2021.07.20
不正やパワハラなど、内部告発によって明るみに出る企業の不祥事。内部告発はとても勇気のいる行為ですが、人事に影響するのか、どんなデメリットがあるのか、気になる人も多いでしょう。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、内部告発に対して会社や人事担当者がすべきことを解説します。
パワハラや不正経理、データの改竄など、内部告発による企業の不祥事が後をたちません。内部告発は、コンプライアンス上とても大切なことです。しかし中には、あってはならないことですが、不正を告発した社員が1人だけの部署に隔離されたり、冷遇されるなど悪質な報復人事を行う企業もあり、社内に不信感が蔓延してしまう、告発すべきことが表に出にくくなってしまう、不正が繰り返し為されていく、というケースも少なくありません。「内部告発は人事に影響する?」と問われたら、残念ながら「影響させるべきではないが、ないとは言えない」と答えざるを得ません。告発する側のデメリットは、大きく3つあります。
①報復人事・懲罰人事
1つは、本人にとって不本意な異動や降格を命じられる報復人事です。これは懲罰人事とも言われ、告発者を冷遇して罰を与えることです。ただし、報復人事はパワハラに該当する場合があるため、表面上は昇進という形にして、本人の望まない部署に異動させたりします。
②解雇
2つ目は、告発者の解雇です。といっても、会社は簡単に社員を解雇できません。不当な解雇は違法となります。そのため本人が望まない部署に異動させて、強制的に自主退職を迫ったりします。
③人間関係の悪化
3つ目は、人間関係の悪化です。日本では内部告発を「恩知らず」「裏切り者」とネガティブに捉える傾向が強く、告発した人が社内で孤立してしまうケースが少なくありません。
人事担当者の皆さんは、これらの例を反面教師にしてください。内部告発は、会社にとって不正の抑止力となる行為です。告発者に対して報復人事を行うことは、会社にとってデメリットしかありません。
パワハラは、社員のモチベーションや生産性を下げ、業績悪化に繋がります。不正やハラスメントなどによるコンプライアンス違反は、企業に多大なダメージを与え、最悪の場合、倒産に追い込まれる危険性さえあります。最近、大手企業においても長年にわたる不正行為が明るみに出て、社長の辞任に発展した事例がありましたが、隠蔽体質の組織は、浄化作用が働かず、致命的な事件・事故を起こすリスクが極めて高いです。
内部告発のやり方は、不正やハラスメントに関する詳細な記録や音声データを用意し、社外の、例えば労働基準監督署、弁護士事務所やマスコミなどに報告するのが一般的です。これはとても勇気のいる行為ですが、社内に相談できる人がいれば、告発したい人も自身が不利益を被るようなことをしなくて済むはずです。
人事担当者がやるべきことは、社内に相談できる窓口をつくり、不正やハラスメントの告発もしくは相談をしたい社員にデメリットが生じないような組織にすることです。法務にコンプライアンス推進室を設ける、人事に相談窓口をつくるなど、社内の問題を報告できる仕組みをつくりましょう。それによって致命的な事件・事故に発展することや、マスコミによる炎上などを防ぐことができます。
社内で何か問題が起こったとしても、内部で告発をしてもらえれば、不正やハラスメントに対して適切な対処をすることができます。いきなり社外に告発されてしまうと大変な事態に発展します。そうなる前に、まずは社内できちんと対応し問題を解決できる組織にするのです。そうすることで、告発した社員に不利が生じたり、人間関係が悪化するトラブルも防ぐことができます。
人事部に窓口をつくっても「あの人、人事に何か話したらしいよ」とネガティブな噂になってしまうようなら、オンラインを活用する方法もあります。何かあったときは、Zoomやチャットツール、メールやLINEなどで気軽に相談できるようにする。録画や記録をされるのを嫌がる人もいますから、直接話せる仕組みもつくっておく。そうして「〇〇さんがハラスメントをしています」「うちの部署で不正をしています」といった情報をキャッチし、外部に告発される前に、問題を解決できる組織にしていくのです。
人事の役割は、警察官と看護師。私はそう教わったことがあります。困ったことがあったら交番のおまわりさんや看護師さんに相談するように、社内で何かあったときの相談役として頼られる存在になる。不正や問題が起こったときは、それを調査し、取り締まる警察官のような役割も担う。そして、ケアすべき人は適切にフォローする看護師の役割も併せ持つ、そんな意味でした。
