テレワークの普及、副業の推進、社員の個人事業主化、AIやRPAの活用――。働き方もキャリアプランも多彩になってきたアフターコロナの時代、「正社員」も「雇用契約」もすでに過去の遺物になろうとしています。そこで今回は、人事のプロフェッショナル集団、フォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)の著者・西尾太が、多様化するワークリソースの活用方法についてお伝えします。
前回は中高年のリストラについてお伝えしましたが、今後、人事が見直すべきことは年功序列や45歳の早期退職制度だけではありません。コロナ禍以降、急速に普及したテレワークによって「会社に行かなくても、ある程度パフォーマンスを出せるよね」と、全年齢の人たちの働く意識が変わってきました。テレワークを禁止にしている企業もありますが、今後オフィスワークにおいてはテレワークできない会社には人が集まらなくなっていくでしょう。
また、テレワークの普及によって今後は「転勤」という概念も薄れていくかもしれません。いろいろな地域で経験を積むことはコア人材の育成において必要なこととされてきましたが、最近は地方に転属しても転居はしないケースが増えてきました。週に1〜2回は地方拠点に顔を出して、あとはテレワークで仕事をこなす。そういう働き方が可能になってきたからです。
転勤を繰り返して、総合職として出世していく。そういうキャリアイメージは崩れつつあります。
すでに「転勤なし」という施策を打ち出している企業もあります。AIG損害保険は全国転勤を廃止しました。その結果、応募者が10倍になったといいます。テレワークを前提とした転勤制度や、ワーケーションの推奨なども、今後は視野に入れていく必要があるでしょう。
副業を認める会社も増えています。政府も推進の立場です。以前、ある官僚経験者に「なぜ政府が副業を促進するのか」と尋ねたことがあります。答えは「人手不足対策」でした。地方や中堅・中小企業の人手不足は深刻です。雇用の流動化を含め、副業によって、その対策をしていくのだそうです。副業を認める会社にとっても、社員が他社で働くことによって、自社にない知見を獲得し、自社の価値創造への貢献も期待できる、とされています。
働く側にとっても、リスクのある転職や独立・起業の前に、正社員としての安定を確保したまま、副業を通じて他社の業務に関わることで、多彩なキャリアに向けての経験を積むことができ、キャリアアップを図ることができます。副業は、会社と社員、双方にとってメリットがある取り組みといえます。今後は、副業OKの会社に人が集まっていくでしょう。
とはいえ、週5日フルタイムで働いてもらって副業OKと言っても、それでは土日に働くことになってしまいます。週3日、週4日勤務もできる制度にして、年収も5分の3、5分の4にする。また、社員を外に出すだけでなく、副業をしたい人を受け入れる仕組みを考えることも必要です。
タニタや電通のように、社員を個人事業主化して「個人事業主」として業務委託契約を結び、「他社の仕事をしてもいいですよ」という取り組みも始まっています。働き方が多彩になり、働く側の意識も変わってきました。人事は、こうした流れをしっかりとキャッチアップしなくてはいけません。
ひとつの会社や働く場所にこだわる意識が薄れ、「どこでも行ける人材」が求められていく超ジョブ型時代において、これからの人事がやるべきことは、大きく分けると2つあります。
ひとつは、雇用契約を見直すことです。たとえば、労働法や労働基準法は、テレワークやワーケーションを想定していません。「会社が指定した場所で、労働契約を結んだ時間は働いてください」というのが現在の雇用契約ですから、成果を出せば働く場所は自由、というリモート時代の働き方には適さないものになっています。
また、若く優秀な人材は、雇用契約にこだわっていません。マーケティング、人事、IT、広報、営業など、それぞれの得意分野を持ち、「自らやりたい形で価値を出す」ことを考えています。そのため、拘束される「正社員」には興味を持たず、雇用契約を結ぶにしても「できれば業務委託のほうがいいんですよね」といって、あえて有期雇用を選んだりする人が増えています。優秀な人ほど、無期雇用の正社員にこだわらない傾向になってきているようです。
これからの時代、人事が「正社員希望者」だけを追っていたら、優秀な人材をみすみす見逃してしまうかもしれません。副業、個人事業主化、業務委託、週3・週4勤務、クラウドソーシングなど、多彩な働き方・契約形態を認める仕組みをつくっていくことが必要です。
そもそも、なぜ無期雇用でフルタイム働く「正社員」だけを重宝しなければいけないのか。テレワークも副業もクラウドソーシングも進んでいく昨今、なぜ労働力の確保が「雇用契約」でなければならないのか。そこから見直す必要があるのではないでしょうか?
