2024.03.11
東京商工リサーチによると、2021年に希望退職を募った上場企業は80社以上。上場企業の希望・早期退職募集は2019年以降、3年連続で1万人を突破。2021年の募集者数は判明しているだけでも1万5000人を超えています。 コロナ禍によって経営が悪化した企業もありますが、大手企業の多くは黒字経営にもかかわらず希望退職・早期退職という名目の大規模なリストラに踏み切っています。なぜこれほどリストラ増えているのか。いま一度、その背景を理解しておきましょう。
2022年になっても、希望退職・早期退職を募る企業が後を断ちません。富士通が50歳以上の幹部社員から希望退職を募ることを発表し、フジテレビが希望退職、博報堂が早期退職を募るなど、今後もさらに増えていきそうです。
東京商工リサーチによると、2021年に希望退職を募った上場企業は80社以上。上場企業の希望・早期退職募集は2019年以降、3年連続で1万人を突破。2021年の募集者数は判明しているだけでも1万5000人を超えています。
コロナ禍によって経営が悪化した企業もありますが、大手企業の多くは黒字経営にもかかわらず希望退職・早期退職という名目の大規模なリストラに踏み切っています。なぜこれほどリストラ増えているのか。いま一度、その背景を理解しておきましょう。
1つは、中高年の「給与の高さ」です。希望退職・早期退職の対象となっている45歳以上は「バブル世代」と「氷河期世代」にあたり、年功序列の会社であれば、最も給与水準の高い世代です。人数も多く、部下を持たない管理職も少なくありません。
高い給与に見合ったパフォーマンスを上げている人はともかく、そうでない40〜50代には辞めていただいて、会社を若返りさせたい。それが企業の本音でしょう。
もう1つは、「定年延長」問題です。高齢者雇用安定法により、企業は2025年には65歳までの希望した全員を再雇用しなければいけなくなります。さらには70歳までの就業機会の確保も努力義務になります。
この世代に、あと20年も30年も会社にいてもらうよりは、1000万、2000万を積んでも辞めてほしい。だから、希望退職・早期退職を募っているのです。
中高年の給与と定年延長の問題は、大企業や上場企業に限った話ではありません。東京商工リサーチによると、2021年の「コロナ破綻」は2540件(負債1000万円以上)。倒産に巻き込まれた従業員は2万5059人に上っています。2018年頃から始まった黒字リストラに加え、この2年は赤字リストラも増えています。
今はまだ希望退職や早期退職を募っていなくても、今後はさらに多くの会社で実施されるかもしれません。年功序列の企業の多くは「言われたことを言われた通りにやればいい」と思っている人が偉くなっています。会社の将来に危機が迫っていても、なかなか意識改革できませんが、経営者が変われば話は別です。トップが「意識改革を早くやれ!」と号令を出したら、年功序列の会社ほど早くスイッチが入ります。
社員をA・B・Cなどにランクに分け、評価が高いAランクの社員には希望退職・早期退職の募集に応募しないように説得し、BランクやCランクの社員には「別の道を考えたほうがよろしいんじゃないでしょうか?」と退職を促してきます。
本来であれば、給与に見合った働きをしない社員がいるなら、そのことを本人に伝え、もしくは給与を下げて、リストラする前に気づきを与えるべきです。何も言わず、何の前触れもなく、いきなり「お辞めになりませんか?」と伝えるのは、むごい話です。きちんと指摘さえすれば、意識を変えられる中高年だって多くいるのです。
しかし、残念ながらそうした指摘をしてくれる会社はあまり多くありません。辞めてもらったほうが話が早いので、容赦なくリストラを実行するでしょう。
希望退職や早期退職を促された場合、考えられる選択肢は4つあります。
①退職を拒否して、評価や給与が下がっても定年まで耐え忍ぶ
②退職を拒否して、給与に見合ったパフォーマンスを発揮し、自身の評価を変える
③退職を拒否して、転職や独立・起業の準備をする
④退職金をもらい、転職や独立・起業をして第二の人生を歩む
①は、つらいです。50代後半の方なら定年まであと数年ですから何とか耐えられるかもしれませんが、50代前半、もしくは40代の方には厳しいでしょう。
となると、取るべき選択肢は②〜④です。②を選ぶなら、まずは上司や周囲の人々に自分の何がダメだったのかを確かめ、改めるべきことは改め、行動として示す。「あの人、変わったよね」「良くなったよね」と言われるようにパフォーマンスを上げ、給与分の仕事をすれば、何の問題もありません。
③や④を選ぶなら、自分にできることは何か、他社に買ってもらえるスキルは何か、自分のキャリアを振り返って棚卸しをしておくことが重要です。
私が人事部長をしていた頃、大企業で総務をやっていた方が希望退職に応募し転職の面接に来たことがありました。上場企業でしたから「株主総会の経験はありますか」と聞くと「ないです」。「事務品の購買経験はありますか」と聞くと「ないです」。「オフィスレイアウトの経験は?」と聞いても「ないです」。「では何をされていたんですか」と尋ねてみると、「〇〇グループの会議体の事務局をやっていました」と。
申し訳ないですが、それは世の中ではまったく通用しない力です。他社で働こうと思うのなら、会議体のファシリテートをしていた経験を外でも通用するスキルにしておかなくてはいけません。会議体を収拾するには、何か特別な力が必要なのか。会議を効率よく運営するには、気持ち良く進行させるのは何が必要なのか。そういうことを体系化して、「会議のプロ」として売れるかどうかを見極めておくのです。
