あなたの会社に「社長の右腕」と呼べる人はいますか?将来の経営を任せられる人材は育っていますか? 中小企業では事業を継承できる後継者問題が深刻になっています。今回は「人事異動」シリーズ第3回。フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、社長の後継者の育て方についてお伝えします。

中小企業では、後継者問題が深刻になっています。社長に後継ぎがいないため、事業が売れるなら売るし、それができなかったら廃業することが増えています。血縁者を後継者にできる会社はいいとしても、そうでない場合は、社内で育てるか、外部から連れてくるしかありません。ただ、社長の右腕として活躍し、事業を継承できるような人材を育てるのは容易ではありません。
社長が右腕にしたいのは、一言でいうと、経営者として同じ価値観を持てる人材です。ただし、社長と社員の目線には、非常に大きな壁があります。
すごく簡単に説明すると、社長は仕事が増えると嬉しい人種です。受注が増えたり、忙しくなることが何よりの喜びになっています。それは会社を背負っているからです。会社が潰れたら困るので、常に業績を伸ばすことを考え、誰よりも責任を感じています。一方、社員は仕事が増えるのが嬉しくありません。同じ30万円の基本給で働いているのなら、仕事は少ないほうがいいわけですよね。
ですから社長の右腕になれそうな人材がいたら、「あなたは仕事が増えると嬉しいですか?」という問いかけが、ひとつのリトマス試験紙になります。社長はビジネスに命を賭けています、24時間、365日、会社のことを考えています。夢もロマンも現実も含めて、常に考えています。社長の右腕になるためには、こうした価値観を共有し、同じ側に行けるのかが極めて重要なポイントになります。
中途採用のお手伝いをしていると、「社長の右腕になりたい」という人がやって来ます。本当に社長の側に行けるのか、上記のような問いかけをすると「できます」と答えます。
ところが、社長から土日にLINEやチャットが来ただけでも不満を抱いてしまうことが少なくありません。もちろん、土日や深夜など業務時間外に連絡するのは良くないことです。私もそうお伝えしているのですが、社長はそれを我慢できない人種だったりするのです。
なぜなら24時間、365日、命懸けで仕事をしているからです。その思いに、どれだけ対峙できるのか、寄り添えるのか、付いていけるのか。ここが非常に大きなハードルとなります。
社長のライフスタイルは、「仕事中心」です。プライベートを優先するという生き方ではありません。仕事と遊びが融合している、いわば「ワークライフ・ブレンド」です。常に仕事のことを考え、アンテナを張り巡らし、そのために有益な情報をもたらす人たちと連絡を取り合って会っていかなければ、創造と変革は生み出せません。社長の右腕も、これと同じことが求められます。
社長の右腕になるためには、もちろんそれなりの能力が必要ですが、能力は後から付いてくればいいのです。社長に叱られ、ぶっ飛ばされながら、必要な能力を必死に勉強すればいい。いちばん大切なのは、その志向性です。仕事に立ち向かう気持ちです。
弊社では「次世代リーダー研修」「次世代経営者研修」というプログラムをご提供しています。クライアント企業において次の経営者を目指す人を社内で公募し、経営者としての心構えや必要な能力、コンピテンシーをお伝えしていくというものです。
まずは自分の棚卸しから始め、課題解決、ロジカルシンキング、リーダーシップ、チームビルディング、コミュニケーション、それから財務、会計、マーケティング 、戦略立案、事業計画の作成などを学んでもらいます。毎月その道のプロを講師として招き、研修と研修の間には課題を出し、事業計画のプレゼンなど、グループごとに発表などもしています。
こうした研修で経営者やリーダーとして備えておくべきスキルをお伝えすることによって、役員になった人や志向性が目覚めた人もいますが、「上がよどんでいるから取って代わってやろう」「社長と直に繋がって、やりたいことをやっていくぞ」といった気概をすぐに持ち、スイッチを入れてもらえるとは限りません。能力や視点はお伝えすることはできても、社長と同じ想い=「志」を持てるようになるのはとても難しく、育てるにはやはり時間がかかります。
社長の右腕が育っている会社は、入社した時点から、将来は経営陣になることを期待している人と、普通に働いてもらう人を分けて考えています。経営者候補には、そのことを本人にも伝え、まずは修羅場に飛び込ませます。数年間は現場の、特にキツいところで実績を積んでもらって、そのうえで本社の経営企画や事業戦略といった部署に配属し、次世代リーダーとして育てていくのです。
早くから「お前は経営者候補だぞ」と伝え、「経営者はワークライフ・ブレンドだぞ」「答えの見えない仕事に取り組んでいくんだぞ」「つらいかもしれないけど、面白いだろう」と意識づけをしながら、じっくり時間をかけて育てる。この方法からは、将来の経営者候補となる人材が結構育っています。
社長の右腕は、自然には育ちません。人事が戦略的に育てていくことが必要です。採用段階からそういう資質がある人を見つけ、早くから意識づけをして、コミュニケーションを密にして、常に圧をかけながら、長期的に時間をかけて育てていく。
それについて来られる人と、ついて来られない人が当然いますが、ついて来られない人が出てくるのは仕方ありません。それは能力ではなく、生き方の問題ですから。ついて来られる人がいたら、社長のそばに置くなどして、いろいろな理不尽な要求にも耐えながら、経営者の想いも学ばせていく。
社長の右腕は、秘書とは違います。身の回りのお世話をするのではなく、社長の参謀であり、同志であり、後継者となるべき人材です。社長に「これどう思う?」と聞かれたら「こうっすね!」と答えられるぐらいでなければ務まりません。レベル感として相当高いものが求められますから、普通の社員教育とは違う視点で考えなくてはいけません。
社長は、雇用契約ではなく委任契約です。雇用契約でない以上、働き方革命もワークライフ・バランスも関係ありません。普通の社員と同じように、働き方革命やワークライフ・バランスを重視していたら、24時間、365日、仕事のことを考えている社長と同じ価値観は持てません。
ですから、社長の右腕に関しては「雇用契約で働く社員」という括りではない就業形態も考えておく必要があるのではないでしょうか。
社長は強烈な想いを持っています。その想いとまともに対峙できる人は、会社にとってものすごく貴重です。そういう人材を育てるのは容易ではありませんが、育てておかないと後継者不足になります。外から採用してうまくいくとは限りませんし、社長の信頼を得るには本当に時間がかかります。ある程度、特別な措置は取ることは必要です。
優秀な人材は現場が手放さなくなるので、人事権は現場ではなく経営や人事部が持つ。経営陣との対話や接点も早くから持たせる。必要なスキルは次世代経営者研修などで伝える。雇用形態も人事権も配置も教育も、長期的なプランを持って行っていく。こうした方法で成功している事例があります。社長の右腕に関しては、さまざまな方法を駆使しながら、人事が戦略的に育てていきましょう。

