コロナ禍で黒字リストラが増える中、従業員シェアやワークシェアリングなどの雇用を守る取り組みが注目されています。どちらも有効な施策ですが、長期的に継続するかどうかが鍵となります。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、雇用を守るために人事担当者がすべきことについてお伝えします。
前回は副業を始めとする多様化するワークリソースの活用についてお伝えしましたが、コロナ禍で黒字リストラや企業の倒産が増える中、雇用を守る取り組みが注目されています
例えば、JALグループやANAグループはKDDIや家電量販店のノジマに数百人規模を出向させました。イオングループ、パソナグループなども出向の受け入れを行なっています。業績不振企業が人手不足企業に従業員を出向させる「従業員シェア」は、とても良い施策だといえるでしょう。
出向というのは、出向元との雇用契約は維持したまま、他社と出向契約を結び、他社の指揮命令下で業務を行う施策です。副業は、副業先において会社の人事権は行使できませんが、出向は、「出向から戻す」「延長する」などの人事権を持ち続けることができます。
従業員シェアは、出向元と出向先で給与の差が出た場合は、出向元がその差額を負担するケースが多く、従業員の雇用と収入が維持できます。出向先での経験は、出向元に戻っても活かせます。また、会社が望む業種や職種を経験させることもできるでしょう。
自社では得られない経験を、会社主導のもとで、他社で経験してもらえる。様々な規模や業種の企業と人的交流を図れる。これは人材育成の方法としても有効なひとつです。
今は自社で人材を囲っている時代ではありません。副業と同じく、出向の受け入れも積極的に行えば、他社の優秀な人材を活かし、戦略的に自社のイノベーションを促すことができます。多企業間で人材をシェアし、個々の活躍の場を広げていくのは望ましいことです。従業員シェアは、現在のような緊急時や景気の後退期時以外にも活用できるはずです。
雇用を守る取り組みとして「ワークシェアリング」も注目されています。ワークシェアリングとは、解雇することなく仕事を従業員で分け合う施策です。1人の仕事を複数人で分担することによって、失業させずに雇用を維持できます。長時間労働といったハードワークの軽減にも有効で、生産性を向上できるともいわれています。ただし、ネックとなるのは社員の収入が下がることです。
雇用を守ることは、経営者の務めといわれています。従業員シェアもワークシェアリングも一時的な雇用の維持に対してはとても有効な施策ですが、長期的に見ればどうでしょうか?
私は「雇用を守る」というのは、「自社で」ではなく、社員を「どこでも働ける人材にする」ことだと考えています。「この会社を辞めたらどこにも行けない」、これは最も不幸なことです。逆に「いつ辞めても大丈夫」と思えたら、どれほどの安心感をもたらすでしょう。こういう状態をつくりだすことが、本当の意味で「雇用を守る」ことにつながると思うのです。
人事の究極のミッションは、「どこでも通用する人材をつくること」「どこでも働ける人材がウチにいる」という状態をつくり出すこと。私はそう考えています。そして、そういう人材を「超ジョブ型プロフェッショナル」と呼んでいます。
今後はますます早期退職という名目のリストラが増えていくはずです。「この会社で定年まで勤め上げよう」と思っていても、45歳になったら「早期退職しますか?」と言われてしまうわけです。これからの時代は、転職が増えていくでしょう。働き方の「多様化」だけでなく、人材の「流動性」も高まっていきます。
私は30年前、新卒で入社した自動車メーカーを3年で辞めて転職しました。しかし当時は、新卒が3年で辞めるなんて前代未聞でした。会社の恥になるとされていたので、私は表向きには「転職します」とは言えず「家業を継ぎます」と言って辞めました。それが現在では、新卒が3年で3割辞めるのは常識となって久しいです。
なぜ新卒は3年で辞めてしまうのでしょうか。「この会社にいても成長できない」「外で通用する力が身につかないので不安」という声をよく聞きます。若い世代にとって、転職は当たり前になっています。今の時代は、社内でしか通用しない力を身につけても、将来の不安は消えないのです。自身の成長に意欲的な若い世代ほど、会社に見切りをつけて、早く辞めてしまうのでしょう。
黒字リストラの対象となる中高年にとっても、外でも通用する力を身につけることは死活問題です。この会社を辞めたらどこにも行けない。そんな人をリストラしたら、不幸しか生み出しません。
だからこそ人事は、「どこでも通用する人材」の育成を目指すべきです。この会社にいれば成長できる、外に出ても通用する人材になれる。そう思えば、逆に社員は辞めません。「ここにいると成長できて仕事が面白い」、そんな環境をつくっていくことこそが、会社や人事に求められていることではないでしょうか。
どこでも通用する人材をつくることが重要なのは、社員のためだけではありません。優秀な人材を集め、会社の業績を上げていくためにも必要なことです。
働き方が多様化し、人材の流動化が高まる。ここでは成長できないと思った人は、さっさと辞める。そういう状況において、会社にしがみつく人ほど、将来活躍する見込みは低いです。どこでも働ける人は離職し、他には行けない人だけが残る。こんな悪循環に陥ったら、企業は弱体化してしまいます。
良い循環をつくるためには、あらゆる雇用形態・契約形態を視野に入れ、多彩な働き方を認めましょう。優秀な人材は雇用契約にはこだわっていません。有期契約、業務委託、副業など、様々なスタイルで働ける形をつくり、いろんな才能を、いろんな方法で繋ぎ止めておけるようにすべきです。
そして、一度縁のあった人に対しては、どこでも通用していただくような仕組みをつくることが重要です。それはキャリアステップの指標であり、世の中で通用する普遍的な指標であり、それに基づいた評価やフィードバック、給与制度を構築していくことです。その仕組みによって気づきを与え、力をつけていただく。それが超ジョブ型時代の人事です。
なぜ「超」なのかというと、ジョブ型とは職務を明確にする雇用制度です。その明確の仕方の抽象度を上げておかないと、どこでも通用する力にはなりません。ここ(自社)でしか通用しないジョブディスプリクションの中だけで仕事をしてしまうと、他では通用しなくなるリスクがあるのです。
実際、欧米におけるジョブディスプリクションは、かなり抽象度が高いそうです。海外でジョブと呼ばれているものは、多くの日本人がイメージしているような狭義の職務ではないのです。
なぜなら職務は、時代や状況によって変化します。野球に例えれば、「サード」だけを守っていればいいような職務では、変化に対応できません。また、その職務がなくなったときにその人は仕事を失ってしまいます。「内野」くらいのゆるい定義にしておかないと、運用できませんし、他で通用する力も身につかないのです。
与えられたジョブをこなすだけでなく、ミッションと目標をしっかり認識し、自分のジョブを自分で定め、自ら成長していく。これが「どこでも通用する人材」=「超ジョブ型プロフェッショナル」です。
では、どうしたらそういう人材をつくることができるのでしょうか。拙著『超ジョブ型人事革命』(日経BP)に詳しく記していますが、次回、大事なポイントを改めて紹介します。
次回につづく

