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第14回 1on1が失敗に終わる「たった1つの致命的な理由」

1on1ミーティング(以下1on1)は、社員の成長につながる人事施策の1つです。若手の離職防止の効果も高いため […]

1on1ミーティング(以下1on1)は、社員の成長につながる人事施策の1つです。若手の離職防止の効果も高いため、多くの企業が導入しています。しかし1on1によって、社員の信頼を失うケースもあります。1 on 1が失敗してしまうのは、どのような場合なのでしょうか。その原因を解説します。

 

社員の異動希望、将来のキャリア意向、会社への不満などを把握する

1on1とは、短いサイクルで定常的に実施する、上司と部下が1対1で行う対話です。近年は多くの企業で導入され、特に「忙しい会社」ほど1on1を大事にしているようです。なぜでしょうか?

それは、1on1をやらないと若手が辞めてしまうからです。昨今は、どの業界も人手不足。若手層の不足は特に深刻です。若くて優秀な人材は、他社も喉から手が出るほど欲しがっているはずです。適切なフォローをしなければ、簡単に引き抜かれてしまうでしょう。

若手をつなぎ止めるためには、「この会社にいれば成長できる」「自分のやりたいことが実現できる」と思ってもらえるよう、そのための支援やアドバイスを惜しまず行うことが必要です。退職につながる問題や不安、悩みなどにも適切に対応していかなくてはなりません。

1on1は、社員の異動希望や、将来のキャリア意向、会社への不満などを聞くためのミーティングです。対話にかける時間は、おおむね30分〜1時間程度。週に1回、最低でも月に1回は実施するのが望ましいとされています。若手の定着率を高め、社員の離職率を下げるためにも、実行すべき有益な施策といえるでしょう。

あるIT系メガベンチャーの役員は「週に1回、1時間ずつ、8人の直属の部下に1on1を実施している。これで1日が潰れるが、これ以上に大切な業務はないと思う」と、おっしゃっていました。

管理職にとって、人を育てることは重要な職務の1つ。1on1は、人材育成においても有効に機能するでしょう。企業として、人事部門として、社員の意向を確認していくことも重要です。社員の意向をヒアリングできる場としても、1on1はとても貴重な機会といえます。

 

「面談する意味なんてないじゃないですか」

しかし、1on1が失敗に終わり、かえって社員の信頼を失ってしまうケースもあります。その致命的な理由とは、何なのでしょうか、たとえば、こんな事例があります。

ある会社で、中途入社の人事部長が「社員全員の話を聞く」と宣言して1on1を実施しました。その取り組み自体は悪いことではなかったのですが、面談を受けた社員は「人事部に行きたいと申し出たのに“希望が叶うとは限らないよ”の一言で済まされてしまった。だったら面談の必要ないじゃないですか」と憤っていたといいます(そして、実際に叶わなかったそうです)。

これは1on1が失敗する典型的な例といえるでしょう。1on1に限らず、面談などで社員に話を聞く際には「その後どうするのか」をしっかり想定しておかないと、かえって信頼を失います。

会社として社員の意向を聞く仕組みとして「自己申告制度」があります。これは企業の約8割が導入しているといわれる、社員の異動希望などを聞くための人事施策です。

しかし、これも使い方次第。自己申告制度があっても、誰ひとり希望部署への異動が叶わなかったら、「だったら申告させるなよ」「何を言っても無駄」という空気が蔓延し、会社への不信感を高めてしまいます。1on1でも自己申告制でも重要なのは、社員の意向を聞いたら必ず実現させること。

当然のことながら、異動希望の申告があっても、全員の希望を叶えることはできないでしょう。しかし何割かの社員が「自己申告したら本当に実現しちゃった!」となれば、社内の噂になり、「何を言っても無駄」という空気は一変します。

もちろん人事異動は簡単ではありません。優秀な人ほど所属部署からの抵抗もあります。それを異動させたら人事部が恨まれます。それでも歯を食いしばってでも、たとえ社内の誰かと喧嘩することになったとしても、異動希望を実現させていくことが、本人の成長や会社の発展につながるのです。

人事異動は、短期的に見ればパフォーマンスが下がる場合もありますが、長期的に見れば、社員や会社に大きな成長をもたらす可能性が高いです。1on1や自己申告制度で異動希望があったら、その何割かは必ず実現させる。これをルール化することによって、人事異動も実現しやすくなるはずです。

 

企業内の「世論」を前向きに変えていく

1on1の導入を「管理職の負荷を高めてはいけない」と躊躇している会社もあります。そういう場合は、管理職の役割を見直す必要があるのではないでしょうか。

管理職は「人を育てること」が重要な職務のはずです。「部下と定期的に面談することは管理職の負荷を高める」では、それこそ本末転倒。「管理職に何を求めているんですか?」ということになります。

企業のキャリアステップが明確に示されていれば、1on1の場面で上司がメンバーのキャリア志向を把握することもできます。有効なアドバイスができるかもしれません。評価制度の評価項目や目標が明確ならば、1on1で都度その進捗を確認していくことで日常的な育成につながります。

1on1は、若手の定着率を高めるためにも有効な施策です。管理職に「何を求めているのか」を今一度議論し、その職務を定義し直してみてください。その上で「忙しくて面談なんてしていられない」という管理職には外れてもらう。そんな強い対応も必要になるのではないでしょうか。

人事異動だけでなく、企画や事業案などが「何を言っても実現しない」となったら「考えるだけ無駄」と思われてしまい、社員のモチベーションは下がり、成長もしなくなり、会社は停滞していきます。

そんな事態は避けなくてはいけません。経営者や人事、そして各管理職が、社員の意見を聞いたら少しでも実現するよう努力し、その事例が重なっていくことによって、「企業内の世論」を前向きに変えていくことができるはずです。

「この会社は、社員の意見をちゃんと聞いてくれる」
「ここにいれば、自分のやりたいことが実現できる」

社内でこのような世論が形成されれば、若手にとって希望になります。会社への信頼感にもつながり、社員が働く強いモチベーションになります。社員の話を聞いたら、一部は必ず実現させること。これを前提にして、1on1も自己申告制度も、より有効に機能させていきましょう。

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