              人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
                成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。 
                なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
            

              
                中学時代に習ったこと、覚えてますか?
              
              多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
              この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
            

              ー「なぜ、あの人が?」
              なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
              どうすれば給与が上がるのでしょうか。
              11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
            

              
                テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
              
              その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
            

              人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
							人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
            
 
                  
                  「頑張っていること」を評価したい、
という気持ちを持つのは悪いことではありません。
しかし、その気持ちを本当に評価に反映してしまうと、
社員の不満の元になってしまいます。                
 
                  人手不足倒産が増えています。約7割の企業が人手不足に陥り、2024年には約8割の企業が賃上げを検討しています。その一方、給料が高くなくても優秀な若手を集めている企業もあります。給与アップだけが、人材不足を解消する手段ではありません。今回は、若くて優秀な若手を集めている企業に共通する「3つのポイント」を紹介します。
 
                  あなたの会社では、「給与」をどのようにして決めていますか? 私たちが主宰している学習プログラム「人事の学校」を受講している経営者や管理職には「給与の決め方がよくわからない」という方が多くいます。給与の決め方は、「何」を大事にして社員を評価するかによって異なります。今回は、知っているようで意外と知られていない「給与の決め方」について解説します。
 
                  
                  人事ポリシーを適切に運用できている企業は、
残念ながらそれほど多くないというのが現状です。
ではなぜ、せっかく策定した人事ポリシーを活かすことができないのでしょうか?                
 
                  
                  人事ポリシーとは会社の「人」に対する考え方を表明したものです。
会社が抱える「人」の悩みの大半は、社員との間にある意識のミスマッチが原因です。
自社に即した人事ポリシーによって意識をすり合わせることができれば、
複数の課題が一気に解決することも珍しくありません。                
 
                  戦略、企画、運用、オペレーション、そして、人員計画、採用、異動、労務、評価、給与、規程、教育研修など、業務の幅が非常に広い人事職。人事担当者は、どのように学習し、キャリアを構築していったらいいのでしょうか?本記事では、新任担当者から主力メンバーになるまでのキャリア構築の方法を「人事の学校」主宰・西尾太が解説します。まずは反面教師として「イタイ人事担当者」について知っておきましょう。
 
                  テレワークが主体となっている企業において、新入社員研修の新たな方法が求められています。会社の事業理解やマナー研修、ビジネス基礎知識に関する研修などについて、リモート時代に求められる人事のの取り組みはどのようなものなのでしょうか。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、テレワークにおける人材育成の方法について提言します。
 
                  
                  労務分野の法律や制度に関する「お勉強」が
人事担当者の第一歩だと勘違いしてしまっている方は少なくありません。
しかし実は、人事担当者には専門的な知識など必要ないのです。
この記事では人事担当者に求められる知識を解説していきます。