2023.04.27
総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社は、代表取締役社長・西尾太の著書『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』出版記念特別セミナー【聞いた後でジワジワくる‼西尾太の「地味な」人事の話】を2022年11月17日、TKP東京駅日本橋カンファレンスセンターにて開催いたしました。本記事は、このセミナーの内容を再構成・加筆してお届けしています。今回のテーマは、「会社が社員に求めるものとは?」。人事制度の構造とキャリアステップについて解説します。
人事制度の構造は、どこの会社もほぼ一緒です。ほとんどの会社では、次のようになっています。
まず最初に「会社が社員に求めるもの」があって、社員がそれぞれどういう状態にあるのかという「評価」があって、その結果を「給与」に反映します。そして「会社が社員に求めるもの」と「評価」のギャップを埋めるために「教育」があります。細かく分けると、以下のようになります。
まずは「会社が社員に求めるもの」が明確になっていないと、評価もできないし、給与も決められないし、教育もできないんですね。では、そもそも「会社が社員に求めるもの」とは何でしょう?
というわけで、皆さんに質問です。あなたは何のために働くのですか?
「私はこのために働いています」という理由を考えてみてください。
管理職研修や人事制度説明会などで、いつも同じ質問をしていますが、返ってくる答えは、ほぼ8割方、「生活のため」です。「それなら、宝くじ10億円が当たったら会社を辞めますか?」と質問すると、「辞めます!」と社長の前で言っている管理職もいたりします。
それが現実なんですけど、ここでもっともらしい話をさせていただくと、「働く」というのは、お客様や世の中に対して何らかの価値を提供して、報酬をいただくことですよね。会社というのは、みんなで集まって、何らかの価値を社会に提供して、それが売上になって、それが皆様の給与になっているわけです。
そう考えてみると、働く目的というのは「生活」ではなく、「顧客に、社会に、何らかの価値を提供して、その価値に見合った報酬を得ること」なのではないでしょうか。上記の図の左側ではなく、右側が働く目的であると、僕は考えています。
「じゃあ、どんな価値を提供するんですか?」ということを示したものが「理念」です。
理念とは、会社が顧客に、社会に、どのような価値を提供したいかを示すものです。なので、皆様が会社に所属して働く目的は、「理念」のはずなんですよね。
皆さんは、御社の理念を説明できますか。経営者はもちろん、人事の皆様は、社員や応募者に対して、自社の理念をスカーンと言えなくちゃダメですよ。だって、働く目的ですから。
会社は、同じ価値を一緒に提供しようとする人が集まっているもののはずですから、理念を自分の言葉で語れることが、今日ここにいる人事の皆様の役割です。「何のために働くんですか?」と問われたら、「理念」を答えられなければならない。少なくとも人事は。
上記は、当社の理念と行動指針です。理念、特にそのうちバリューと呼ばれる価値観を具体的に行動に落としたものを「行動指針」といいます。
皆様の会社に「行動指針」はあるでしょうか? 行動指針とは、理念を体現するもの。これを評価制度に入れていただくように、僕らはいつもお願いしています。
行動指針の評価は、全員がAならAでもいい。自分の会社が大事にしていることを、評価の場でコミュニケーションすることが大切です。差をつけるためではなく、確認し合うためのもの。そういう理由で、当社は評価制度に「行動指針」を入れていただくことをおすすめしています。
というわけで、会社が社員に求めるものとは、まずは「理念」と「行動指針」です。
次は「キャリアステップごとに求められる行動」になります。
先日(2022年10月22日)、読売新聞オンラインに「叱られたい若者が急増」という記事が出ていました。リモート勤務で上司から叱られなくなった、それが不満なのだといいます。
なぜ叱られたいかというと、叱られないし、指摘もされないから、別の場所で通用しなくなるんじゃないか、という不安がある。同級生にも差をつけられている。今の職場では成長できないんじゃないかと思ってしまう。だから叱ってほしいそうです。皆さん、若手を叱っていますか?
