2021.05.18
新卒社員の「配属ガチャ」による早期離職が話題になっています。本人の希望を叶える人員配置は、人事担当者の重要な役割です。強い企業は、どのように人事異動を行っているのか、そもそも人事異動の目的とは何なのか。人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、企業における人材育成という観点から深掘りします。
「配属ガチャ」に不満を持つ新卒社員の離職が相次いでいるといいます。配属ガチャとは、入社後の配属先がどこになるかわからないことをソーシャルゲームのガチャにたとえたもの。希望する部署や上司のもとに配属されたら「アタリ」、そうでなければ「ハズレ」。入社後の人生を、ガチャのように運によって決められてしまうことへの皮肉も込められているようです。
私も配属ガチャで人事部門に配属され、今に至っています。入社時の配属先によって人生が決まってしまう面は、たしかにあるでしょう。「ハズレ」を引いた新入社員が早期退職してしまう気持ちは、理解できないことではありません。とはいえ、企業には人事異動があります。異動には「左遷」というネガティブなイメージもありますが、決してそれだけではありません。
今後、日本企業の多くが本当に「ジョブ型雇用」に移行していくのなら、人事異動の概念は非常に狭まっていくでしょう。希望しない職種、業務内容がまったく異なる部署に異動することは少なくなり、ある専門性の中でステップアップしていくという形になるはずです。
しかし、終身雇用でメンバーシップ型だった日本企業が、急に「完全なジョブ型」に切り替えるのはまず無理です。欧米式のジョブ型を日本企業が導入したら、さまざまな問題が予想されます。そのジョブを遂行できない人をどうするのか。そのジョブが会社で不要になったらどうするのか。人が足りない部署があっても、人事異動で補充することはできないのか。
そう考えると、おそらく今後も人事異動はなくなりません。だからこそ人事担当者は、人事異動について改めて考え、その目的や意味を新卒社員にもアナウンスしていく必要があります。
強い企業が行う人事異動の特徴、そして、そもそもの人事異動の目的は、「適材適所」です。人事異動には、大きく分けると2種類あります。ひとつは、キャリアアップや人材育成、社員を成長させるための異動。コア人材を育てるために、いろいろな経験をさせること。もうひとつは、配属された部署で成果を出せない人に、他の部署で頑張れないかとチャンスを与える異動です。
それを定期的にやっているのが、「ジョブローテーション」と呼ばれるものです。優秀な人を異動させることも、そうでない人を異動させることも同時にやっているので、同じに見えてしまうわけですが、今の部署ではダメだった人が他に部署に行って活躍することもありますし、今の部署では活躍している人が、他の部署に行ったら活躍できなくなることもあります。
いずれにしても、人を育てるのか、あるいはもっとできる場所があるんじゃないかと模索していくことが、人事異動の目的です。強い企業、人事が優秀な企業では「自己申告制度」を取り入れ、本人が何をやりたいのかもしっかりと見ています。そして、その願いを叶えるために働きかけるのが、人事担当者の重要な役割です。
ただ、これは簡単ではありません。本人が「異動したい」と希望を出しても、優秀な人材は現場が手放しません。上司がガッチリと握っていて、交渉してもたいてい断られます。現場が手放さない人をいかにして引っぺがすか、上司や組織にどのように新しい視点を与えるか。そこに、人事の力量が問われてきます。
人事異動は新年度の組織変更時に行われることが多いので、3月決算なら4月に大きな異動が行われることになります。私は人事部時代、11月頃から各現場を回って「異動させたい人材はいますか?」「本人が希望した場合、異動は可能ですか?」と、まず上司に聞いていました。
「こいつのために異動させてやったほうがいいかな」という上司もいれば、「あいつがいないとウチは成り立たない」という上司もいます。併せて、自己申告制度で本人の意向も確認し、2つの情報をつきあわせて異動案をつくりました。
その異動案をもって、役員や本部長のところに行き、「この人が異動したいと言っていますが、どうしましょうか?」と調整し、本人のために異動が不可欠だと感じたときには「いい加減、ここを出してあげないと辞めますよ」と脅したりもしていました。
ただし、最終的に決めるのは現場です。それでも出したくないという上司には「今年はわかりました。でも、来年はよろしくお願いします」と伝えていました。
このように暗躍(?)するのが人事の重要な役割ですが、それが出来ている人事担当者はあまり多くないようです。本人のために異動させたほうがいいとわかっていても、現場が人事権を持っていて動かせない。そのため10年同じ仕事に塩漬けしている。そんな事例もよく聞きます。異動・配置は、人事業務の中でも特に調整が難しいため、諦めている担当者もいっぱいいます。
ですが、そこで説得できないのは、人事の力のなさです。本人のため、組織のために、異動を希望する社員の長期的なキャリアデザインをしっかりと描いて、現場や役員も動かす力を持たなくてはいけません。
優秀な人材の異動、不活性な人材を活性化させための異動、組織全体を見据えた戦略的な異動など、人事異動にはさまざまな目的や意味がありますが、本人の希望を考慮したうえでの異動は、特に大切です。やはり、やりたい仕事をやってもらうのが一番ですから。
私は100人を人事異動させるとしたら、20人から30人くらいは本人の希望を通していました。それによって「あ、会社はちゃんと見てくれているんだ」という会社への信頼にもつながります。全員の希望は叶えられませんが、可能な限り実現していく。そういう文化を築いていくことが、「配置ガチャ」による新入社員の早期離職をなくすことにもなるはずです。
誰をどこに配置するかを戦略的に考えて、個別の人事まで調整して、働きかけて、思いを持ってやっていく。それこそが本当の人事です。人事担当者のみなさんには、異動を希望する社員は、本人とも話しながら、できる限り、希望を叶えてあげていってほしいなと思います。
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人事制度の改革には反対意見がつきもの。
私たち人事はその反対意見に対して
どのように対処していけばいいのでしょうか?
今回は人事制度改革を行うにあたり、
意識しておくべきことをご紹介いたします。
人事評価においては、上司から部下へのフィードバックが重要です。しかしフィードバックをしない、あるいは適切なアドバイスをしない管理職も少なくありません。そこで今回は、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、フィードバックの目的について解説します。
JBpressにてビジネスパーソン向けのWebコラムを12月11日(水)よりスタートいたしました。
経営陣から下りてくる人事施策が果たして本当に人事ポリシーに則っているのか?
それを判断するのは人事の役目です。
そのために必要な「人事の人事ポリシー」とは?
会社は利益を追求する組織ですが、社員に求めるものはそれだけではありません。
会社における「困った人」を出さないために、人事は社員を評価する制度をしっかりと定めましょう。
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今回は社員とどのように向き合っていけばいいのか、フォーノーツ代表の西尾がお話しします。