2024.05.27
会社がある程度の規模(社員数50〜100名程度)に成長してくると、評価や給与に不満を感じる社員が増え、優秀な社員ほど離職してしまう傾向が見られます。そんな状況になったときに必要となるのが、評価制度や給与制度などの人事制度です。しかし、人事制度の失敗例は、数限りなくあります。制度は運用できなければ意味がありません。なぜ制度を導入しても失敗してしまう企業が多いのでしょうか?
会社がある程度の規模(社員数50〜100名程度)に成長してくると、評価や給与に不満を感じる社員が増え、優秀な社員ほど離職してしまう傾向が見られます。そんな状況になったときに必要となるのが、評価制度や給与制度などの人事制度です。ただし、経営者からはこんな本音もよく聞きます。
「評価制度をつくってみたものの、管理職たちの協力を得られなかった」
「業務が忙しすぎて、形骸化してしまった」
「給与制度は評価基準が曖昧で、結局、運用できなかった」
人事制度の失敗例は、数限りなくあります。制度は運用できなければ意味がありません。なぜ制度を導入しても失敗してしまう企業が多いのでしょうか?
原因はさまさまですが、1つ確実に言えることは「人事ポリシー」がないから。私たちはその企業の個性ともいえる「軸」となる考え方を「人事ポリシー」と呼んでいます。これは「企業の、そこで働く人に対する考え方」です。「人事ポリシー」は、自社オリジナリティのもの。
たとえば、基本給を下げることを是とするのか。なぜ下げるのか。給与はなぜ上がるのか。賞与は何に対して払うのか。社員のキャリア形成をどのように考えるのか…。これらは企業ごとに違う「企業の、働く人に対する考え方」によります。
「長く働いてほしい」という企業もあれば、「人は新陳代謝していくほうがいい」という企業もあります。こうした軸となる考え方=「人事ポリシー」をしっかりしないまま人事施策に取り組んでしまうから失敗してしまうのです。人事制度は、その代表例といえるでしょう。
ここで人事制度の構造について改めて確認してみましょう。人事施策は、次のことを整理するものといえます。
・企業が社員に求めるものを明らかにする(要件設定)
・「求めるもの」と「社員個々人の発揮度合い・達成度合い」の剥離を判定する(評価)
・評価を処遇(等級や職位など)に反映すると共に、給与・賞与を決定する(報酬・給与)
・剥離を埋めるための教育施策を展開する(教育・育成)
長く運用されている企業の人事制度は、ほぼこの構造をしていると考えられます。いわば人事評価制度の「ハードウェア」です。ただし、そのソフトウエアとして「社員に何を求めるのか」については、企業ごとの考え方に基づいて企画されなければなりません。
給与を決める際、成果を評価するのか、行動を評価するのか、能力なのか、または年齢や勤続などを考慮するのか。そういったことは「人事ポリシー」に基づきます。(給与の決め方については、<知っているようで、意外と知られていない「給与の決め方」>で詳しく説明しています)
ここをしっかり確認しないで評価制度や給与制度を導入してしまうと、評価と給与にブレやバラつきが出てきて、結局「何のための評価なんだ?」ということになり、失敗してしまうのです。
たとえば、成果と行動で評価するつもりが、評価者が「彼のお子さん、今度高校生なんだよね。だから評価を下げられないよ」と評価会議で発言してしまったりします。このようにして評価決定の軸が揺らいでいくと、制度が形骸化してしまい、結局は運用できずに終わったりするのです。
そういう場面においては、経営者や人事が「いや、成果と行動のみで評価することにしていますので、お子さんのことは考慮しません!」とはっきり断言できなくてはいけません。あるいは「家族の状況を考慮する」というポリシーにして、どんな社員に対してもその考え方を優先していくべきです。
「しのびない」と言って低い評価をつけられない評価者もいます。こうした光景は、評価会議で本当によく見ます。その時点で評価制度は機能しなくなります。人事施策や人事施策を機能させるために不可欠なもの、それが「人事ポリシー」なのです。
では、企業人事の軸となる人事ポリシーはどのように明確にしていけばいいのでしょうか。
まず、人事ポリシー明確化においては、それを決めるのは経営者です。経営者が創業者であれば、そこには強い想いや価値観があるはずです。また創業者でなくても、経営するにあたっては、自身の信念があるでしょう。あなたが人事担当者なら、経営者、特に社長とのコミュニケーションによって、その想い・価値観を抽出していってください。
私たちはクライアントの人事施策構築のプロジェクトに入る際などには必ず、経営者と人事ポリシーの確認をさせていただきます。これにより経営者からも「頭の中を整理できた」「自身がどういう考えでいるのか改めて確認できた」といったコメントをいただくこともあります。
さらに、人事ポリシーを経営者と確認しておけば、経営にブレが生じたときに、それを諌めたり、あるいは再度確認してポリシーの変更を相談したりするなど、人事担当者にとっては強力な牽制・確認材料になります。
人事の仕事は、たとえば人事制度改定や新卒採用など、数年間以上を見据えたものが多くあります。短期的にコロコロ方針が変わってしまうのは困ります。一方で経営者はスピードと変革を求めます。ここに経営者と人事担当者のギャップが生まれます。「できません」では人事担当者は務まりません。
経営者の新たな発想が「今後も継続的にそれを行うもの」なのか、「試しにやってみろ」「今回だけやれ」なのかを確認しなければなりません。つまり人事担当者は、それが「人事ポリシー」の変更を伴わない「例外」なのか、「人事ポリシー」の変える「変更」なのかを常に見極め必要があるのです。
そのためにも、やはり軸=「人事ポリシー」が必要です。変えるべきものと変えてはならないものは、見極めておかなければなりません。人事には「一貫性」と「継続性(変えるなら変えることを明確に意識して行うこと)」が大切なのです。
人事制度の失敗は、その多くがこの「人事ポリシー」がブレたときに起こります。人事ポリシーを定めるべき項目は多岐にわたります。今後もこのコラムで紹介していきますが、早く全容を掴みたい方は拙著『人事で一番大切なこと』(西尾太/日本実業出版社)をご参照いただけますと幸いです。
『人事で一番大切なこと 採用・育成・評価の軸となる「人事ポリシー」の決め方・使い方』
流行りの人事制度がうまくいかない理由、採用の失敗が起こる原因と対処法、自社に本当に合う人材を採用し育成できる方法、自社に合った評価制度の見極め方などを紹介。人事に関わるなら知っておきたい採用・育成・制度設計の要点をまとめた一冊。(西尾太/日本実業出版社)
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
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