もちろん若手だって理不尽に、わけわかんないことで叱られたくはないでしょう。会社が社員に求めるものや、求められる行動ができていないときに、「おいおい」と言ってほしいわけですよね。それが「叱る」ってことですから、何か理由や根拠のようなものがなければ、叱れないはずなんです。
その何かを示すものが、「キャリアステップ」です。
キャリアステップとは、「現在何が求められているのか」「次に何が求められるのか」「キャリアアップのために何が必要なのか」を示す、いわば「社員の成長のための指針」です。
「ここにいれば成長できる」「この会社にいればいつでもどこにでも転職できるようになる」、そう実感できれば、社員は会社を辞めません。僕も経験がありますけど、そう思えているときって、キャリアへの不安なく働けるんです。
「自分は外に出たら通用しないかもしれない」「転職したら絶対に給料が下がる」そう思っていると、本当につらいです。だからキャリアステップを示すことは、とても大事なのです。
「じゃあどうすれば成長できるのか」を示すのが、「等級制度」とか「グレード制度」と呼ばれるものです。小さな会社は別として、8〜9割方の会社は、だいたい等級制度を持っています。
等級制度は、キャリアステップになり、育成の指針になり、評価制度や給与制度、職位・権限の根拠になり、採用・配置の指標にもなりますから、非常に重要です。
等級制度が示すのは、社員の成長のステップです。上記のように、メンバー層、課長層、部長層と、等級が上がるにつれて、会社が社員に求める行動は変化します。
メンバー層に求められるのは、主には「実務を着実に行うこと」。「無駄なく合理的に業務を遂行すること」や「やり抜くエネルギー」も求められます。
ところが、マネージャークラスの課長層になると、実務を頑張るだけでは評価されません。メンバー層が実務を遂行するための「管理」が求められます。
さらに上級マネージャークラスの部長層になると、「組織のビジョンを示すこと」「そのビジョンに向けた戦略を示すこと」「そのための将来の予見をすること」などが求められ、等級が上がるにつれて、組織内での影響力も大きくなっていきます。
影響力を分解すると、上記の図のようになります。縦軸は「タスクマネジメント」。これはPDCAを回すことを意味しています。メンバー層は自身のPDCAを回すことが求められますが、課長層、部長層と等級が上がるにつれて、より大きな組織のPDCAを求められるようになります。
横軸は「ヒューマンマネジメント」。これは対人関係能力を意味し、協調性、主体性から、人を育てることが求められるようになり、育てる人数によって、影響力は大きくなっていきます。
さらに部長層以上になると、ビジョンや戦略を作る「リーダーシップ」、リスクを発生させない、被害を最小限に抑える「リスクマネジメント」も求められるようになり、影響力がより大きくなります。
上記の図の縦軸と横軸の面積が、その人の影響力を表します。個人PDCAを回して、協調性や主体性を発揮するだけだと黄緑の面積しかありませんが、マネージャークラスになって、組織PDCAを回して、人材育成もするようになると水色の面積まで広がり、より大きな影響力を持つようになります。
このようにして影響力を高めていくことが、ビジネスパーソンの「成長」であり、成長に応じて「会社に求められること」が変化することを示すのが「キャリアステップ」です。
等級制度があるという会社の皆さん、それは以下の表のようなかんじでしょうか?
僕はたくさんの会社の等級制度を見させていただいていますが、多くは上記のようになっています。文字が小さいので拡大してみますね。
5等級の説明がこれだけ、6等級の説明がこれだけ、他にそれに対しての指標がない。実はこのような等級制度が非常に多いです。これは非常にもったいないと思います。
また、各等級を定義する要素が少ないだけでなく、上記のような書き方の等級制度もよく見かけます。上記の説明文を読んでみてください。どうしてこんなに文章を繋げるのでしょう?