それがなくて「年収700万円ください」と言われても無理です。300万円でも買ってくれる会社はないでしょう。その方には「まずは他社の仕事もできるかどうか、自分のスキルを棚卸ししてみてください」とお伝えしました。
これはどんな職種でも一緒です。自分がやってきた仕事は、他社でも通用するのか、どこでも活かせるように体系化できているのか。こうした観点で自分を見つめ直しておかないと転職は難しいです。たとえ採用されても、成功する確率はかなり低いです。
転職経験がある人は「俺って他社では通用しないんだ」「意外とイケてないんだ」という経験を一回していますから、その難しさを理解されていることでしょう。転職経験がない人は、このことについて特に理解しておかなければいけません。
年収800万円だったら、400万円の若手の倍のパフォーマンスを出しているのか。年収800万円で他社に買ってもらうためには何が必要なのか。
②〜④の選択肢で必要となるものは、実は一緒です。年収800万円の人が、年収800万円分の仕事をしていれば、誰も文句は言いません。希望退職を促したりもしません。他社に対しても、年収800万円で自分を売ることができます。
自分のパフォーマンスは、現在の給与に見合っているのか。それをしっかり考えることが、リストラ時代を生き抜くためのいちばんの戦略です。自分は何ができるのか、売れるのは何か、人に対して価値が提供できるものは何か、人に喜んでもらえるものは何か。今すぐにでも棚卸しを始めて、来たるべきときに備えてください。
次回につづく
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
ここ数年、「50代についての意見を聞かせてください」というご依頼が増えてきました。当連載もそうですし、『人事の超プロが教える 会社員 50歳からの生き残り戦略』(PHPビジネス新書)という本も出させていただきました。やはり中高年を対象とした黒字リストラや早期退職・希望退職を募る企業が増えているからでしょう。今回も「人事は中高年を実はこう見ている」というリクエストをいただきました。私は人事部時代、中高年の社員をどう見ていたのか。今回はこうしたテーマで、率直な意見や感想をお伝えしたいと思います。
新連載「人事の超プロが明かす、リストラ時代の生き残り戦略」 2021年4月1日、高年齢者雇用安定法が改正されました。これによって「70歳までの就業機会の確保」が企業の努力義務になりました。 少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」の一部が改正され、令和3年4月1日から施行されています。
40代・50代になって、「専門職を極めていくか」「社内マネジメントに積極的に関わるか」といった今後の選択について悩んでいる人は多いのではないでしょうか?この二者択一は、リストラに関わる非常に重要な問題です。人事もまさにそこを見ています。40〜50代で何らかの専門性を持っていても、同程度の専門性を持っている20〜30代の人材がいるなら、会社はそちらを選びます。
50代のビジネスパーソンの皆さんに質問します。通勤時間は何をされていますか?まさかゲームをしてないですよね…。なぜこんな質問をしたのかといいますと、管理職研修をしていると、伝統的な会社でも上場企業でも新聞を読んでない人が多いのです。新聞、特に日経はビジネスパーソンにとって読んでいるのが当たり前のはずですが、読んでいない人がほとんど。ゲームを楽しむのもいいですが、私たちがやっているのはビジネスです。
2021年は、黒字リストラが2020年の1.7倍に増えました。日本たばこ産業、KNT-CTホールディングス、LIXIL、オリンパス、アステラス製薬、藤田観光、博報堂などの上場企業を中心に希望退職・早期退職が実施され、1万人以上が退職に至っています。今後もさらに増えていくかもしれません。
中高年のリストラが止まりません。東京商工リサーチ によると、2021年の上場企業における早期・希望退職の募集人数は約1万6000人。前年の2020年は約1万9000人でした。2年連続で1万5000人を超えたのは、ITバブル崩壊後の2001〜2003年以来だといいます。リストラを実施している企業は、赤字とは限らず、好業績でも早期・希望退職を募っているため、「明日は我が身」と不安になっている方も多いでしょう。では、会社での自分のポジションが、どうであったらヤバイ、どうであったらセーフなのでしょうか。今回は、その目安について、お伝えしたいと思います。
私たち50代がリストラ時代を生き抜くために避けて通れないポイントは、若い世代から「老害」と思われないことです。 「50代はまだ老人じゃない」と思われるかもしれませんが、年齢は関係ありません。老害とは、自分より若い世代に迷惑をかけること。 30代であっても、20代に迷惑をかけていれば「老害」と呼ばれます。
「ベテランはリストラの対象になりませんか?」ある人からそう聞かれました。今回は、この質問に答えてみたいと思います。ベテランとは、基本的には褒め言葉です。「あの人、ベテランだよね」「さすがだよね」と言われるのは、技術・技能に長けていて、知識も豊富で信頼が置ける人ですよね。