2021.05.11
人事部門が優れている企業ほど、業績がいいことをご存知でしょうか。人事担当者の優劣は、実は企業の業績や成長力に大きく影響しています。では、優れた人事担当者を育てるには、どのような教育が必要なのでしょうか? そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事向けの研修に必要なカリキュラムを解説します。
コロナ禍から1年以上が経過しましたが、いまだ収束の出口が見えてきません。業績が悪化する企業、倒産する企業も増えるなか、人事部門に対して「人に対して手を打っていかないといけない」という声が高まっています。ただ、その一方で「テレワークどうするんだ?」「今後はジョブ型か?」など、さまざまな課題が山積みし、「今はそれどころじゃない」という人事部門の声も多く聞かれます。
でも、本当にそれでいいのでしょうか? 1990年代に米国ミシガン大学の教授ディビット・ウルリッチが提唱した「戦略人事」という考え方があります。
「戦略人事」とは、企業経営において経営戦略と人材マネジメントを連動させることによって、競争優位を目指そうとする考え方です。また、それを実現させるための人事部門の機能や役割などを示す概念とされています。要は、会社全体を考えたときに、人事的側面からどうしていくべきかを考えることをいいます。
私はこの「戦略人事」という言葉があまり好きではありませんが(当たり前のことだと思っていますので)、ウルリッチが提唱した考え方は、すべての経営者と人事関係者が早急に考えていかなければならないことだと感じています。なぜなら、人事部門が「戦略人事」として活動できているかを調査した、次のようなデータがあるからです。
人事担当者が「戦略実現のために必要なスキルを満たしているか」を調べたデータも見てみましょう。
人事担当者が戦略実現のために必要なスキルや、それを実行するための知識を養っておかなければ、企業は今後、生き残っていけなくなります。テレワークの急速な普及、ジョブ型の導入、DXへの対応、副業、SDGsへの対応…、人事課題が山積している今だからこそ、むしろ人事担当者の育成は急務です。
それにもかかわらず、2割程度の会社しか、戦略人事に必要なスキルを満たした人事担当者を育てられていないのです。これには、各企業の問題だけなく、時代の変化も大きく影響しているのでしょう。
高度成長期はどの企業も伝統的に人事部門が強く、人事担当者を育てていました。人事畑と云われる人材が経営陣となり、現場を経験し、組合と折衝するなど、実際に人事をやってきた人たちが人事を育てていました。しかし、人事不要論が高まった90年代の終わりから、そうした文化の衰退が始まり、現在に至っています。
人事は、組織のなかで「誰でもできる職種」と誤解されることが多く、今でもその認識が根強く残っています。しかし、実は人事こそが、専門的な教育を行い、優秀な人材を育てなくてはならない部門なのです。
前述の調査では「人事担当者としての能力・スキルを高めるために行っている自己啓発」という項目もあり、以下のような回答が集まっていました。
1位は「労働関係法令」、2位は「社会保険制度」です。
労働関係法令も社会保険制度も、基礎の基礎としては知っておいたほうがいい知識ですが、ここから勉強しても人事の仕事はできません。戦略的人事など、なおさらです。
例えば、学校の地理の授業で「日本」について学ぶときに「栃木県」から始めるでしょうか。「栃木県」についてだけ学んで、「日本」の全体像は見えてくるでしょうか?
人事も同じです。人事業務は、採用、配置、育成、給与、労務管理、制度…と多岐に渡りますが、それぞれが密接に繋がっています。その繋がりを理解していなければ、部分最適な対処しかできないのです。
人事担当者に本当に必要なのは、「広い視野」です。個々の知識を深く掘り下げて勉強するよりも、何か異常があったときにどうするのか、新しいことをやるときに何をすべきか、経営陣に何か言われても「それはこうなんです」と、どのような場面でも対処できる、網羅的で普遍的な知識が必要とされる領域なのです。
人事の領域は、非常に幅広く、やるべきこと、覚えるべきことが無数にあります。しかし、そうした知見を体系的にまとめたものはなく、多くの企業では人事担当者を育成する環境が整っていませんでした。私は、そうした現状に危機感を抱き、2009年から「人事の学校」という人事担当者の養成講座を実施しています。
「人事の学校」では、以下のような研修プログラムを組んでいます。
人事担当者の育成に必要なのは、網羅的で普遍的なカリキュラムです。人事向けの研修では、まずは人事の全体像をつかむこと、人事部門の役割を教えることから始めましょう
そのうえで、人事ポリシー、採用・配置、人事制度、労働法規・規定と労務管理、教育・育成など、各分野の施策について学んでいくのです。「人事の学校」では、各2時間の講座を12回行い、人事の基礎を学んでいきます。労働法規や社会保険制度についても学びますが、それは全体の24分の1にすぎません。
12の領域について計24時間の勉強をすれば、それぞれの本質的な意味と構造、人事全体における位置づけや繋がりを学び、人事担当者として必要な基礎を身につけることができます。
人事のやり方は、1つではありません。正解も1つとは限りません。そこが難しいのですが、基本はあります。企業ごとの個性を出すにしても、基本を知り、基本を押さえたうえで工夫をしていかないと、人事そのものが破綻しかねません。特に、社内に人事全体の経験者がいない場合、必要な力を身につけることは困難です。
人事担当者の能力は、企業の業績に大きく影響しています。コロナショックという前代未聞の事態の見舞われた今だからこそ、人事担当者を育てていきましょう。
「人事の学校」を受講していただくことも大歓迎ですし、企業ごとの研修も承ります。そうでなくても、上記のカリキュラムを参考に、ぜひとも人事担当者の育成に注力していただきたいと願っています。
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
創業したてのベンチャーから成長後期、大企業クラスの規模に至るまで、
会社には様々な変化があります。そしてそれは、人事部も同じ。
今回は各ステージごとの人事部の立ち位置の違いと、
人事が陥りがちなことをお伝えします。
「年功序列」の考え方が染み付いている日本企業は少なくありません。
しかし、働き方が多様化し、ジョブ型の給与体系の企業も増えている昨今、
そのままでは優秀な人材が入ってこず取り残されてしまう可能性が高くなります。
今回は、西尾による講演をもとに、日本企業の「年功序列」について考えます。
求めるものがはっきりしていなければ、何をしても「ブレる人事」になります。
ブレない人事を実現するに、会社が求めるものを人事ポリシーで示しましょう。
脱・年功序列とは、社員のパフォーマンスを適切に評価し、パフォーマンスに応じて給与を比例させる仕組みを構築することです。人事担当者は、人事ポリシーをもとに、一貫性のある評価制度や給与制度を構築する必要があります。脱・年功序列を成功させるためには、3つのポイントが重要です。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、脱・年功序列を実現する人事制度の作り方をお伝えします。
あなたの会社に「社長の右腕」と呼べる人はいますか?将来の経営を任せられる人材は育っていますか? 中小企業では事業を継承できる後継者問題が深刻になっています。今回は「人事異動」シリーズ第3回。フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、社長の後継者の育て方についてお伝えします。
人事にとっては社内の情報収集も業務の一環です。
社内の人が集まりそうなところに積極的に顔を出して、
コミュニケーションを重ねなければいけません。
目指すは「話しかけやすい人事」です!
様々な企業で支給されている「手当」。
中には手当を求人の売りにしているのも見かけます。
手当に対する考え方を今一度見直してみましょう。
パワハラの防止措置は、大企業では2020年6月1日から雇用者側の義務となりました。中小企業でも2022年4月1日より適用されます。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、ハラスメント研修の目的やその必要性について解説します。