2024.04.29
人手不足が深刻化する現在、企業の約8割(82.9%)が2024年に賃上げを実施予定だといいます。「うちは給与が安いので人が採れない」「給与が低いので人が辞めてしまう」「給与を上げたいのはもちろんだが、現実的には厳しい」とおっしゃる経営者が多くいます。しかし、給与を上げれば人が採用でき、定着し続けてくれるのでしょうか。今回は、この問題を深掘りしてみたいと思います。
東京商工リサーチの調査によると、企業の8割(82.9%)が2024年の賃上げを実施予定だといいます。前回のエントリーで触れたように、企業の約7割が人事不足に陥り、人手不足倒産が増えている影響でしょう。実際、「うちは給与が安いので人が採れない」「給与が低いので人が辞めてしまう」「給与を上げたいのはもちろんだが、現実的には厳しい」とおっしゃる経営者が多くいます。
ですが、給与を上げれば、本当に人が採用でき、定着し続けてくれるのでしょうか。
今回は、この問題について深掘りしてみたいと思います。
お金とモチベーションの関係は、経営者や人事担当者が陥りやすい問題です。たとえば、年収800万円の人は、年収400万円の人の「倍のモチベーション」で働いているのでしょうか?
どうも、そうは見えません。また、年収が高いといわれている会社の社員全員がやる気もりもりで働いているようにも見えないのです。昇給の目的は社員のモチベーションアップだけではありませんが、給与とモチベーションの関係は改めて考えてみたほうがいいでしょう。
有名な「ハーズバーグの二要因理論(動機づけ・衛生理論)というものがあります。ハーズバーグによれば、「給与」は衛生要因(それがなくなると、やる気がなくなる要因)であるとされています。ただし、「給与がもりもりあっても、やる気が増えるわけではない」とも指摘しています、
※図 昇給とモチベーション
(「人事で一番大切なこと」P146を参考に作成)
上の図は、定期的に「昇給」していることを示しています。下の線は、モチベーションの状況を示しています。モチベーションは、昇給時には一時的に高まりますが、また元に戻るのです。
さらに「思ったより昇給額が低かった」「他者よりも少なかった」ということで、「昇給しているにもかかわらず、モチベーションが下がる」ということもあり得ます。そして、下がったモチベーションは、元に戻るまで時間がかかったりもするのです。
私も経験がありますが、それなりに昇給してもらったとき、そのときは一瞬やる気が出るのですが、しばらくすると元に戻ります。また、昇給しても「期待したほど上がらなかった」と感じたときには、逆にモチベーションが下がったりもします。皆さんもそういう経験があるのではないでしょうか?
つまり、給与が上がっても、モチベーションが下がることもあるのです。
もちろん給与を上げることが悪いわけではありませんが、社員のやる気を高める源泉は「お金だけではない」ということは認識しておいたほうがいいでしょう。「給与を上げていきたい」という思いはとても大切ですが、それだけでモチベーションを買い続けるのは難しいのです。
社員が仕事に求めているのは、「お金」だけではありません。モチベーションリソース(やる気の源泉)には、大きく分けると4つのタイプがあると言われています。
・仕事型
仕事そのものが好きである。お客様に「ありがとう」と言われると嬉しい。
・組織型
その組織にいることを誇りに思う。会社が好き。組織での役割・責任でやる気になる。
・職場型
組織型の一種。そこにいる仲間と一緒に仕事をするのが楽しい。
・生活型
仕事で得たお金で得られるものがやる気の源泉。家族、趣味、買い物などが目的。
「仕事型」の人は、仕事が本当に充実していれば、実はお金や生活のことはあまり気になりません。ですが、仕事にやりがいが感じられなくなると離職してしまう傾向があります。仕事自体をモチベーションリソースとして維持し続けていく最適なマネジメントの1つは、裁量権を持たせることです。裁量権が大きくなればなるほど、「仕事型」の人のモチベーションは高まります。
「組織型」の人は、会社や組織そのものに誇りを持っているタイプです。モチベーションを高める方法は、会社のミッション、ビジョン、バリューといった理念を徹底的に浸透させ、共感をより高めること。あるいは、組織内での役割や責任などのステイタスを積極的に与え、組織の一員であることを強く自覚させることです。会社自体のステイタスを上げることも、モチベーションリソースになります。
「職場型」の人は、自分が所属しているチームや職場が好きなタイプです。そこにいる仲間と同じ時間を過ごすことや一緒に働くことが楽しければ、仕事内容にはそれほどこだわらない人も多くいます。モチベーションを高める方法は、仲間意識を高めていく施策を打つこと。新年会、忘年会、社員旅行、運動会、部署対抗コンテストといったイベントやレクリエーションを積極的に行うといいでしょう。
「生活型」の人は、仕事や会社、職場ではなく、休日に旅行したり、買い物に行ったり、趣味に打ち込むなど、仕事以外の楽しみを生きがいとしていくタイプです。生活型の人にとっての「いい会社」とは、安定した収入を得られることや残業や休日出社がないこと。ワークライフバランスを重視した効率のよい働き方を実現し、手当やインセンティブをつけることがモチベーションリソースになります。
何をモチベーションリソースにするかは、人それぞれ異なります。複合型であることも多いですが、給与を上げることだけが、人を採用し、定着させていく方法ではないのです。
あなたの会社の社員には、何を「やりがい」として働いてもらいたいのか、ぜひ考えてみてください。それを会社のポリシーとして定め、一定の方向に導いていくことで、採用力や定着率を高めることができるはずです。
【参考】
・東京商工リサーチ:従業員の欠員率「5%以上」 企業の51.4%と半数超え 「宿泊業」「建設業」「情報通信業」で人手不足が浮き彫り
・東京商工リサーチ:来春の賃上げ 「2023年超え」は 1割にとどまる 原資の確保には 「価格転嫁」「人材開発」を重視
次回に続く

