年功序列の処方箋としてブームになった成果主義やジョブ型雇用で、日本企業は本当に「脱・年功序列」を実現できるのでしょうか? 多くの企業はポリシーを持たずに、小手先の手法を取り入れて痛手を負っています。手法の導入だけに走った企業はどうなってしまうのか、改めて考えてみましょう。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、年功序列を脱するための方法についてお伝えします。
日本企業の「脱・年功序列」は、今に始まったことではありません。1980年代の後半、日本は空前のバブル景気に沸きましたが、90年代に入り、バブルは弾けます。多くの日本企業は年功序列を維持することができなくなくなり、欧米型の成果主義が一大ブームになりました。
ところが「脱・年功序列」を目指して導入されたはずの成果主義は、様々な問題を引き起こします。成果を出すために、社員がわざと簡単な目標を設定する。目先の成果だけに注力する。「自分さえ成果を出せばよい」というチームワークを阻害する考え方がはびこる。上司が部下を育てなくなり、組織が弱体化する……。そうした数々の問題点が浮き彫りとなり、結果的にはほとんどの企業が頓挫しました。
有名な例は、富士通の成果主義の失敗です。日本を代表するリーディングカンパニーだった富士通は1993年に成果主義を導入しましたが、その結果、同社はボロボロになってしまいます。
なぜ富士通の成果主義は失敗してしまったのか。日本経済新聞の連載記事「富士通、早すぎた成果主義 敗北を抱きしめて」では、歴代の人事担当者たちが次のように振り返っていました。
・成果主義を導入しても、実態は年功序列のままだった
・評価のフィードバックがなかった
・成果を上げなくても降格がなかった
・職務内容・範囲が不明確だった
・管理職の9割は成果を問わず自動的に「A」以上の評価
特に問題だったのは、一般社員とは異なり、管理職の9割近くは常にA以上の評価を受けていたことです。降格制度もないため、管理職は成果を出さなくても給与が下がらず、自動的に高評価を得られる。頑張って成果を出しても正当に評価されないと知って若手はやる気を失ってしまう。こうした悪循環は、まさに年功序列そのものです。要は「やり方」を変えただけで、「考え方」は何も変わっていなかったのです。
成果主義を導入すれば、「脱・年功序列」は実現できるのか? できます。ただし、本当に「成果主義をやるんだ」と覚悟を決め、「やり方」だけでなく、「考え方」も変え、それを徹底できれば、です。
成果主義そのものは間違っていません。合理的な考え方です。ただ、「成果」は運や環境によっても大きく左右されます。本当に成果主義をやるのなら、「成果が出なかった場合はどうするのか?」も考えておくことが重要です。成果が上がらなかったら、管理職の給与も下げるのか。赤字だったら、ボーナスは出さないのか。本当に「年功」ではなく、「成果」だけで評価できるのかーー。
富士通をはじめ、多くの企業が成果主義の導入に頓挫したのは、成果が出なかった場合のことを想定した運用ができなかったからです。こうした状況は30年が過ぎた現在でも、ほとんど変わっていません。
「年功序列をやめたい」「人事制度を変えたい」「成果で評価したい」といったご相談をいただき、「では、成果を出せなかった人のお給料を下げるんですか?」「成果が上がらなかったときは、どうするんですか?」と尋ねても、誰も答えられない、何も答えられない、そういうケースがほとんどです。
ジョブ型雇用も同じです。ジョブ型とは、仕事の価値や重さなど「職務」で給与を決める制度です。ジョブディスプリクションに記載された職務を全うできなかったら、その人の給与を下げることができるのか。その職務から外すことはできるのか。できるのなら、「脱・年功序列」を実現できるでしょう。
結局、成果主義にしてもジョブ型にしても、「やり方」と「考え方」を徹底できるかどうかなのです。ただ、これは言うほど簡単ではありません。制度だけを変えても、運用の段階で必ず横槍が入ってきます。
よくあるのは、「成果が出なかったら給与を下げましょう」と決めても、「あいつの家、今度息子が高校生だよな」「48歳は結構金がかかるからなぁ」と発言する人が出てきて、成果が出なくても給与はそのままといったケースです。それは「やり方」は入れたけど、「考え方」は変わってない、ということですよね。
パフォーマンスが上がっていなくても、「しのびない」と言い出す人が出てきて評価はそのまま。社長自身が「あの人は会社に貢献してくれたからなぁ」などと言ってしまう。そんな事例が本当によくあります。