文章を分解しないと、どこがイケていて、どこがイケてないのか、社員の皆さんもわからないですよね。なぜ昇格できて、なぜ昇格できないのかも、わからないでしょう。
説明文の内容はこのままとしても、少なくとも文章を分解して、評価できるようにしなくてはいけません。でないと、運用ができません。評価の場面を想像してみてください。
「お前さあ、“一般的な監督のもとに担当範囲の細部にわたる専門的知識と多年の経験に基づき、係または班レベルの組織の業務について企画し、自らその運営・調整にあたるとともに部下を指導・監督する”ができてないぞ」。
何を言っているのかわからないですよね。文章を分解しないと、こんな言い方になってしまいます。
また、評価基準となるポイントは、少なくともキーワード化していただきたいです。たとえば、「専門性」はあるのか・ないのか、「業務企画」はやっているのか・やっていないのか、「運営・調整」はできているのか・いないのか。「指導・監督」はちゃんとやっているのか・できていないのか。
キーワード化は、とても大切です。僕らが提供している等級制度では、このようになっています。
4等級は主に「チームマネジメント」、3等級は主に「プロジェクトマネジメント」。たとえば、このように求めているものを示して、それぞれの違いをキーワード化しています。
さらに、4等級は「計画立案」「進捗管理」「目標達成」「計数管理」…、3等級は「動機づけ」「問題分析」「改善」「異文化コミュニケーション」…と、それぞれこんな行動が求められますよ、という具体的なキーワードを示して、等級の違いが明らかになるようにしているのです。
では、このキーワードとは何かというと、「コンピテンシー 」です。コンピテンシーとは、「成果を上げるために欠かせない行動」です。これはすごく大事なポイントなので、詳しく説明します。
(次回につづく)
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
評価制度の導入は会社にとっての変化。
中には良く思わない人もいるかもしれません。
しかし、だからといって引き下がると制度の導入が進められないばかりか、
人事が“なめられる”原因になってしまいます。
リモートワークが日の目を浴びるようになって、はや数ヶ月。
上手く機能している企業とそうでない企業に分かれ始めています。リモートワークをより効率的にするためには、どのような人事評価を行えばよいのでしょうか。
リモートワークの特質と、そこでの評価項目の決め方についてお話しいたします。
「人事の仕事」と言われてすんなりイメージできる人は少ないはず。
その理由は、人事の仕事の特性と会社の求めることとのギャップにありました。
このギャップに気づけないと、
会社からの期待に応えられない人事担当者になってしまうかもしれません。
昨今の情勢により急速に需要が高まっているリモートワーク。
ただ、リモートワークで適切に社員を管理することはできるのでしょうか?
リモートワークを実現するために、
人事担当者や管理者が踏むべきファーストステップをご紹介します。
転職市場が活性化している昨今、「出戻り制度」を設ける会社が増えています。
しかし、人事担当者は安易にこうした制度に飛びついてはいけません。メリットとデメリットを理解して判断することが重要です。
他の職種と同じように、人事担当者にも勉強は必要です。
とはいうものの、きちんと勉強している人事担当者が少数派というのもまた事実。
まずは通勤などの隙間時間でいいので、勉強習慣を始めてみませんか?
経営陣から下りてくる人事施策が果たして本当に人事ポリシーに則っているのか?
それを判断するのは人事の役目です。
そのために必要な「人事の人事ポリシー」とは?
働き方が多様化する中、週休3日制を導入する企業がでてきました。週休3日制は企業側としてメスを入れにくい「人件費」という大きなコストの削減を、印象を悪くすることなく実現する事ができます。また、社員側としても「会社以外で、他のキャリアを積むことが出来る」というメリットがあり、一見双方にメリットが有るように感じる施策です。さて、今回は、「週休3日制」のメリット、デメリットについて検証してみます。人事担当者は週休3日制を「どうやって運用」していくべきなのでしょうか?