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第21回 ジョブ型の落とし穴! リモート時代の評価方法とは?

リモートワークの浸透によって、日本の雇用制度のあり方が大きく変わろうとしています。「成果」を評価することは、リモートワーク時代におけるマネジメントの方向性として正しいと思います。「成果」は、そこに至る「プロセス」によってもたされますが、リモートワークにおいて「プロセス」が見えにくいとすれば、「成果」を重視せざるを得ない、ということは間違いないでしょう。

成果主義・ジョブ型を偏重することの危険性

リモートワークの浸透によって、日本の雇用制度のあり方が大きく変わろうとしています。中でも最近目立つのが、以下のような論調です。

 

・社員を「時間」で管理するのは難しくなった

・これからは「時間」ではなく、「成果」で評価すべきだ

・だから「ジョブ型」を導入すべきだ

 

富士通、日立、資生堂、KDDIなど、すでに運用を開始したり、今後の導入を宣言している企業もあり、今後さらに増えていくことが予想されます。

「成果」を評価することは、リモートワーク時代におけるマネジメントの方向性として正しいと思います。「成果」は、そこに至る「プロセス」によってもたされますが、リモートワークにおいて「プロセス」が見えにくいとすれば、「成果」を重視せざるを得ない、ということは間違いないでしょう。

評価される側の人は、前回の記事(リンク入れる)でお伝えしたように、自分の「職務(ミッション・役割)」と「成果」を明確に定義し、ジョブ型の導入に備える必要があります。

しかし、評価する側の人、経営者やマネジメント層、人事担当のみなさまには「ちょっと待った!」と申し上げたいです。

成果主義を偏重しすぎることは、危険かもしれません。そもそも「成果を重視=ジョブ型」ではないのではないでしょうか。

 

すべてを捨てる覚悟はありますか?

ジョブ型とは、欧米で浸透している「職務主義型」であり、「仕事」に値段をつける雇用制度です。仕事を「ジョブディスプリクション(職務定義書)」によって定義し、たとえば営業部長なら1000万、人事部長なら800万と、ポストによって年収を定め、誰がその仕事をしても、誰がその職務についても、同じ給与になります。

日本の多くの企業のように、年功や定期昇給で給料が上がるという考え方は一切ありません。ジョブ型は、ポストが空かないと、下の人が上にあがることもありません。

では、どうやって昇進・昇給をするのかというと、以前外資系企業の人事マネージャーに伺った話ですが、「たとえばオセアニア地区の人事部長のポストが空いたとします。そこに立候補するのです。選考を受けて選ばれれば、ポストに応じた年収がもらえます。ポストが空かない限り、その会社で給料が上がることはありません」ということでした。

ジョブ型に対比する雇用制度は、日本で浸透している「メンバーシップ型」です。要は「この会社の所属員としてどんな仕事でもやってくださいね」という制度です。

人事異動を前提としているのがメンバーシップ型ですから、職務を限定してしまうと、ジョブ型の運用は難しくなります。たとえば、営業部長が年収1000万で、人事部長が年収800万といったジョブディスプリクションを定義しても「営業部長を人事部長に異動させたらどうなるの?」といった問題が起こります。

営業部長から人事部長に異動したら、これまで1000万だった年収を800万に下げる。そんなことが可能でしょうか?

本当に欧米型のジョブ型を導入しようとするなら、これまでの日本型の考え方をすべて捨てる必要があります。その覚悟はあるでしょうか?

 

成果主義の失敗、忘れていませんか?

私には、現在の状況はバブル崩壊後の繰り返しのように感じられます。バブル崩壊後も「欧米では当たり前」ということで、ジョブ型や成果主義が脚光を浴びました。

そして、いくつもの企業が導入を試みましたが、多くの会社では成功しませんでした。

日本企業の「人」に対する考え方は、「できるだけ長く働いてくださいね」という発想が根底にあります。成果主義を導入しても、多くの企業では年功序列を捨てることができず、数年後には成果主義をやめ、元に戻す会社が多数ありました。

日本ではメンバーシップ型の志向が強かったからでしょうが、企業に本当にそこまで踏み切る覚悟がなかった、と言えると思います。

そして、戻せばいいというものではありませんでした。その間に、人心は荒れ、社内は混乱しました。

成果主義の導入に失敗した理由はいくつかありますが、ひとつは、当時の成果主義は、極めて短期的な発想だったことです。「今年の成果を上げれば、来年の年俸が一気に上がる」といった仕組みだったため、「お客さんを騙して売ってもいいじゃん」みたいな短絡的な考えが横行し、焼き畑農業みたいな営業をする人が増えました。

また、個人の成果を重視しすぎたため、「チームで頑張ろう」ではなく「手柄は俺のもの」といった個人主義に陥り、スキルや経験が継承されない問題が起こりました。

有名な例でいえば、三井物産です。同社は「人の三井」と言われるほど「人」を強みにして、マニュアル化できないノウハウを伝承する文化がありましたが、上司が部下に仕事を教えなくなることで人が育たなくなり、結局、数年後には元に戻すことになりました。

私は、また当時と同じことが繰り返されるような気がしてなりません。

 

評価する側・される側、双方が考えるべきこと

今の若い世代は「なんで俺と同じ仕事をしてるのに、あのオッサンのほうが給料高いんだよ」「リモートワークもできないくせに」「こんな会社、辞めちまえ」と考えている人も多いでしょう。ジョブ型が支持される可能性は、もちろんあります。

年齢や勤続年数ではなく「職務」に値段をつけて、現在の成果のみで社員を評価し、適切な給与を与えることも、合理的な考え方だと思います。

しかし、年功序列を完全にやめる、給料の高いおじさんは全部落とす、もうこれからは成果しか見ない。

20年前もこのような考えのもとに多くの企業が成果主義を導入しましたが、やってみたらうまくできず、結局もとに戻しました。

これが、この20年間の日本だったのではないでしょうか?

そうした過去も踏まえ、これまで自社が築いてきたことをすべて捨てる覚悟が本当にあるのなら、ジョブ型を推進するのもひとつの手でしょう。

 

しかし、もしそうでないのなら、慎重になって踏み止まる必要があると思います。

成果を重視する雇用制度は、ジョブ型だけではないのです。

大切なのは、それぞれの企業の「考え方」。ジョブ型はひとつの「やり方」にすぎません。「やり方」は「考え方」がしっかりしていて、はじめて機能します。

たとえメンバーシップ型であっても、成果を重視した雇用制度にすることは可能です。

リモートワークに対応することも十分できます。

それは「目標管理」をきちんと機能させることです。

すなわち、社員個々人の「ミッション」と「成果」を明らかにすること、させること。

これはジョブ型であろうが、メンバーシップ型であろうが同じです。

評価される側は、自ら「ミッション」と「成果」を明確にし、上司の承認を得る。上司は、その目標と達成基準でOKなのかを判断し、あとは個々の自己統制に任せる。

私は、これがリモート時代のあるべき働き方とマネジメントの方法だと考えています。ジョブ型であるか否かは、重要な問題ではないのです。

 

「流行りものに飛びつくな」

これは私の人事としての信条です。評価する側のみなさんは、「流行りもの」に飛びつこうとしていないか、くれぐれも慎重に検討してみてください。

バブル崩壊後に何があったのか、今とは何が違うのか。

会社がその方向に舵を切ったときに、働く人はどうするのか。

考えなくてはならないことは、無数にあるはずです。

 

 

次回に続く

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