人事や経営がそれに対して断固「NO」と言えるのか。たとえ社長に対しても「過去の貢献は関係ないからですから。成果で評価するって決めましたよね」と説得できるのか。ここが極めて重要なポイントです。
また、評価会議でよく聞くのは、「上げたら下げられない。ちょっと待とうぜ」といった発言です。給与にしても、等級にしても、一度上げたら下げられない。だから優秀な若手がいても、給与はそのまま、等級もそのまま。こうした事例も本当に多いのですが、そんなことを言っているうちに若手はいなくなります。
上げるべき人は上げる、下げるべき人は下げる。これができなければ「脱・年功序列」は実現しません。業績が同じで、誰かの給与を上げるなら、誰かの給与を下げなければいけません。
日本は少子高齢化に歯止めがかからず、2008年をピークに人口減少時代が始まっています。年功序列を続けていたら、中高年の人件費は高騰し続け、優秀な若手ほど会社を去っていきます。もはや待ったなしです。
現在のまま、「年功」「勤続」「年齢」に対して給与を払い続けるのか。今後は「成果」「行動」「職務」などで評価して、上げるべき人は上げ、下げるべき人は下げるのか。
「やり方」を考える前に、まずは「考え方」をしっかりさせましょう。何に対して評価するのか、何に対して給与を払うのか。改めて自社の人事ポリシーを見直してみてください。人事ポリシーとは、「会社の社員に対する考え方」です。人事ポリシーを様々な角度から検討し、数年先まで見据えて検証するのです。
これまで通り「年功」「勤続」「年齢」に対して給与を払い続けていくのなら、それもひとつの考え方です。業績が右肩上がりだったら、年功序列も維持できるかもしれません。成果主義は導入するけど、終身雇用は続ける。それもひとつの考え方です。給与が下がっても会社に残りたい人も多くいるでしょう。 “Up or Out”(昇進するか、辞めるか)、そういう考え方もあるでしょう。人事に絶対的な正解はありません。
ただし、年功序列を廃止し「成果」「行動」「職務」などで評価すると決めたなら、その考え方を貫き、粛々と実行していくことが重要です。喫緊の課題だからといって、小手先だけ変えてもうまくいきません。
人事制度の改革が成功している企業は、「息子が高校生」とか「しのびない」といった横槍が入っても、社長が自ら「いや、そう決めたじゃないか」と幹部や管理職を諫めています。人事担当者も「成果で評価するって決めましたよね」と反対勢力を説得しています。
トップや人事がどれくらい覚悟を決めることができるのか。本気になれるのか。
「脱・年功序列」は、そこにかかっています。
上げるべき人は上げる。下げるべき人は下げる。あなたの会社では、これを徹底できますか?
制度を変える前に、ぜひ真剣に検討してみてください。
つづく
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
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テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
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プロの人事力
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本来、喜ぶべきボーナスですが、
予想額を下回ると却って社員の不満になります。
社員に納得してもらうためには評価基準の開示と、
それをしっかりと反映させることが重要になります。
会社は利益を追求する組織ですが、社員に求めるものはそれだけではありません。
会社における「困った人」を出さないために、人事は社員を評価する制度をしっかりと定めましょう。
日本企業はなぜ年功序列から脱却しなければいけないのでしょうか? 90年代のバブル崩壊からながらく脱年功序列、脱日本型雇用が掲げてられていましたが、結局ほとんどの企業は年功序列を脱し切れていません。企業を破滅に導く「年功序列」の弊害を改めて考えてみましょう。 総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、年功序列の現状と課題についてお伝えします。
他の職種と同じように、人事担当者にも勉強は必要です。
とはいうものの、きちんと勉強している人事担当者が少数派というのもまた事実。
まずは通勤などの隙間時間でいいので、勉強習慣を始めてみませんか?