位者に求められる行動」「目標達成」の各項目について、会社が社員に求めるものを明らかにすれば、それが評価基準になります。その評価基準に照らして評価しましょう、というのが、脱・年功序列を実現する「成果」と「行動」で評価する人事制度です。
ちなみに上記の表にある「職種別に求められる知識・スキル」も、会社が社員に求めるもののひとつですが、人事制度に組み込むことはあまりお勧めできません。
外資系企業に多く見られるのは、人事、総務、経理など、職種ごとの評価ポイントを細かく分類し、具体的なスキルの評価項目も詳しく折り込んであったりする評価制度です。一見すると成果と行動を正しく評価ができそうですよね。しかし評価項目が細かすぎる制度は、評価作業に莫大な時間とエネルギーがかかります。そのため評価者にかかる負担が大きく、運用も煩雑になりがちです。
また、「職種別に求められる知識・スキル」を人事制度に組み込む場合、評価ポイントの分類や評価項目の設定には、ジョブ型におけるジョブディスクリプションの作成と同等の手間隙がかかります。コンサルタントに依頼すると非常に高額になり、組織変更をした場合も書き換えなければなりません。企業によっては必要な場合もありますが、運用についても慎重に判断し、十分に検討したほうがいいでしょう。
脱・年功序列を成功させる3つ目の重要なポイントは、「何に対して給与・賞与を払うか」です。成果と行動で評価をする場合、給与は「投資」、賞与は「精算」と考えます。
基本給は、未来の成果に対する「投資」です。未来に対する投資価値をどのように見るかというと、その人が成果に繋がる行動を取れているか、いわゆるコンピテンシーを発揮しているかで判断し、その投資価値で基本給を決めます。投資価値が上がれば、給与も上がり、投資価値が下がれば、基本給も下がります。
賞与は、直近の業績に対する「精算」です・業績が上がったら、賞与も上がり、業績が下がったら、賞与も下がる。成果が上がっていなければ、去年のボーナスが50万円でも、今年はゼロになるかもしれない。このようにして「何に対して給料を払っているのか」「何に対して賞与を払っているのか」ということを明確にして、評価と給与を「成果」と「行動」に結びつける。これが脱・年功序列を実現する給与制度です。
この考えをしっかり持てるかどうかが、脱・年功序列を成功させる非常に重要なポイントです。成果と行動しか見ないと決めれば、基本給やボーナスに他の要素が入ってくる余地はありません。ですが、そこがはっきりしていない会社が多いのが、なかなか脱・年功序列が実現しない原因のひとつです。
成果と行動で給与を決める制度を変えても、運用が始まると「賞与は生活給」などと言い出す人が必ず出てきます。そういう場合に「生活給?それは生活保障主義ですよね。成果と行動で評価するって決めましたよね。生活給ってどういう意味ですか?」と、しっかり議論することが重要です。そうした積み重ねによって、脱・年功序列が実現していくのです。
人事担当者は「賞与は生活給じゃないですよ。だから今後は、住宅ローンも車のローンも基本給で考えてください。賞与は、旅行や美味しいものを食べるお金と考えてください」と噛み砕いて説明し、運用段階で横槍を入れてくる人たちに対処していく必要があります。
まとめると、脱・年功序列を成功させるためには、成果と行動で評価することを決める。そして会社が社員に求めるものを成果と行動をベースに明らかにする。給与の根拠は、投資と精算と考える。それによって、基本給変動幅と賞与変動幅を考える。これを覚悟を持ってやる、ということです。
成果が上がれば、ボーナスで報いる。成果が出なかったら、ボーナスは下げる。会社が社員に求める行動ができていれば、基本給を上げる。できていなければ、基本給は下げる。会社が社員に求める役割が果たせていなかったら、ポストから外す。脱・年功序列の肝は、それができるかどうかです。
最後に、最も重要になるのが運用です。これは次回、詳しくお伝えします。
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人事が効果的な採用や配置をするための手段として
注目されている「人材ポートフォリオ」。
人的資源を可視化できるため、
どのような人材がどれぐらい必要かが見えやすくなります。
ではどのように活用すればよいのでしょうか。