社員の異変を早期キャッチアップする。これは人事担当者の重要な仕事のひとつです。その異変は、離職や労務問題の前兆かもしれません。社員が退職を決意する前に、対応策を講じましょう。

社員の離職を防ぐ、あるいはその原因となっている労務問題を解決するのは、人事担当者の大事な仕事です。「Aさんが辞めそうだ」「Bさんの様子が変だ」といった情報(何か事が起こりそうな、どこかに火種がくすぶっている“きな臭さ”から転じて「煙情報」と呼んでいます)は、できるだけ早めにキャッチする必要があります。
退職願が出されてしまったら、引き留めは困難です。ある会社では、事前情報がなく「退職願」が提出される事案を「びっくり退職」と呼んで、人事が最も恥ずべき事態だと肝に銘じています。
理想的な対応策は、「辞めようかどうしようか悩んでいる」という段階で、さりげなく本人と話をすることです。社員から直接相談に来てもらえればそれに越したことはありませんが、「人事部に相談する」のは後戻りできないことだと思っている社員も少なくありません。管理職から「煙情報」を事前にキャッチすることが必要になります。
管理職は、部下を管理監督している立場。「元気がない」「近ごろ凡ミスが多い」「転職活動をしているようだ」「キャリアで悩んでいるようだ」「家庭環境・家族状況などプライベートで悩みがあるようだ」など、社員の異変に早めに気づくものです(なかには気づかない、もしくは気づいても手を打たない管理職もいますが、そういう場合は人事から、または、その上司の上司に相談し注意を促す必要があるでしょう)。
些細なことでも人事担当者に情報を入れてもらえるように、常日頃から管理職との人間関係をよくしておくことが大切です。話しやすさ、気楽さを感じさせる立ち振る舞い、ちょっとした雑談をネタにコミュニケーションをとることなどを心掛けておきましょう。そうすることで「煙情報」が入ってきやすくなります。
そして、辞めそうな社員がいた場合は、退職を決断する前に本人と面談して、その原因を確認しましょう。その社員の上司と一緒に面談するのもよいのですが、退職の原因は「上司との人間関係」というケースも多くあります。上司の同席については、本人の意向を尊重して対応を決めたほうがいいでしょう。
退職の原因は、人によってさまざまです。おもに以下のようなケースが多く、これらが複合していることもあります。
・キャリアアップへの不安・不満
・仕事内容への不満
・仕事量、労働時間の問題(忙しすぎても暇すぎても原因になる)
・職場の人間関係の問題(上司、同僚、部下)
・家族などのプライベートの問題
・収入の問題
・会社の将来性への不安
本人との面談では、事実関係の確認、心配事の本質を探る等を行い、不安・不満を解消できる手段はないかを検討します。本人が「退職するしかない」と思っていたとしても、意外と解決策は「退職」でないことも少なくありません。異動で対応できないかを検討してみることも大事です。本人と話をして原因がわかれば、対応策も見えてきます。
また、管理職のマネジメント不足(管理していない、問題を意識していない)という事態もあり得ます。その情報を上司、そしてその上の上司にフィードバックして対応策を検討していきます。その過程で、その部門の組織的な課題、人間関係の状況なども併せて把握しましょう。
退職の原因として、特に注意しておきたいのは、労務問題につながるケースです。ハラスメント、メンタルヘルス、人間関係のトラブル、あるいは不正行為や倫理上の問題など、労務問題はさまざま。これらは、会社にとっても重大なリスクです。場合によっては、大量離職につながるケースもあります。
ただし、ハラスメントやメンタルヘルスなどの労務問題が発生していそうな場合でも、人事担当者は社員の話を「真に受けて」しまってはなりません。「そういうことがあるかもしれない」として仮説として臨み、事実確認をしなければ、間違った判定をして、間違ったことをしてしまうかもしれません。
また、現場の管理職が不用意に対応してしまうと、それがさらに大問題に発展することがあります。人事労務の専門的な支援が必要です。現場で問題が起きていたら、あるいはそうした気配を感じたら、人事部門にすぐに相談してもらうような関係をつくっておくことが大切です。
ときには、社内だけでは判断できない場合もあります。弁護士、社会保険労務士、産業医等の外部の専門家に相談するなどして、対応策を検討する必要があるでしょう。問題が発生した場合は、自分だけで判断せず、人事部長など上長にすぐに相談してください。対応策のシナリオをつくり、現場と協力して問題に対応します。
労務問題は、それぞれが単独で存在せず、「人間関係」から「勤怠異常」に発展したり、「上司・同僚への不平・不満」が「退職」につながったりするので、分けて考えることはできません。これらに対する対応の判断は、会社のルールを定めた就業規則に基づいて行われます。
この就業規則の基になっているのは、労働基準法をはじめとする労働法規です。人事担当者は、労働法規と就業規則などの各種規定、ハラスメントやメンタルヘルスに関する基礎的な知識はしっかりと身につけておく必要があります。
社員の予期せぬ離職や労務問題を早期にキャッチアップするには、自己申告制度も活用することができます。自己申告制度は、社員のキャリア意向の確認だけでなく、このような現場での人に関わる問題の把握や予防にも有効です。何か起こったとき、起こりそうなとき、過去に自己申告制度で対象者がどのような申告をしていたかという情報は、大変役に立ちます。また、これらの問題を未然に防ぐ情報にもなり得ます。
常日頃から現場の管理職とのコミュニケーションを深める。信頼できる専門家とのネットワークをつくる。自己申告制度も活用する。また、研修や懇親会などの機会も活かして、社員の様子を観察し、「元気がないな」「大丈夫かな」と思う社員がいたら声をかけて話を聞く。このようにして社員の異変を早めにキャッチし、離職を防いでいきましょう。

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人事部門とは会社の将来を決める「人材」に関する部署。
だから、あるべき姿は経営者と同じく長期的な視点で仕事に取り組むことなんです。
人事10年目は経営と現場の橋渡しとして、会社の将来をより良い方向に導いていくことが求められます。
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人事3年目の社員に求められる3つのことを紹介していきます。
1年目は仕事を理解し、2年目はできたところ、できなかったところを洗い出す。
これらを踏まえて臨む3年目には、いったい何が必要なのでしょうか?
部下とのコミュニケーションは、上司にとって普遍的な悩みです。人事評価のフィードバックでも「部下と何を話したらいいかわからない」という声を多く聞きます。そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、その解決策となる支援ツールを紹介します。
人事にとっては社内の情報収集も業務の一環です。
社内の人が集まりそうなところに積極的に顔を出して、
コミュニケーションを重ねなければいけません。
目指すは「話しかけやすい人事」です!
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面倒だからと策定を後回しにしている会社も多いですが、
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労務分野の法律や制度に関する「お勉強」が
人事担当者の第一歩だと勘違いしてしまっている方は少なくありません。
しかし実は、人事担当者には専門的な知識など必要ないのです。
この記事では人事担当者に求められる知識を解説していきます。
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