2021.10.08
人事異動は、多い人と少ない人がいます。また、多い人には2つのタイプがあります。どちらにしても人事担当者は戦略的に人事異動を行うことが重要です。今回は「人事異動シリーズ」第1回。『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、人事異動に関する基本的な心得を紹介します。

「社員の中には、人事異動をほとんどしない人がいます。なぜそのような人がいるのでしょうか? その逆でしょっちゅう人事異動する人もいます。出世するには、どっちが良いのでしょうか?」
最近このようなご質問を受けることがあります。人事異動の多い人には、大きく2つのタイプがあります。1つは、コア人材を育成するための異動。もう1つは、行き場のない人の復活や再生のための異動です。
コア人材とは、新たな事業を創造したり、これまでの事業を変革するなど、組織を通じて新たな価値を生み出す社員。いわゆる幹部候補ですね。コア人材は、将来のために社内のことをよく知っておく必要があります。いかなるマーケットで戦い、どのような仕組み・オペレーションで仕事が回っているのか、どのような人材が社内にいるのか。それらを学んでいくために、さまざまな部署や職種を経験してもらいます。
一方、行き場のない人とは、「うちの部署だとしんどいから、どこか他にないかな」と上司から相談され、人事がなんとか異動先を見つける社員です。異動できても「やっぱり無理だよ」と、その部署の上司からも相談されて、異動を繰り返し、最後には行き場がなくなって退職勧奨されてしまう人もいます。
将来を期待されるコア人材を育成するための異動と、行き場のない人に復活や再生の機会を与えるための異動。人事異動が多い人には、まったく正反対の2つのケースがあるのです。
また、ゼネラリストとスペシャリストでも異動回数は異なります。ゼネラリストは、広範囲にさまざまな知識やスキルを有する、部下やチームをまとめる管理職が期待される人材です。日本では、ジョブローテーションによって複数の職場を経験させ、視座と視野の形成をさせて育てていくのが基本となっています。
コア人材のほとんどは、ゼネラリストです。ゼネラリストは、長期的な視点で雇用し、複数の部署やさまざまな上司のもとで働くことを経験させることによって、長い期間をかけて適性を見て成長させていきます。そのため、一定の期間ごとに複数の部署・職種に異動させるのが通例となっています。
一方、スペシャリストは、高い専門性を有し、その専門性の発揮によって価値をもたらす人材です。スペシャリストは、特定の分野における専門的な知識や経験、熟練が求められているため、職種間の異動は基本的に想定されていません。同じ職種による地域間の異動か、近しい職種の部署への異動ということになります。そのため、ゼネラリストと比べると、異動回数は少ないといえるでしょう。
コア人材と行き場のない人、ゼネラリストとスペシャリスト、いずれにしても、人事担当者は戦略的に人事異動を行うことが必要です。人事異動というのは会社の人事権です。会社は労働契約に特定の規定がない限り、業務上において必要な人材を必要な場所に異動させる権限を持っています。その権限を活かして、適材適所の配置を行って人材を育て、生産性を高めていくことが、人事担当者の重要な仕事になります。
人事担当者にとって人事異動で最も大切なポイントは、社員の志向性を把握し、個々の希望を叶えることです。社員には、やりたい仕事をやってもらうことが一番です。それが生産性の向上にも繋がります。自己申告制度などを導入し、各々の社員がどのような志向性を持ち、どんな部署への異動を希望しているのかを情報収集をする。そのうえで、本人の希望が叶う場所に行ける方法を画策していく。これが人事の仕事です。
例えば、今の部署で活躍していて、このままトップ営業マンとして頑張ってもらいたい人は、あえて動かさないという選択肢もあるでしょう。でも本人が異動を希望しているのであれば、どこかで動かす必要があります。本人の希望だけでなく、現場の上司の意向も確認しておくことも重要です。上司の意向と本人の意向、双方をヒアリングし、自らの考えを持ち、各部門と話しながら、ベストな配置を目指していく。
もちろん異動希望をすべて叶えることはできません。希望が出ているからといって、すぐに異動させることが本人のためになるとも限りません。しかし、どんなに優秀な人材であっても、同じ部署で同じ仕事をしているだけでは、その後はなかなか成長しません。今の部署では活躍できていない人材も、新しい環境で復活・再生することも少なくありません。異動は、人を成長させる劇的な機会になるのです。
私も人事課長時代に社内の人事異動の担当をしていました。経営や管理職の要望、本人の希望などの情報によって、「この人はここに行ってもらった方がよいのではないか」「こちらの方が活躍できるのではないか」「この人にこの職務は難しかったようだから、別の場所で働いてもらった方がよいのではないか」などの仮説を立て、異動の起案を作り、人事権者(役員や本部長クラス)を回って調整していました。
人事異動の調整業務は、人事担当者の醍醐味です。現場の上司を説得するなど困難を伴うことも多く、ひとつの異動を実現するのに複数年かかることもありますが、自身の異動案が実現し、その結果として社員がいきいきと活躍している姿を見ることができるのは嬉しいものです。5〜10%程度の社員が「自己申告に書いたら異動が実現しちゃった」「希望が叶った」などと喜びを触れ回ったら、社内の雰囲気が変わり、会社への信頼も高まります。
人事異動をする人と人事異動をしない人。これは本当にケースバイケースです。出世するにはどちらが良いとは言い切れませんが、できるだけ多くの社員の希望が叶うよう調整していくのが人事担当者の重要な職務です。社員が成長する最も大きな仕掛けとして「異動」という機会を積極的に作っていきましょう。
次回につづく

人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?

中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。

ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!

テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。

人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
バブル崩壊後、企業は採用を抑制し、ジョブ型雇用に切り替えようと試みました。
しかしその試みが上手くいった企業は少ないのが現状です。
ジョブ型雇用が注目を集める昨今、
会社は過去の教訓を活かしどのように動くべきなのでしょうか?
人手不足が深刻化する中、ますます重要になってきた採用活動。人が採れない原因は、採用方針にブレがあるからかもしれません。また採用できても早期離職に至るケースも増えています。求める人材像について、いま一度、確認してみることが大切です。今回は、「協調性/主体性」という観点で考えてみましょう。
上層部と現場の板挟みという人事担当者って多いですよね。
この状態ではどんな施策を打っても現場で働く社員との溝は深まるばかり。
場当たり的な人事制度ばかりになってしまい、「ブレて」しまうからです。
ブレる人事制度を生み出さないためには、人事ポリシーの策定が欠かせません。
人事担当者には、さまざまな能力が求められます。どんな職種でもそうであるように、人事に求められるのは「成果」を出すこと。成果につながる行動をするためには、人事として最低限必要となるスキルや知識を身につけなければなりません。成果のひとつは、「社員の成長」です。
新型コロナウイルスの影響によって消費が落ち込み、飲食店やショッピングモールなどの営業自粛も相まって、業績が低迷している企業が増えてきました。 こうした緊急事態、かつ長期戦が見込まれる時こそ、企業は数年後の展望を見据えた事業戦略を立てることが大事です。 こうして立てられた事業戦略をもとに今後の人事戦略を考えていきましょう。
このたび、代表西尾の著書「人事の超プロが明かす評価基準」が増刷となりました。
他の職種と同じように、人事担当者にも勉強は必要です。
とはいうものの、きちんと勉強している人事担当者が少数派というのもまた事実。
まずは通勤などの隙間時間でいいので、勉強習慣を始めてみませんか?
「頑張っていること」を評価したい、
という気持ちを持つのは悪いことではありません。
しかし、その気持ちを本当に評価に反映してしまうと、
社員の不満の元になってしまいます。