コラム
専門職制度
人事制度における、専門職制度、つまるところ、通常の等級とは別に、専門職グレードを設けて、「マネジメントライン」と「エキスパートライン」に分ける、複線型人事制度のひとつ。
課長・部長というマネジメントラインではなく、自らの専門性を磨き、その分野の第一人者として、スペシャリティで勝負していくというものだ。
ということについては、実は僕はあまり信じていない。
専門職制度は、基本的には成立しにくいものだと思っている。
もちろん「出世」という概念が、ただ単に、組織マネジメントの大きさだけではない、というのもわからないではない。
また、研究開発型の企業においては、その専門性が勝負であるわけだから、必ずしも課長・部長にならなくても、別に処遇できる仕組みを用意することは大切だ。
それはいい。
だけど、安易な専門職制度創設には疑問を持っている。
その問題としては、
・専門性は陳腐化する。今日の専門能力は、明日には意味のないものになる場合がある。だから、専門性は普遍的なものではないということ。
・マネジメントできない人が専門職に、という考え方になってしまっている例が多いが、そもそも、マネジメントしなくていいなんて仕事があるんだろうか。周囲を巻き込み、人をマネジメントしない仕事は、ほんとうにあるんだろうか。
・どんな世界においても、基本的には「人を育てる」という仕事は必ずある、のではないだろうか。
宮大工の世界でも、ラーメンの世界でも、師匠と弟子というものがある。スタイルは様々だろうが、親方は人を育てている。
・組織責任を負うか負わないか、ということはあると思う。その意味で、等級制度とは別に職位制度(役職)を設ける場合が多いが、だったら、それだけでいいじゃないか。別に専門職制度を設ける必要があるのだろうか。
いずれにしても、給料があがる、というのは「影響力が大きくなる」ということとニアリーイコールだと思うので、その影響力というのは、社内的にも社外的にも、人的影響力が大きくなるということであり、それってつまるところマネジメント(とリーダーシップ)だと思う。
だから、マネジメントが必要でないという人なんかいないわけで、そういう意味において、マネジメントの影響力の大きさで等級を定義することに合理性がある。だから、専門職だって、マネジメントは大切だ。
以上のような理由から、「無期雇用としての正社員」というものに、専門職制度は成立しにくいのではないかと思っている。
繰り返すが、内部に高度の専門性を有する人材を必要とする企業においては有意だと思う。
そうでない場合においては、外部の専門家をネットワークすればいいのではないか。
だから、業務委託(委任・準委任・請負)契約か、有期雇用契約が適しているのではないか。
マネジメントはある意味汎用的であり、他社にいっても通用するスキルになる。しかし専門性は、磨けば磨くほど、汎用性に欠ける場合がある。
その場合、その専門性が陳腐化したり、他のなにかに取って代わられた場合に、行き場所がなくなる、というリスクを持つ。
だから、専門職制度を設けてもいいんだけど、「マネジメントしなくていい」ということは決してありえないと思うわけ。
スペシャリストという生き方は、とても厳しいものだ。自分ひとりでやっていく覚悟が必要だと思う。「自由か死か」というぐらいの覚悟がいる。
だから、正社員という安定性と、スペシャリストという生き方を両立させていくのは、大きな矛盾を抱えていることになるのではないかと思う。
資格をもっていても食っていけないのは、マネジメント(いろいろある、マーケティング、営業、ヒアリング、プレゼンテーション、人的ネットワーク、説得力、計数・利益への志向、人材育成)が十分ではないからだ。
だから、スペシャリストを志向する場合においても、マネジメントを決して忘れてはいけない。
だから、専門職制度を設けるにしても、マネジメントという概念は、そこにしっかりと組み込んでおくべきであり、そうしないと、キャリアを誤ってしまうと思う。
ちょっとくどい? ごめんなさい。