2024.10.16
MBO(目標管理制度)は、8割の企業が導入している人材マネジメント手法です。しかし「時代遅れ」と指摘されること […]
MBO(目標管理制度)は、8割の企業が導入している人材マネジメント手法です。しかし「時代遅れ」と指摘されることも多く、弊社のアンケート調査においても失敗した人事施策の第1位になっていました。なぜMBOは、上手くいかないのでしょうか。原因は2つ考えられます。
私たちの会社、フォー・ノーツ株式会社では、2023年に「人事制度・人事施策に関する実態調査」を行いました。このアンケートにおいて「あなたの会社でこれまで失敗した人事制度や実施した人事施策について、うまくいっていない、もしくは失敗したものがあれば教えてください」という設問がありました。次のグラフが、その結果です。
経営者や人事業務に携わる社員475名を対象にアンケート調査をした結果、「失敗したことのある人事制度」の第1位は「目標管理制度」(26.5%)でした。2位の「テレワーク・在宅勤務制度」(20.6%)とは5%以上の差があり、ぶっちぎりのトップといっていいでしょう。
目標管理制度(Management by Objectives=以下MBO)は、1954 年に経営学者ピーター・F・ドラッカーが著書『現代の経営』の中で紹介したマネジメント手法です。「目標と自己統制によるマネジメント」の意味で、命令や強制ではなく、自主性や自己統制に基づいて目標を達成していく仕組みです。
MBOは、セルフコントロール(社員が自ら目標を定め、そこに向けて自身でプロセスを管理していく)によって人材を管理する代表的な人事施策の1つとして知られています。この仕組みや、MBOから派生したBSC(バランスト・スコアカード)やOKR(オブジェクティブス・アンド・キーリザルツ)といった業績管理手法や評価手法を導入している企業は数多くあります。
日本では約8割の企業がMBOを導入していると言われていますが、上記の調査結果のように運用がうまくいっている会社はあまり多くありません。フリーコメントでも「目標管理制度に理解はできても、自分の目標を立てる事自体のスキルがなかなか身につかず、また、目標の数値化にも馴染まない職種が多く、機能しなかった」といった意見を99人もの経営者が述べていました。
私たちが人事制度のコンサルティングを行い、制度導入後に最も苦労することの1つも、このMBOの運用です。なぜMBOは失敗に終わるケースが多いのでしょうか?
MBOが失敗してしまう理由は、大きく2つ考えられます。1つは、「目標が上からドーンと降りてきて、社員が自ら考えたものになっていないこと」。
MBOは本来、社員が自分で自分をマネジメントする「自己統制(セルフコントロール)」をベースに考えられた仕組みです。社員に目標を考えさせず、上から落としていては、そもそもMBOではないのです。また、自分で自分をマネジメントする、社員の自主性も育むこともできません。
アメリカの心理・経営学者ダグラス・マクレガーによって提唱された「XY理論」によると、人間の就業観や経営管理の方法は「X理論(本質論)と「Y理論(性善説)」の2種類に分類されます。
X理論(本質論)とは、「そもそも人間は仕事をするのが嫌い」であり、「企業の目標達成のためには、統制・命令・処罰による脅しが必要である」という考え方です。「人は金のために動くもの」であり、「普通の人間は、命令されるのが好きで、責任を回避することや安全を望んでいる」としています。
一方、Y理論(性善説)とは、「仕事で心身を使うのは、娯楽や休息と同じように自然なこと」「普通の人間は、生来、仕事が嫌いというわけではない」「人は自らの委ねた目的に役立つためには、自ら命令し、自ら統制するものだ」「最も重要な本質は、自我や自己実現の欲求の満足」という考え方です。
MBOは「人間は仕事が好きであり、自ら命令し、自ら統制するもの」という「Y理論(性善説)」を重視している会社でこそ効果を発揮する仕組みです。人間は仕事をするのが嫌い、目標達成のためには統制・命令・処罰が必要。そのように考える「X理論」の企業が導入しても、会社の「人」に対する考え方と矛盾が生じるため、そもそも成り立たないのです。
「XY理論」は、人材管理だけでなく人材採用にも大きく関わってきます。「X理論」に立脚するなら、統制・命令に対して忠実に業務を遂行できる「協調性」を重視した人材採用をすべきです。しかし「Y理論」に立脚するなら、自ら委ねた目的のためなら、自らに命令し、自ら統制できる人、自我や自己実現の欲求の満足を求めている人、つまり「主体性」を重視した人材採用をすべきです。
「XY理論」については、前回の記事<人間は「仕事が好き」だと思いますか?>でも詳しく紹介しています。MBOの運用がうまくいっていないのでしたら、自社は「Y理論(性善説)」に立脚した考え方なのか、主体性を重視した採用を行なっているのか、根本から見直してみてください。
MBOが失敗に終わりがちな、もう1つの理由は、「目標の達成基準が明確でない」ということです。MBOは、組織目標に基づく個々人の目標を、社員が自ら設定することになります。目標が漠然としていたら、達成したのかしないのか、客観的な判断が下せません。
さまざまな企業の目標設定会議に参加させていただいていると、「経費生産のスケジュールを周知徹底する」「決算仕分けのミスを極力なくすよう努力する」「新会計システムの導入を着実に実行する」といった目標をよく見かけます。
徹底する。努力する。着実に。こうした目標では、徹底したのか、努力したのか、着実だったのか、達成基準が曖昧です。達成できたのか、できなかったのか主観的な判断しかできません。MBOの肝は、具体的かつ客観的に判断できる目標設定をすること。「売上を1・5倍にする」「4月から新規事業をスタートさせる」など、目標は到達点を明確にしましょう。
また、プロセスの目標も設定することも有効です。「3ヶ月以内に取引先を5社増やす」「12月末までに新規事業案を10案出す」など、途中経過の目標があれば、社員がその都度達成感を得やすく、上司も褒めやすくなります。個々のモチベーションが上がり、目標を達成しやすくなるでしょう。
目標設定や達成基準づくりは、非常に根気のいる仕事です。一度や二度の運用をしただけでは、その目標や達成基準が適正なのかどうかもわかりません。何度も繰り返し運用を続けることによって、MBOは機能し、成果を上げることができるようになるのです。
MBOは「時代遅れ」と言われることもありますが、現在でも十分に効果を発揮する優れた制度です。失敗する企業が多いのも事実ですが、すべての会社がそうではありません。
私たちのクライアントには、根気強く運用した結果、飛躍的に業績を伸ばした会社も少なくありません。上司が目標を落としていないか。人に対する考え方は「性善説」になっているか。目標の達成基準は明確か。改めて確認して、運用の仕方を見直してみてはいかがでしょうか。
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