この言葉の通り、人事担当者は、相談に乗るだけでなく、警察官のように必要な情報を多方面から入手し、多くの人の意見を聞き、必要な情報とそうでない情報を選り分け、客観的に事実を捉えることが必要です。例えば、ある社員から「上司からパワハラされた」と相談された場合、大事な情報として受け止めることはもちろん重要ですが、それが事実なのかどうかを客観的に検証することも必要です。
人に関する情報は、真偽の判断が難しいので細心の注意を払わなくはいけません。なぜなら、告発した社員とされた社員、どちらの一生も大きく変えてしまう可能性があるからです。
1人だけが言っていることなのか、周囲も言っていることなのか、多くの情報を集め、事実を捉える。複数の社員から話を聞くと「この人が言っていることと、あの人が言っていることは違う」「この情報は多くの人が証言している」と事実が明らかになってきます。必ず複数の情報を入手し、物事の本質を見極めるようにしてください。偏った情報を鵜呑みにしてはいけません。これは人事にとって極めて重要な鉄則です。
そして、事実関係をきちんと調べたうえで、不正やハラスメントが明らかになったら、経営に報告します。その際も、例えば不正だったら「これは懲戒解雇要件ですよ」、パワハラだったら「減給処分の上で異動させたほうがいいんじゃないでしょうか」など、就業規則に基づいた提言を行います。最終的な判決を下すのは経営ですが、人事として公正な見解を伝えることが健全な組織運営に繋がります。そのためには、普段から信頼できるトップとの繋がりを持って置くことも重要です。
内部告発に対して、人事は公正中立の立場を貫かなくてはいけません。何か問題が起こっても、人事が間に入って公正に対処することで、会社に対する信頼や会社の安全性も高まります。内部告発ができるのは、健全な組織の証です。社員が困りごとを相談できる窓口をつくり、告発ないし相談をしたい人が決して不利にならない、公正な組織づくりをしていきましょう。それが会社を守ることに繋がります。
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
資金不足を理由に人事制度の策定を先延ばしにする企業は少なくありません。
しかし人事制度とは本来、資金の有無にかかわらず策定されるべきものです。
まずは会社にとって人事制度がどのような存在なのかを理解してください。
人事が効果的な採用や配置をするための手段として
注目されている「人材ポートフォリオ」。
人的資源を可視化できるため、
どのような人材がどれぐらい必要かが見えやすくなります。
ではどのように活用すればよいのでしょうか。
様々な企業で支給されている「手当」。
中には手当を求人の売りにしているのも見かけます。
手当に対する考え方を今一度見直してみましょう。
いままで受け身の姿勢で仕事をしてきた人事が、急に主体的に動かなければならない
仕事を任されたとしてもうまく動けないことがほとんどでしょう。
そうした時に「社外の人事のプロ」に依頼することで
これまでの「受け身人事」の性質から脱却することができるかもしれません。
新卒採用というのは、
本来であれば明確な目的意識をもって取り掛かるべきことです。
しかし世の中には、
目的があいまいなまま新卒を採用している会社も少なくありません。
新卒採用を始める前に、
もう一度その意味を確かめてみましょう。
1年間で退職した人の割合を表す離職率。「離職率が高い=悪い会社」「離職率が低い=良い会社」と言った認識が世間では一般的になっていますが、果たして本当にそうでしょうか。 実は、離職率だけをみて、その会社の良し悪しを判断することは非常に危険です。 重要なのは離職率の「数字」ではなく、「どんな人が辞めているのか」という離職率の「中身」です。 今回は、人事担当者として「離職率」というテーマとどう向き合い対応するべきなのかをお話しします。
コロナ禍で黒字リストラが増える中、従業員シェアやワークシェアリングなどの雇用を守る取り組みが注目されています。どちらも有効な施策ですが、長期的に継続するかどうかが鍵となります。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、雇用を守るために人事担当者がすべきことについてお伝えします。
「なぜ自分は人事部に配属されたのだろう?」
人事部に配属されることの意味は、新卒と中途採用によって変わってきます。
今回は、入社してすぐに人事部に配属される人の傾向について解説いたします。