人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?

中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。

ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!

テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。

人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
人事部門が優れている企業ほど、業績がいいことをご存知でしょうか。人事担当者の優劣は、実は企業の業績や成長力に大きく影響しています。では、優れた人事担当者を育てるには、どのような教育が必要なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事向けの研修に必要なカリキュラムを解説します。
新型コロナウイルスの影響によって消費が落ち込み、飲食店やショッピングモールなどの営業自粛も相まって、業績が低迷している企業が増えてきました。 こうした緊急事態、かつ長期戦が見込まれる時こそ、企業は数年後の展望を見据えた事業戦略を立てることが大事です。 こうして立てられた事業戦略をもとに今後の人事戦略を考えていきましょう。
人事制度の基本的な構成は「等級制度」「評価制度」「給与制度」の3つです。
面倒だからと策定を後回しにしている会社も多いですが、
社員を会社に必要な人材に育成するために、人事制度は欠かせません。
今回の記事で人事制度に意味を理解して、なるべく早いうちに策定しましょう。
今再び注目を集める「ジョブ型雇用」や「成果主義」。 決して新しい考え方ではありませんが、これからの働き方を考える中では重要な要素です。これらの導入には、ジョブディスクリプション(職務記述書)が必要ですが、策定や運用には多くの困難が存在します。 今回は代表西尾から、これからの時代の働き方や評価についてお伝えしていきます。
金融業界を中心に、「通年採用」を採用しはじめた企業が登場しはじめた2020年。ニュースでも世の中を大いに賑わせ、注目を集めました。さて、この「通年採用」は、今までの採用制度とどう違うのでしょうか?また、通年採用は、採用力に影響はあるのでしょうか?「通年採用」を行ううえで押さえておかなければならない大事なポイントは何でしょうか?今回は、「通年採用」の効用について、お話しします。
経営陣から下りてくる人事施策が果たして本当に人事ポリシーに則っているのか?
それを判断するのは人事の役目です。
そのために必要な「人事の人事ポリシー」とは?
AIや副業やアウトソーシングといった多様化する昨今の働き方。
様々な雇用形態から最適なリソースを選び取る必要がある
人事という役職に求められる人事統括としてのポジションとは。
リモートワークが日の目を浴びるようになって、はや数ヶ月。
上手く機能している企業とそうでない企業に分かれ始めています。リモートワークをより効率的にするためには、どのような人事評価を行えばよいのでしょうか。
リモートワークの特質と、そこでの評価項目の決め方についてお話しいたします。