人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?

中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。

ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!

テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。

人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
人手不足倒産が増えています。約7割の企業が人手不足に陥り、2024年には約8割の企業が賃上げを検討しています。その一方、給料が高くなくても優秀な若手を集めている企業もあります。給与アップだけが、人材不足を解消する手段ではありません。今回は、若くて優秀な若手を集めている企業に共通する「3つのポイント」を紹介します。
自分が評価されるかされないかは、持っている影響力の大きさによって決まります。
自分がどんな価値を会社に提供できるのか。求められていることを理解し、影響力を高めていきましょう。
人材育成は、「研修」や「評価」など、さまざまな方法があります。なかでも「人事異動」は、仕事内容、人間関係、上司が変わり、新たな環境に対応することで、社員が劇的に成長します。ただし、計画的かつ戦略的に実施することが重要です。その鍵を握るのは、人事担当者が作成する「人事異動方針」です。
コロナ禍で否応なく進む在宅勤務制度。しかし、その一方で接客業など、どうしても出勤が必要な職種があるのもまた確かです。同じ社内に在宅勤務ができる職種、できない職種が混在している場合、しばしば人事に寄せられるのが「自分は(職種上)在宅勤務ができないのに、同じ社内で在宅勤務している人がいるのは不公平だ!」という声。 さて、そうした声が起こる理由は何なのか?人事担当者としてはどのように対処すべきか考えてみましょう。
説明会や面接で大切なのが採用担当者の第一印象です。
採用担当者は企業の顔といっても過言ではありませんので、
ここで悪い印象を持たれると優秀な人材はすぐに他の企業を選んでしまいます。
今回は、悪い印象を持たれないためのファーストインプレッションについて解説いたします。
会社がある程度の規模(社員数50〜100名程度)に成長してくると、評価や給与に不満を感じる社員が増え、優秀な社員ほど離職してしまう傾向が見られます。そんな状況になったときに必要となるのが、評価制度や給与制度などの人事制度です。しかし、人事制度の失敗例は、数限りなくあります。制度は運用できなければ意味がありません。なぜ制度を導入しても失敗してしまう企業が多いのでしょうか?
「離職率を下げる」という目標を持っている会社は少なくないでしょう。
その目標を持って私たちにご相談いただく企業様は、
ブラック企業でもなく、労働環境が悪いわけでもない、ごく普通の企業様ばかりです。
ではなぜ人が辞めてしまうのでしょうか?
その理由は、「人事ポリシー」にありました。
人事にとって「離職」は悩みの種の1つです。採用難に加えて「定着せずに辞めてしまう」という課題が、人手不足をますます深刻にしています。離職率が高いのは、いわゆるブラック企業に限りません。近年はホワイト企業であっても辞める若手が増えています。その根本的な原因を探ってみましょう。