もうひとつは、人事部の役割を見直すことです。DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が注目されています。進化したデジタル技術を浸透させることによって、人々の生活をより良いものへと変革する。この概念は、コロナ禍においてのテレワークの浸透で改めてクローズアップされることになりました。
テレワークが当たり前になった人々は、「実は会社に毎日行く必要なんてなかったよね」「わざわざ集まらなくても会議なんてZoomで出来るよね」「時間とお金をかけて出張しなくてもオンラインで話せばいいよね」と多くのことに気がつき、働き方への意識が大きく変わろうとしています。
さらに注目すべきなのは、AIとRPAです。AI、つまり人工知能の活躍はすでに広く社会に認知されていますが、RPAを活用する企業も増えてきました。RPAとは、ロボティック・プロセス・オートメーションの略で、一言でいえば「パソコンの中にいるロボット」です。オフィスワーカーがPCを用いて行っている事務作業を自動的にこなしてくれます。
RPAは非常に優秀です。自らブラウザを立ち上げ、IDとパスワードを入力し、必要な場所をクリックし、必要なデータをダウンロードし、エクセルに添付し、加工し、メールに添付して送るまで、まるで誰か人間が操作しているかのように動きます。RPAの導入によって業務の効率化に成功し、拠点をひとつ減らすことができた企業もあります。
しかもRPAは、何人分もの仕事をこなしてしまうのに、導入費用は毎月5万円というものもあります。ロボットですから、365日24時間働いても、残業手当も、有給休暇もいらず、不平不満もいいません。
人事はこれまで正社員しか見てきませんでした。非正規の人材については現場に任すことがほとんどでしたが、今後は、副業、業務委託、クラウドソーシングなども含めて、ヒューマンリソースを全社的にマネジメントしていくことが必要です。さらに「人」に限らず、AIやRPAなど「機械」も含めて、ワークリソース全般を統括管理することが人事の仕事になっていくでしょう。
もちろんAIやRPAについては、人事部門だけで考えられるわけではありません。CTO(最高技術責任者)やCIO(最高情報責任者)といった技術部門のリーダーと共に考えていかなければなりませんが、今後は人事、総務、経理、財務、情報システム、法務などの縦割りから脱却し、最適な労働力をマネジメントする「総合ワークリソース」の最適化に取り組む企業が成長していくはずです。
人事担当者の皆さんは、雇用契約や人材活用の方法を見直し、「第4次人事革命」への対応に取り組んでいっていただきたいと思います。
次回につづく
人事という職に就いたならば、読む“義務”がある1冊
成果主義、職務主義、年俸制、人事部廃止… 90年代から変わらぬ「人事」の構造、変わらぬ平均給与額が、日本を世界トップクラスの「社員が会社を信頼しない国」へと導いたのです。
なぜ変革が進まないのか、その背後に潜む「考え方」の欠如とは何でしょうか?
中学時代に習ったこと、覚えてますか?
多くの人にとっては、すべての勉強の基礎になっている大事な「当たり前」のことですが、思い出せと言われても思い出せる方は少ないでしょう。
この「この一冊ですべてわかる 人事制度の基本」には、人事の当たり前が詰まっています。
ー「なぜ、あの人が?」
なぜ多くの企業で「評価基準」が曖昧になっているのでしょうか。
どうすれば給与が上がるのでしょうか。
11,000人超の人事担当者から絶大な支持を得るコンサルタントが、今まで9割の会社が明かさなかった「絶対的な指標」を初公開!
テレワーク時代には「ジョブ型」に留まらず、「超ジョブ型人事」が不可欠。
その一番の理由は、テレワークをはじめとするこれからの働き方には「監視しない事が重要であるから」です。
人事の“必須科目”を押さえる
プロの人事力
次のステージに向けて成長するためのキホン
人事担当者に必要な知識・学び方、仕事に対する心構え、業務との向き合い方、さらには人事マネージャー、人事部長へとキャリアアップするために必要な能力・スキルを一挙公開
AIや副業やアウトソーシングといった多様化する昨今の働き方。
様々な雇用形態から最適なリソースを選び取る必要がある
人事という役職に求められる人事統括としてのポジションとは。
新卒の3割は3年で辞めてしまう。これは昔から人事担当者の常識のようになっていましたが、近年は半年未満で辞めてしまう人も増えているようです。なぜ新卒はすぐに離職してしまうのでしょうか。実は「若い人が辞めていく企業」には共通する特徴があります。あなたの会社は大丈夫ですか?
人事担当者が持つ人事のお悩みは、なかなか共有することも難しいため、
自分の(あるいは部署内の)力で解決しなくてはならないことも多いでしょう。
今回は、人事1年目から人事としてキャリアアップしたい人まで、
多くの人事担当者に読んでいただきたい本を3冊ご紹介します。
いま再び注目を集めている「ジョブ型雇用」や「成果主義」は決して新しい考え方ではありませんが、これからの働き方を考える中では重要な要素です。 その実現のためにはジョブディスクリプション(職務記述書)が必要とされています。しかし、ジョブディスクリプションの策定や運用には、様々な課題も想定されます。 「働き方」「雇用のあり方」「管理のあり方」「評価のあり方」「給与・処遇のあり方」といった「考え方」そのものをどこまで変えるのか、といったことをよく考える必要があります。 今回は代表西尾から、これからの時代の働き方や評価についてお伝えしていきます。
バブル崩壊後、企業は採用を抑制し、ジョブ型雇用に切り替えようと試みました。
しかしその試みが上手くいった企業は少ないのが現状です。
ジョブ型雇用が注目を集める昨今、
会社は過去の教訓を活かしどのように動くべきなのでしょうか?
脱・年功序列とは、社員のパフォーマンスを適切に評価し、パフォーマンスに応じて給与を比例させる仕組みを構築することです。人事担当者は、人事ポリシーをもとに、一貫性のある評価制度や給与制度を構築する必要があります。脱・年功序列を成功させるためには、3つのポイントが重要です。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、脱・年功序列を実現する人事制度の作り方をお伝えします。
年功序列の処方箋としてブームになった成果主義やジョブ型雇用で、日本企業は本当に「脱・年功序列」を実現できるのでしょうか? 多くの企業はポリシーを持たずに、小手先の手法を取り入れて痛手を負っています。手法の導入だけに走った企業はどうなってしまうのか、改めて考えてみましょう。総合人事コンサルティングのフォー・ノーツ株式会社の代表であり、『超ジョブ型人事革命』(日経BP )の著者・西尾太が、年功序列を脱するための方法についてお伝えします。
JBpressにてビジネスパーソン向けのWebコラムを12月11日(水)よりスタートいたしました。